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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第4章 魔を統べるモノと落日の獣王
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第24話 絶対なるモノ

 野戦病院の中、疲れ切った様子のイリスが椅子にへたり込んでいる。

 クリスはその様子を優しげな眼差しで見守っていた。


 ルマイは助かった。イリスの治癒魔法術式のおかげだ。


 ルマイの治療はほぼ終わっていた。まだ火傷が残っていたが、感染症を気を付ければ生命に別状はないだろう。


 イリスはこの火傷も治そうとしていたが、クリスは半ば強引に休憩を取らせた。

 今後負傷者が出るかも知れず、まだ彼女を力尽きさせるわけにはいかない。


「魔力充填剤よ。無理にでも飲んで少し眠りなさい。それが今のあなたの仕事よ」

 クリスは笑顔で労いつつ、液状の魔力充填薬を差し出した。


 これに慌てたイリスが立ち上がろうとしたが、クリスが身体を押さえ立たせなかった。

「休みなさい。これは命令、分かったわね?」

「はい」

 頷いたイリスは、まだ青ざめた顔で魔力充填剤を飲み始めた。


 少しづつ飲み続けるイリスの頬からは大量の汗が伝い落ちていた。

 クリスは微笑みなからイリスの汗を優しく拭った。

「ルマイは私の同期だったの。あなたは私の大事な同期を救ってくれた恩人、本当に感謝しています」

 クリスは感謝の言葉を述べたが、イリスには聴こえていなかったようだった。

 疲れ果てたイリスは既に安らかや息を立て眠っていた。


 ・


 戦局は落ち着きつつあった。

 指揮代行を任されたクリスも、今は余裕があった。イリスの様子を見ることが出来たのもそのためだ。


 今の懸念は大隊長とレグルスの戦い、そして地下道のアレフの動向だ。

 。

 しかし負けるはずがないと安心していた。

 後はバレットがレグルスの戦いで負傷した事だが、幸いにも生命に別状はない。今はイリスの休憩を優先し、後回しにしても良いだろう。


 治療がひと段落して安堵の空気が流れる中、突然何か変わった。

 何かは分からない、しかし何かが起きた。それをこの場の誰もが分かっていた。


 それはまるで空気と時間が止まったような、そんな変化だった。


 理解不能な恐怖に誰もが固まっていた。

 そんな中、ソレはいつの間にかいた。


「素晴らしい治癒だったわ。100点満点よ。教師は誰かしら?あたしは治癒魔法術式なんか誰にも教えてないのだけどねえ?」

 その声に誰もが凍りついた。


 その声は聞き覚えのあり、しかしもう存在はしないはず。


「ライファ大隊長、生きていたのですか」

 皆もが絶句する中、クリスだけが呻くように呟いた。


「そうよ。見て分からないかしら?」答えたのは赤髪の美女だった。

 彼女の名はPT.アルマ.ライファ

 魔力強化体第二大隊の前大隊長にして現大隊長ディーファの姉

 そして一年前の戦いで行方不明となり、死んだものと思われていた。


 以前の上司が生きていた。

 そんな事実を目の当たりにしながらも、クリスの顔には喜びはない。

 ただ驚愕と恐怖に歪んでいた。

「ライファ隊長、あなたはどうしてアメリアの軍服を着ているのですか。裏切ったのですか」

「さてどうしてかしら?うふふ・・・」

 クリスの質問を嘲笑で返すライファ

 その姿は赤を基調とするアメリアの士官服に包まれている。

 これが何を意味するのか想像に難くない。


「お答え下さい!」

 クリスはライファに叫びながら、後ろ手で隊員達に合図を送っていた。最悪の事態に備えるためだ。

 既にライファは敵とみなしていた。


 ライファはわざとらしく首を傾げた。

「不思議ねえ、どうして当たり前の事を聞くのかしら?アメリアに寝返ったからに決まってるでしょうに」

「くっ!」

 予想通りだが聞きたくなかった、とクリスは歯軋りをした。

「どうして!どうして裏切った!沢山仲間が殺されたのに」

「簡単よ、あなた達のお守りに嫌気がさしたからよ。だーかーらー、情報を流して部隊を襲わせたのよ。あはっ!あの時は本当に愉快だったわ!馬鹿な劣化品がもっと下等な獣人どもに殺されたんだもの。あははははは!」

 愉快げにそう語りと、ライファは嘲笑の声を高らかに上げた。


「想定5!ライファは敵だ、動け!」

 クリスは大声で部下達に命じた。


 あらかじめいくつかの事態を想定し、それぞれの対応に番号を定めていた。

 1は警戒体制で、番号が進むほど自体は重くなり、5とは最悪の想定だ。

 想定は全滅前提で最優先目標を逃し抜くこと。

 最優先目標とはイリス、唯一治癒魔法術式がこの隊の希望、絶対に失うわけにはいかない。


 幸いにも眠っていたイリスは起きていた。そこを護衛部隊達が取り囲む。

 彼等は盾だ。犠牲となって盾となり、その間にイリスを安全圏まで逃す。


「あら、彼女が大事なの?そっか治癒魔法術式はまだあまり広がってないのね」

「ちっ」

 ライファの言葉にクリスは舌打ちした。

 守ろうとした事が興味を持たせ、逆に危険に晒す事になった。

 完全に裏目だった。


「何をしてる!早く行け!」

 焦るクリスが怒鳴った!

 同時に、護衛隊員達が向けて走り出した。

 半分はイリスを連れ、ライファから逃げる様に。

 そしてもう半分は時間稼ぎのため、ライファに戦いを挑むために。


 ライファに向かった者達は3名

 彼等は三方から一斉に短剣で斬り掛かった。


 そして燃え尽きて消えた。

「邪魔よ」

 燃え尽きた灰を見下ろしながら、ライファは心底つまらなそうに呟いた。


 ライファの放った業火の魔法術式が、一瞬で隊員達を焼き尽くした。

 しかしそれを見た者達は何が起きたか理解できても、理性がそれを拒否してた。

 あまりにあり得ない出来事だった。


「あーはっはっは!駄目ねえ、本っ当に駄目!粗悪な模造品じゃあお話にならないわ!」

「む、無詠唱だった。なのにどうしてあそこまで威力が・・・」

 ようやく理解したクリスが呻いた。


 無詠唱の術式は威力が大きく落ちる。人体を一瞬で灰にする事などあり得ない。

 それはもう生物の範疇を超えた奇跡だ。


 辺りにはライファの嘲笑が響いていた。

 クリスは恐怖で身動き一つ取れなかった。

 それは逃げていた者達も同じで、誰もがそこに立ち尽くしていた。


「クリス、久しぶりね。おめでとうら出世したようね」

 ライファはクリスの傍に歩み寄ると、彼女の耳元で囁いた。

「ねえ、あなた達に治癒魔法を教えたのは誰なのかしら?」

 それはゾッとするな冷たい声だった。

 この時、クリスは確実な死を予感していた。


「知らない、知っていても教えない」

 クリスは勇気を振り絞り拒絶した。


 言えばアレフは殺されるだろう。

 これはまだ必要だ。

 イリス同様に失ってはならない。


 それきりクリスは震えながらも沈黙を貫いた。


「あらあら、だんまりなのね。そう言えばあなたって分隊長の頃から頑固だったものねえ。まあいいわ。ならあの子から直接聞くわ」

 ライファは妖しく微笑むと、視線をイリスへと移した。


 ・


 クリス達は動けなかった。

 蛇に睨まれたカエル、そんな生優しいものではない。

 ソレはまるで絶対者、比べてばこちらは塵にすらならない。

 それ程の差だった。


 歩み寄るライファを前に、イリスと護衛者達は動く意思すら許されない。


「あら?あなたはもしかして」

 イリスを見るライファの瞳に、興味の光が浮かんだ。

「そうイリス!イリスよね!とても弱くて使えなかったから逆に覚えていたわ」

 ライファの言葉にイリスを一歩後ずさんだ。

 震える彼女の胸には、何枚かの紙束が抱かれていた。


 その紙束がライファの目についた。

「ねえ、その大事そうな紙は何かしら?ちょっと見せなさいな」

 ライファはイリス達に近付くと、無造作に護衛達に手拳を放った。

 ライファの遅い拳を何故か誰も避けられない。

 鳩尾に拳を打ち込まれた彼等は、意識を失い崩れ落ちた。


「よこしなさいな」

 ライファが硬直したイリスから紙束を奪い取った。

「さてさて、何が書いてあるのかしら?」

 ライファは興味深そうに読み始めた。


 それは治癒魔法術式の資料の一部で、アレフがイリスのために作ったものだった。

 紙面には、治癒魔法の展開図、使用法、各種注意等々が詳細に記載されている。


「ふぅん、かなりの経験者のものよね。誰かしら?アーティア姉様の字ではないし、ファティアも教えるわけないし・・・」

 内容を読み進めるにつれ、ライファの目が細められ、表情は厳しくなっていった。

「しかも私のものより洗練されてるし、応用も効くようなっている。しかもかなり簡素化ね。筆者は相当の実力、大魔道師以上よね。でも、ちょっと変よおかしいわ」

 紙上の術式を眺めながら、ライファは不思議そうに首を傾げた。

「これだとこの星では効率が悪いのよねえ。アスタルあたりが最適なんだけど・・・もしかして最適化されてない?・・・別の宇宙だから?」

 別宇宙と言う言葉にイリスの目が僅かに動いた。


「へえ・・・正解らしいわね」

 ライファはイリスの動きを見逃していなかった。

「やっぱり別の宇宙のものなのね。だとしたら別の宇宙からやって来た奴がいる。そう言う事ね」

 その時、ライファの紅い瞳に狂気が宿った。


 ライファは両腕を広げ遥か天を仰いだ。

「あははははははははははははははははははははは!あははははははははははははははは!そうか!そうか!そうかぁ!」

 彼女は高らかに狂気の笑い声を上げた。


「主神の野郎が死んでも、まだ生きていた模造品どもかいたのか!見てろよ、くそったれの分神(わかつかみ)ども!お前達も模造品どもも殺してやる!お前達が利用した破滅の力で魂ごと滅してやる!」

 硬直するイリス達に目もくれず、ライファは笑い続けた。


「殺してやる!殺してやる!殺してやる!全てを殺してやる!全てを滅ぼしてやる!あはははははははははははははははははははははははははははは!

 あはははははははははははははははははははははははははははは!」

 そこでようやく狂気の笑いが止んだ。


 ライファが狂気の笑顔で、震えるクリスへと振り向いた。

「ありがとう、良いことを教えてくれて感謝するわ。そのお礼に生かしておいてあげる、今日だけはね」

「え・・・あ・・・」

「そんなに怖がるなんて哀しいわ・・・あはは、冗談よ。さようなら寝坊助ディーによろしくね」

 そう告げると、ライファは遥か空へと飛び去っていった。


 残ったのは立ち尽くすクリス達と、焼け尽きた隊員達の跡だけだった。


 ・


 ディーファは迫り来るレグルスを冷静に待ち受けていた。


 先のバレットとレグルスの戦い

 実は途中から一部始終を見ていた。

 しかしディーファは戦いを止めず、敢えて見守っていた。

 バレットはレグルス戦にと努力を積み重ねてきた。その努力を無駄にしたくなかった。

 それと同時に、戦うレグルスに何か共感を覚えてためらったのもある。


 戦いの結果は予想通りで、バレットが負けた。しかしこのまま殺させるつもりはない。


 だから止めるつもりだったが、レグルスは自身の意思で殺さなかった。

 これは予想外だった。


 そんなレグルスの心中は分からない。

 多分だが、アレフなら分かってしまうのだろうが、自分には無理だろう。

 どうでも良い。

 今は全力で殺しあうだけだった。


「我は魔を統べる者、全ての力よ、我が意に従え」

 ディーファの唱えたそれは魔法術式ではない。

 力ある言霊で現象を具現化する、ディーファ達姉妹だけが使える技だった。


 力ある言霊に導かれ、周囲の存在が彼女の意思に応え始まる。

 大地から、雪原から

 枯れかけた木々から、地に転がる石から、

 そして魔力強化体達からも。


 彼女の呼び掛けに全てが応え、秘めた魔力を放出した。


 放たれた魔力はディーファの頭上で結集し、数多の赤い光球となった。


 生み出された魔力のおよそ500

 その全てに膨大な魔力と熱量が秘められている。


 その光景を前にレグルスが立ち止まった。

「ファティアと同じかよ!化け物が!」

 レグルスがあらん限りに咆哮したレグルスが再び掛け始めた。


「舞え、舞え、舞え。優雅に、そして圧倒的に」

 ディーファが右手を頭上に掲げた。すると光球に変化が生じた。


 ある球は光の剣に、ある球は槍に、鎖に、焔に、雷にとあらゆる武器へと姿を変えた。


「唄よあれ」

 ディファーの言霊に導かれ、数多の光がレグルスへと注がれた。


 ・

「ふざけるなぁー!」

 レグルスは叫んだ。

 広い場所ならともかく、狭い通路では避けようもない。

 それでも止まることは許されない。

 だから彼は迫る光の中へと突撃した。


 もう戦う力なんてない。

 避けることも出来ない。

 出来るのは受けて、それでも走るだけ。


 槍と剣とが右腋を貫いた。

「まだだ!」

 まだ走れた。

 焔が右目を焼いた。

 それでもまだ左目で見えた。


 雷で全身を痙攣した。

「まだ・・・だ!」

 震える足を殴りつけ強引に動かした。


「くそ!放せよ!」 

 動かない左腕に絡みついた飾りが、そのまま大地に縛り付けようとした。

 咄嗟に左腕を引きちぎり難を逃れた。どのみち左腕はもう使えない。


「まだ・・・だ・・止まれない・・・行くんだ」

 手も足も、胸元も脇も、貫かれて、焼かれても、それでもレグルスは止まらなかった。


「終われ・・ないんだ。戦うんだ・・・俺は仲間のために・・・」

 全身は傷と鮮血と真っ赤に染まっている。

 無傷な所などなく、激痛に全身と意識が悲鳴を上げる。

 それでも止まれない。


「俺は獣王・・・レグルスだか・・・ら・・・まだ・・」

 薄れゆく意識の中、レグルスは進み続けた。


 ・


 殺し合いに情けはいらない。殺される前に殺すだけ。

 それがディーファの考えだ。

 しかしその考えが少し揺らいでいた。


 レグルスに致命傷を与えた。彼の死は時間の問題のはずだった。

 しかし彼はまだ進み続けている。

 予想した時間はとうに過ぎていた。


 ディーファは心臓の鼓動が僅かに早くなるのを感じつつも、淡々と光を撃ち続けた。


 光の槍をレグルスの両足へ打ち込んだ。

 狙い通り彼の脚は地面へと縫い付けられた。


「まだだ!まだ・・」

 とうとうレグルスの歩みが止まった。


「ぐあー!!!!!」

 咆哮するレグルスに、残った100を越える光が殺到した。


 レグルスは残る右腕を盾代わりに振い続けた。

 右腕の肉が抉れ、骨が削られ、やがて肩から先が消し飛んだ。


 両腕を失い残るは両脚だが、今は地面に縫い付けられた。

 守れず、動けず、争う術は全て消えた。

 次の狙いは頭、それで終わる。

 打ち出した光の短剣がレグルスの胸に突き刺さる。

 声もなく獣王は崩れ落ちた。


 これで終わったとディーファは確信していた。

 それは見守る部下達も同様だろう。

 間もなく獣王は生き絶えるだろう。


「・・・せめて・・・せめてあと・・・少し・・・時間を・・・」

 瀕死の獣王が足を震わせ立ち上がった。

 信じられないと、ディーファ達の目が見開かれた。


「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 起きあがろうとするレグルスの咆哮が響いた。

 彼の瞳の光はなく、意識もないだろう。

 それでも獣王は立ち上がり、そしてゆっくりと進み始めた。


「何がお前をそこまで突き動かす」

 ディ-ファは何度も首を振り続けた。

「獣王レグルスよ、お前に心から敬意を表す。勝負はついた、降伏しろ。悪くないよう取り計らう」

「止まれるかよ!」

 レグルスが叫び拒絶した。


「ここでおれが止まったら、あいつらの死が無駄になる。未来がなくなる!」

「未来だと?」

「欲しいの未来だけだ。だから俺達は・・・俺たちは・・・・マリニア様に・・・助けを求があああぁぁぁ・・」

 突然吐血したレグルスがその場に崩れ落ちた。


 突然の出来事をディーファは理解できなかった。

「マリニア様に助けだと?どういう事だ・・・」

 新たな疑問と呆気ない幕切れに、ディーファは呆然と立ち尽くしていた。

5話以降、改稿のためお時間を頂きます。

次は19日更新予定です。

やっと主人公がでます。


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