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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第4章 魔を統べるモノと落日の獣王
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第26話 獣王

 獣王は歩き続けた。

 全身は傷だらけ、意識は既になく、明らかに瀕死の状態だった。

 それでも王は歩き続けた。


 ・


 勝負はついていた。ディーファの圧勝、だったはずだ。レグルスは間も無く死ぬ。

 それなのに彼はまだ動いている。

「何故まだ動く・・・」

 歩き続けるレグルスを、ディーファは息を呑んで見つめていた。


「分かんねえのかよ?」

 ディーファの言葉に反応したのだろう、レグルスの瞳には光が戻っていた。

「決まってる・・・コフッ・・・仲間のためだろが」

 レグルスは血まみれの笑みを浮かべた。

「王ってのは・・・仲間のために戦うもんだ」

「分からんよ、私は王ではないからな・・・」

 ディーファは力なく首を振った。


「降伏しろ、命は取らないと約束する。早く治療すれば、助かるかもしれないぞ」

「阿呆が、舐めんなよ馬鹿野郎が・・・情けなんざいらねえよ」

 ディーファの勧告をレグルスは笑い飛ばした。

「命なんて・・・最初(はな)っからどうでもいいんだよ」

「おっ、おい!」

「情けは敗者への侮辱だ・・・さっさと俺の心臓・・・ぶち抜きやがれ・・・それで終わりだ」

 レグルスは失った両手の代わりに、その視線で自らの心臓を指し示した。


『ここを撃て』と


「心臓?そこに何かあるのか?」

 死に掛けたレグルスの瞳には、まだ強い意志があった。

 何かを察したディーファは、『特視』の魔法術式で心臓を見た。

「アメリアの死の呪い・・・それは禁呪なはずだ」

 その時のディーファの顔面は、蒼白に染まっていた。


 この時に至り、ディーファは全てを察した。


 獣人達が何故無謀な攻撃を仕掛けたのか。

 何故途中で撤退しなかったのか。

 そして何故レグルスが倒れないのか。

 何故なら、彼等は死ぬまで戦いを止められないのだから・・・


「皆そうなのか・・・」

 ディーファは震え声の尋ねた。

「さっさとやれ・・・時間がねえんだよ」

 レグルスは口から鮮血をほとばしらせ笑った。


「てめえ大将だろ・・・なに震えてんだ。さっさと撃てよ・・・早く撃って・・・くれよ」

「何とかして呪いを・・・」

「俺たちにはもう時間がねえんだよ!」

 ためらうディーファにレグルスが怒声を浴びせた。

「てめえも戦士だろが!俺は戦士として死にてえんだ!呪い殺されるなんざのごめんなんだよ!」

 それが最後の力なのだろう、鮮血を吐きながらレグルスが叫んだ。


「もうやめろ!このままだと死ぬぞ!」

「生きくなんてねえ!俺は仲間を殺したんだ、沢山、沢山だ!そんな資格なんてねえ!殺せよ、殺してくれよ!せめて戦士して死なせてくれよ・・・頼むから」

「レグルス・・・」

「俺が生きてれば仲間が死ぬ・・・もう誰も死なせたくねえ」

 レグルスは再び多量に吐血した。

 そしてとうとう歩けなくなり、その場に片膝を着いてしまった。


「頼む・・・死なせて・・・くれ」

 レグルスは泣いていた。

 目に涙を浮かべ、弱々しい声で懇願していた。


 それが魂の叫びだと、ディーファは理解した。

「獣王レグルスよ、私は勝者としてお前を殺す」

 ディーファは震えを抑え、厳かな声で述べた。


 この場に多くの者達がいるが、誰も何も言わず、物音一つもない。

 今ここは静かさに包まれていた。



 ディーファが右手を挙げる。

 すると光の球が巨大な槍へと姿を変えた。


「獣王レグルス、あなたと戦えたことを誇りに思います。あなたこそ真の王でした」

 ディーファが僅かに震える右手を振り下ろす。

 その瞬間、光の槍が降り注ぎレグルスの心臓を貫いた。


 心臓を貫かれた時、レグルスは穏やかに笑っていた。

「・・・ありがとよ」

 静かにそう告げると、獣王はゆっくりと崩れ落ちた。


 ・


 これで良いんだろうな。

 俺のせいで仲間を死んだ。

 生きる残る資格なんてない。


 だけど、ミャオ達は生き残って欲しい・・・


 ・・・まだ終われない



 獣王は抗う事を選んだ。

 心臓を貫かれても、彼にはやるべき事があった。

「・・・頼む。もう・・・仲間を殺さないでくれ・・・お願いだ・・・」

 虚ろな瞳に涙を湛え獣王は懇願した。


 ・


「悪いのは・・・全部俺だ・・・だから・・・殺さないでくれ・・・」

「そこまでしてお前は仲間達を・・・」

 死の間際のレグルスの寄り添い、ディーファは最期の言葉を聞いた。


 この時、ディーファは何故かアレフを言葉を思い出していた。


『部下を守ることが、大隊長の君の役目だ』


 確かそんな事を言っていた。

 当たり前のことだが、あの時は反発して受け入れなかった。

 しかし今思い出した。


 理由は分かる。

 レグルスはアレフの言っていた、当たり前の事をやっているのだ。

 懸命に、命を賭けてだ。


「頼む・・・頼む・・・・」

 彼は間も無く息絶える。それでもなお懇願を止まない。


 獣王レグルスとアレフ、彼等は姿形も性格もまるで違う。

 しかし似た存在だと知った。

 彼等は王だったのだと。


「私は未熟だ・・・あなたの様にようになりたい・・・」 

 ディーファはそう呟く中で、心はもう決まっていた。


「レグルス、あなたの仲間を助けると願いを約束します」

 そう答えた時、ディーファの瞳から涙が溢れ出ていた。


「ありが・・・とう・・・・」

 その言葉を最後にレグルスは意識を失った。

 まだ死んではいないが、間も無くだろう。それは間違いなかった。


「全隊に通達だ!直ちに攻撃を中止せよ!」

 ディーファは出来るだ大声で叫んだ。何とかしてレグルスに聞かせたかったからだ。


「一同気を付け!勇気ある戦士に注目!」

 立ち上がったディーファの号令に合わせ、戦士達全員が、直立不動でレグルスに注目した。


「獣王レグルス、貴官の勇気に最大の敬意を!一同、敬礼!」

 ディーファに続き、全員が右手を掲げ敬礼を送った。 


 それは戦士達が贈る最大の賛辞だった。


 ・


 悔いがないといえば嘘になる。

 だけど馬鹿なりにやれる事はやった・・・

 頼む、誰か生き残ってくれ・・・

 それがたった一つの願い・・・


 消えゆく意識の中、儚い願いを空へと送る。

 朝日が雪原を染める中、獣王は静かに息を引き取った。

次は1月31日更新予定です。

次でこの章は一段落となります。

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