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白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第4章 魔を統べるモノと落日の獣王
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第23話 勝者の思い

 レグルスとバレット、両者の初撃は互いの顔面へと決まった。


 レグルスの拳は獣人特有の怪力で打ち込まれたもの

 対するバレットは拳は肉体強化の魔法術式が施されている。

 威力はほぼ互角、しかし結果は違っていた。


 バレットは吹き飛ばされ、レグルスはその場に踏み止まっていた。

 最初の軍配はレグルスに上がった。


「まじ・・かよ・・・」

 仰向けに倒れたバレットは、飛び起きながら呻いた。


 強くなったつもりだった。

 レグルスに負けてから、常に身体と技を鍛え続け、実践を積み重ねてきた。

 全力全霊の最高の一撃だった。

 それなのに打ち負けた。

 この男にはまだ及ばないのか。


「何でお前は立ってられる!俺は弱いのか!」

 バレットの本音の叫びが吐露していた。


「お前は強い。間違いなくな」

 レグルスは嬉しそうに笑っていた。

「強くなった。嘘じゃねえぜ。俺じゃなきゃぶっ飛ばされてた」

「平気そうな顔してよく言うぜ。皮肉かよ」

 賞賛を素直に受け取れないバレットは苦笑するだけだった。


「俺は真の戦士を馬鹿にしねえ。これはマジの褒め言葉だ。お前は強くなってくれた。もう俺とそんなに差はねえ」

「差がないだと?だったらお前は何で立ってられた!俺は駄目で、どうしてお前だけが平気だったんだよ!」

「ん?・・・ああそうだな」

 吠えるバレットを前に、レグルスは哀しそうな空を見上げた。

「そいつは背負ってる重さの差ってやつだな。なんの因果か、重すぎるもん背負っててよ、倒れていられねえんだ」

 そう言って寂しそうに笑うレグルスの姿に、バレットは少なからず感銘を覚えた。

「俺だって」

 バレットは思わずぼやいていた。


 自分とて魔力強化体第二大隊第二中隊長

 部下120名の命を背負っている。

 背負う重さはレグルスより軽いとは思えない。

 それで奴が倒れないのなら、自分だって倒れられない。

 奴との差は覚悟の差だ。

 背負ったものにどこまで覚悟を持てるかの差だ。

 だからもう倒れない。


 バレットの目つきが変わった。

 両拳を握りしめ、レグルスに向けて構えた。


「面が変わったな。この土壇場で一皮剥けるとは大したもんだ」

 感嘆の声を上げたレグルスが、再び拳を構え直していた。


「感謝する。お前と同じだ、俺も引けない。もう少し付き合ってもらうぞ!」

「構わんぜ、好きなだけな」

 言い終えると同時に再び互いの拳が交差した。


 互いの拳が互いの額に打ち込まれた。

 しかし今度は完全に互角で、どちらもその場に踏み止まっていた、


 再び二つの拳が交差し、今度は互いの腹部を打ち合った。

 どちらも苦悶の表情を浮かべるが、後ろには引かなかった。

 どちらも立ち止まり、何度も何度も拳を交え続けた。


 折れた歯が飛び、弾ける鮮血が雪原を染める。

 それは凄惨な殺し合いなのだろう。

 それなの当の本人達は何処か楽しそうに殴り合い続けた。


 それを邪魔する者は無粋なのだろう。

 バレットの部下達はただ固唾を飲んで見守っていた。


 ・


 始まりがあれ終わりある様に、戦いにもまた終わりが訪れる。


 始めは互角だった戦いも、少しずつ力の差が現れ、終わりが来ようとしていた。


 上回ったのはレグルスだった。

 それは地力の差か、はたまた勝利への執念の差なのか分からない。

 分かるのは、両者にはほんの少しの差しかなった事だ。


 その差が少しづつ積み重なり、やがて大きな差となり現れていた。


 少し上回ったレグルスの拳の数は、やがて明らかに上回り、それから一方的なものへと変わっていた。


 既にバレットの流血で両目が塞がり、もうまともに拳を打てない。

 そしてそんなバレットにレグルスの拳が打ち込まれた。


 あばらが折れ、鼻がつぶれ、こめかみが砕かれていた。

 もはや防戦一方だったが、それでもバレットは引かずに倒れなかった。


 レグルスの拳がバレットのみぞおちへと深々と打ち込まれ、それが最後の決定打となった。

 とうとう意識を失ったバレットが、その場で前のめりに崩れ落ちた。


 どちらも最後まで引かず。

 しかし戦いはレグルスの勝利で終わった。


 ・


 倒れたバレットは、その時に頭を打った衝撃で、直ぐに意識を取り戻していた。

 起き上がろうとするが、身体が動かない。

 辛うじて頭だけを上げると、呆れ顔のレグルスが見下ろしていた。


「普通なら、俺の勝ちだと言いたいんだけどな。おいバレットお前、何で魔法術式を使わなかった?遠くから魔法を打ちまくってれば勝てた勝負だろうが」

 顔は呆れるレグルスだが、その声は優しかった。


「俺は・・・お前の様に強くなりたかった。だから同じ戦い方をしたかった。正面からぶつかりたかった。そうじゃないと意味がなかった」

「お前、あれを舐めてんのか?」

「舐めんな馬鹿野郎が」

「・・・馬鹿はお前だろうが」

「お前だって爪なり牙なり使えば簡単に殺せただろうが。わざわざとつき合いに付き合いやがってよ」

「かかが、そういやそうだったな。俺もお前も馬鹿だ。どうしもない大馬鹿者だ」

「はは、違いない」

 いつしか彼等は心から笑い合っていた。


「勝負がついちまったんだな」

 レグルスは名残惜しそう呟いた。

 それからバレットから視線を外すと、見守る彼の部下達を見回した。


 普通ならこの場で上司を助けに襲い掛かる。

 しかし彼等は上司の命令に忠実だった。涙目に口惜しそうながら、この先の待ち受ける結末を邪魔しようとしない。


「良い部下達だな」

 レグルスから本音が漏れ出ていた。

 彼にも多くと部下達がいた。

 今は過去形でもう誰も背中にいない。


「羨ましいだろ、俺の自慢の部下だ」

「だからお前が先頭で出たんだろ。気持ちは分かるぜ、こんな良い奴らを死なせたくはないからな」

 そう呟くとレグルスは遥か大空を見上げた。


 バレットは静かに目を閉じていた。

 敗者への処刑を覚悟して受け入れたからだ。

 戦士としての戦いだ、引導を渡すのが礼儀なのだろう。


 もう一度バレットと彼の部下達と見た。


 彼等には帰る場所がある。

 自分にはもう何もない。

 もう何も奪いたくなかった。


 レグルスは静かに銀の星を見つめて動かなかった。

「レグルス・・」

「・・・悪いな、勝ち逃げさせてもらうわ」

「はあ?」

 目を開けたバレットに対し、レグルスは優しく微笑んだ。



「バレット、お前は二度と俺に勝てない負けた屈辱を味わい続けろ。負けた奴への罰ってやつだ」

「おいレグルス!」

「あばよ、俺のように部下を死なせるんじゃねえぞ」

 そう言うとレグルスはバレットに背を向けて歩き出した。


「待てよ!待ってくれレグルス!」

 驚いたバレットが追いかけようとするが、足が動かずに立ち上がることすらできなかった。


 ・


 バレットから離れたレグルスだったが、その先には彼を待つ者がいた。


 バレットの時とは違う。

 その相手に対してレグルスは笑えなかった。

「よう、次の相手はお前さんか?」

 レグルスが睨み付ける先には、殺意の瞳で睨み返すディーファがいた。


「そうなるな。初めましてだ、獣人を統べる王レグルスよ。私はPT.アルマ.アルファ.ディーファ、魔力強化体第二大隊第二大隊の大隊長、バレットの上司だ」

「大型異形体殺しのディーファか。知ってるよ、あんた有名人だからな。ったく、とんでもねえ化け物だな」

 そう言うと、レグルスはどうにか口の端を吊り上げ笑った。


 しかしその笑いは足の震えを誤魔化す虚勢だった。

 一目見た瞬間、本能で理解していた。勝てない、殺される、と。

 この一見少女にしか見えないが、あのファティア、そしてライファと同類と分かった、人間以外の何かだと。


 唸り声を上げるレグルスに対して、ディーファは優雅に一礼した。

「では獣王レグルス、一曲お相手願おうか」

「いいぜ、付き合ってやる。お代はお前の命で勘弁してやる」

「それは高い買い物だ。なに、釣りは要らんぞ、地獄への通行料にでも使え」

「ほざけよ!」

 叫んだレグルスがディーファ目掛けて突っ込んだ。


 ・


 これまでの戦線とバレットとの死闘で満身創痍だった。

 左腕は完全に使えず、身体も傷だらけ、本当は立っているがやっとだった。


 勝てる戦いではなかった。

 そもそも万全でも勝てない相手だ。

 この戦いで死ぬだろう。

 これでやっと楽になれる。

 それでもまだ終わらない。


 まだ生まれない小さな生命を繋げるために。


「まだ終わらない!」

 レグルスは走り続けた。

区切りを良くするため、下書きを二つに分けました。

短めとなのはそのためです。

次は1月10日更新予定です。



ツイッターは始めました。

ななしとせ@小説家になろう

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