第16話 シェイドとアレフ
時は少しだけ遡る。
それは日が昇る少し前だった。
本日の予定調整を早々に終えたシェイドは、アレフの面会に訪れていた。
目的は、治癒魔法術式教示についての諸々の打ち合わせだった。
本当は会議室でやりたいのだが、当のアレフが投獄されて動けない。
だからこちらから出向かないといけないのだが、それがシェイドをイラつかせていた。
しかしそんな内心を見せるわけにはいかない。
相手は人間、些細な隙も見せてはいけない。
そんな覚悟で固めたシェイドだが、アレフの言葉のせいで一瞬で瓦解した。
「は・・・本当ですか?」
ポカンと口を開けたシェイドは天を仰いだ。
「えっともう一度お聞きしますが、イリス隊員に治癒魔法を習得させしまったのですね?」
この時のシェイドには驚きと共に、
沸々と湧き上がる怒りを感じていた。
幾ら予定を出てても、勝手なことをされては堪らない。
そんなシェイド内心を知らないのか、アレフは満足げな表情で頷いていた。
「まだ完全とは言えないが、基礎は習得している。後は実践をこなせば十分モノになる」
「・・・ちっ」
シェイドは気付かれないよう小さく舌打ちした。
治癒魔法術式は極秘にすべきで、その技術を敵国に漏らしてはならない。
だから習得させる隊員は戦闘力の高い者を厳選する予定で、その中にイリスは含まれていない。
今後の事を考えるとかなりの問題だった。
「はあ・・・参ったな」
シェイドはわざと盛大なため息を吐いた。
「本当ならイリスちゃんを褒めてあげたいんですけどねえ。正直、勝手に教えられると困るんですよ」
シェイドは露骨に顔をしかめた。
「何か問題なのか?」
露骨な不機嫌な様子のシェイドに。しかしアレフは平然としていた。
「ええ大問題です。あなたが勝手に教えた治癒魔法術式は、明日付で機密事項に指定される予定でした。おかげでマリニア様とディーファ大隊長からお説教、下手すれば懲罰ですよ。まったくどうしてくれるのですか」
シェイドはトゲのある口調でそう言うと、もう一度ため息を吐いた。
「敵国に漏れる可能性を心配していると?」
「そうですよ。イリスちゃんは弱いから、もし捕虜になったら大事な情報が漏れてしまうかもしれないですよ。だから教えるのは戦闘能力の高い隊員に限定したかったんです」
「仮に捕虜になっても問題はないと思うがな。治癒魔法術式そのものの情報があっても、活用する知識と経験がなくては意味がないからな」
シェイドの説明にアレフは首を傾げた。
「どういうことですか?」
「治癒魔法術式そのものなら習得は難しくない。難しいのは、それをどうやって上手く活用するかだ。複雑な構造の人体を正しい修復するには、相応の技術と知識が必要になる」
「そりゃあまあ、そうでしょうねえ。料理の仕方を知ってても、実際料理を作れるとは限らないですからね。でも、イリスちゃんはもう料理を作れる側だと思いますがね」
「それでもまだ初心者だ。どうなるかの効果は知ってはいるが、どうしてそうなるかの理屈までは理解していない。その程度なら問題ない」
「いえいえ、敵国からしたら価値はあると思いますが?」
「普通ならそうだ。しかし治癒魔法術式の場合、中途半端な知識はむしろ害になる。例えば骨折を正しく治す方法、内臓を正しく修復する方法、神経の接続、適切な筋肉の運動等々正しい知識と経験、術式の運用にはこれから必須だ。これ無しでの使用は大抵死ぬ」
「・・・はは、それは怖いですね」
シェイドは頬を引き攣られながら、無理に微笑んだ。
シェイド顔をしかめる中、アレフは更に説明を続けた。
「この魔法術式は膨大な失敗と犠牲をを積み重ねた末、長い時間を掛けてようやく完成したものだ。仮に敵が術式そのものを手に入れたとしても、まともには使えない。逆に被害を増やすだけだ」
「アレフさんの星ではどれくらいの犠牲と時間か掛かったのですか?」
「犠牲は分からないが、時間は大体400年ぐらいだったと記憶している」
「記憶?まるで見てきた様に言いますね」
「実際見てきたからな。術式を開発した奴にも会ったし、発展する過程も体験してきた」
「あ・・・そうなのですか」
シェイドは失言を悟った。
彼は自称3千歳、それが本当なら実際見てきたのも有り得なくはない。
彼との今後の関係を考えると、疑うべきではなかった。
それはそれとして、
「400年ですか。ちょっと問題ですね」
あまりの時間にシェイドは呆れるしかなかった。
「だとしたら、私達も治癒魔法術式の習得は無理ではないですか?400年も掛かった代物を2ヶ月で習得だなんて土台無理ですよ」
「完成まで時間が必要だったのは、無から手探りで失敗を繰り返してきたからだ。既に積み重ねた知識と経験があるものを学ぶとなれば話は別だ。教え方にもよるが、二ヶ月あれば、神経を繋げる程度までは何とかなる。その先は自力で何とかしてもらうつまりだったのが・・・」
「そうですか・・・」
アレフの話にシェイドは少し考え込んだ。
確かに治癒魔法術式は革新的な技術だ。
しかし習得できれば有利になる程度とたかを括っていた。
実際はそんな辛いものではなかった。
莫大な犠牲と時間と努力を注ぎようやく完成したもの。
人類の至宝と言っても過言ではない。
それを彼は、安全の保証と食糧だけで教えると言う・・・
「分かりました。それではお願いします。でもイリスちゃんは今後教える候補から外させてもらいますよ」
シェイドは素直に頭を下げるべきだと思ったが、抵抗を感じて出来なかった。
それどころは余計なことを言ってしまったと悟った。
それに対し、アレフは特に嫌な顔はしなかった。
「イリスは外さないで欲しい。むしろ彼女にこそ教えたい。彼女は天才だ。陳腐な言葉だとは思うが、それ以外に表現できない」
「え?」
「彼女は3日で基礎を習得とした。普通なら最低1年のところをだ。この調子なら一ヶ月で全部教えられるだろう。沢山の人数を教えてきたが、ここまでは初めてだ」
「マジですか・・・」
シェイドは嘆息した。
「しかしですよ?もしイリスちゃんが完全に習得したとしたら、逆に捕虜になるのは不味いのでは?今の段階で止めさせた方が良いと思いますがねえ」
「それは勿体ない。戦闘力不足が心配なら、並行して戦闘訓練を施そう。なんなら他の隊員達も併せて構わない。それでも危険性はあるだろうが、得られる利益の方が遥かに大きいはずだ。心配なら後方待機して護衛をつければ良い。彼女にはそれだけの価値がある」
「そこまでですか」
「今一番貴重なのは時間だ。彼女はそれを一番有効に使える」
「そう・・・ですね」
シェイドは同意しなからも、顎に手を当て思考にふけった。
確かにアレフの言う通りだろう。
イリスなら完全に修得できる可能性があるが、他の者がそうとは限らない。
もしイリスを外し、完全に習得出来ずアレフが帰った場合はどうなるのか。
先程の話の通り、完全な習得まで多くの時間と犠牲が必要になるだろう。
そう考えると完全習得の利益の方が遥かに大きい。
自分だけで決められる事ではないが、既に決まっているも同然だった。
シェイドは胸にモヤモヤするものを抱えていた。
この男を認めたくない、そんな思いからだ。
「イリスちゃんの事は何とかしますので、どうかよろしければお願いします」
それがつまらない自尊心だと分かっていたから、シェイドはアレフに対して深々と頭を下げた。
「了解した。こちらもお願いしたい。もし騒ぎを起こしたら、その時はまあ笑って許して欲しい」
アレフの冗談まじりの言葉だったのだろうが、これをシェイドが途端に不機嫌になった。
「・・・また騒ぎですか」
シェイドは怒りの眼差しで睨みつけた。
「勘弁して下さいよ。あなたの後始末のせいで、クリスが無理して倒れそうになったんですよ」
「・・・すまない、軽率な発言だった。今後二度と騒ぎは起こさないと誓う」
頭を下げるアレフから笑みは消えていた。
「・・・頼みますよ」
シェイドは不機嫌な表情を隠そうとしなかった。
・
しばらくの間、気まずい沈黙が続いた。
そんな空気を嫌がったのか、アレフが別の話題を振る事にした。
「イリスだが、時間があれば治癒魔法術式意外にも、応用した術式を幾つか教えておきたい。時間的に余裕はある」
「俺だけでは何とも言えないですね」
アレフの要望に、シェイドは腕を組み考え込んだ。
別に悪い提案ではない。
ここまで話が進めば機密保持など今更だ。どんな術式であれ、教えてくれるのであれば教えてもらえば良い。
使えるかどうかはその後で考えれば良い。
問題は何を教え込まれるかのか。正直、この男は信用できない。
「ちなみにどんなものを教えるおつもりで?」
「治癒魔法術式を攻性に応用した亜種の術式だ。相手の遺伝子の特定部位を活性化させ、内臓を細胞単位で自死させる術式だ。対策を知らないと防御不能で、使い方によっては大型異形体相手でも充分通用する」
「えっと遺伝?と自死ですか?もう少し分かりやすく説明してもらえませんか?」
「治癒魔法術式を悪用したもので、敵の体を内臓からぶっ壊す。相手が防ぎ方を知らなければ絶対に効くし、心臓でも脳でも壊せるから確実に殺せる。つまり防御不能な一撃必殺の術式だな」
「・・・それ、治癒魔法術式よりとんでもないのでは?」
シェイドは表面は平然を装いながらも、心中では頭を抱えていた。
前言撤回、とんでもなく悪い話だった。
治癒魔法術式のおまけ程度と思っていたら、ある意味それを超えるヤバい代物だったからだ。
治癒魔法術式もだが、こちらも絶対に他国に漏らして良い代物ではない。
「勘弁してくれよ」
シェイドは小声で呟きやながら、キリキリと痛み始める胃に顔をしかめた。
「これまでの提案ですが、俺では判断し兼ねますので、大隊長に方向した上で検討します。多分大丈夫でしょう」
全てを諦めたシェイドは、上司に丸投げすることにした。
なお後にディーファから大目玉を喰らうことになるが、今のシェイドは知る由もない。
「そうか。前向きにお願いしたい」
「まあ・・・こちらとしては有難いことですので。ええ、本当に涙が出るほどですよ・・・」
シェイドは歯切れの悪い返事をしながら、聴こえないように小さく舌打ちをした。
お前のせいでクリスの苦労が増えるだろうが。
そう内心毒づきながらも、なんとか愛想笑いを受かべた。
「それではこれで失礼しますね。この件については明日にでもまた伺いますのでよろしくお願いします」
シェイドは不快感を堪えて頭を下げた。
・
話が一段落したと思ったシェイドだが、本来の目的を忘れていた事に気が付いた。
本来の目的とは、治癒魔法教示について日程等を調整する事だ。
必要とはいえ、貴重な時間を費やした事を考えると、シェイドの不快感は否応に増した。
「長々とすいません。最後に今後の予定について話し合いたいと思います」
シェイドは深呼吸をして気分を落ち着かせた。
「治癒魔法の教示ですが、10名程度の予定です。先程、二ヶ月である程度習得できるとのことでしたが、この人数でも大丈夫ですか?可能なら先ほどの応用術式も込みで」
「応用込みだと多少厳しくなるが、まあ問題ないだろう」
アレフは両腕を組みつつ天井を見上げた。頭の中で色々と計算しているようだった。
「多少なら問題ありません。お願いします」
答えながらシェイドもまた脳裏で計算を始めた。
アレフの残り滞在日数は75日、
教えられるのが10名は決して悪くはない。
可能なら少し踏み込んだ過程まで訓練して欲しいし、欲を言えばもっと多くの者達にも習得させたい。
「あなた程とは言いませんが、熟練者の一歩手前程度にまでの腕を習得させられませんか?」
「熟練か・・・具体的にはどこまでか望みだ?」
「そうですね・・・心臓や脊椎を破壊された場合でも、修復して戦闘に復帰できるようになる程度ですかね」
言い終えてからシェイドは顔をしかめた。命を助ける事は、ある意味で部下達を苦しめる事と知っていたからだ。
魔力強化体は兵器に過ぎない。
生とは戦いと苦しみの連続でしかなく、死ぬことでようやく安らぎを得られる。
そんな最後の希望を治癒魔法術式とは、本当に自分達の為になるのか。
答えの出ない問いに、シェイドは言葉を詰まらせた。
「難しいな。だがかなり厳しい訓練過程にすれ出来なくはない」
悩むシェイドの前で、アレフがぼつり呟いた。
「私は構わないが、そちらもかなり恨まれる事になる。それでも構わないか?」
「それで助かる命が増えるなら、多少の恨みなど安いものです」
シェイドは即答した。
色々悩むところはあるが、この答えは本心だった。
彼にとって一番辛いのは、何よりも仲間の死だ。、それを防ぐためには、どんな事でもやりたい。例えそれが望まれていなくてもだ。
「そうか・・・・・それでは仕方ない、うん仕方ない。特訓だな、ふふふ。まあ死にはしないだろ」
「え・・・」
そう告げながら怪しく光アレフの目に、シェイドは背筋に寒気を覚えた。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
不敵に笑い始めるアレフを前に、シェイドは冷や汗を流していた。どう見ても嫌な予感しかしない。
シェイドは既に後悔し始めていた。
「廃人にするのまずいな」
「は、廃人?」
「一歩手前は甘過ぎるから、せいぜい半歩だな。いやまったく持って困ったものだ、ふふふ・・・」
アレフが本当に嬉しそうに笑っている。
「・・・これ、ヤバいやつだ」
シェイドは思わず顔を引きつらせた。
「発狂寸前まで追い込む程度で30日、発狂しても強制的に直すのなら20日軽く障害を残しても良いなら15日だな。これ以上となると脳を直接いじって強制的に情報を」
「も、もう結構ですから!」
「最短で1週間でいけるぞ。まあ感情が完全に喪失する可能性が」
「やめて下さい!」
シェイドは必死に叫んでいた。
「30日間で!30日間でお願いします!ああ!30日が良いなあ!じゃあそれで決定という事で!」
「そんな甘すぎるなんてつまら・・・なんでもない」
アレフはこの世の終わりのような表情を浮かべると、肩をがっかりと落とした。
「死に掛けるまでの追い詰めが2,3回程度か・・・もっときついめの特訓が好きなんだけどなあ」
「あ・・・危なかった」
ところどころか不吉な単語が聞こえた気がしたが、シェイドは敢えて聞こえない事にした。多分それが平和のためだろう。
「ま、また明日来ます。その時には、もう少し詳細を調整しようと思います」
「分かった。こちらもしごき・・・訓練内容を考えて置く」
「本当に程々でお願いします」
微笑み手を振るアレフに一礼すると、シェイドはその場から疲れたような足取りでフラフラと立ち去った。
・
「損な役回りだ、嫌になる」
独房から離れたから、シェイドは大きく息を吐いた。
その表情には明らかな嫌悪が浮かんでいた。
「人間は嫌いだ。死ねばいい」
誰に聞かれるかもわからない。だからシェイドは小さな声で呟いた。
「大隊長に似ているのかもな。考え方に筋があり、融通も利く。しかし、譲れないところは譲らない頑固者か」
シェイドは思っていた。
ディーファとアレフ、両者は一見真逆の様で、その芯はよく似ていると。
上司たるディーファは好ましく思っている。
無能でも、悪い上司でもなく、性格的にも接しやすい。
しかしアレフは駄目だ。
彼は似て非なる存在、ディーファとは別もの
そしてなによりも人間だ。
受け入れられるわけがない。
それでも表向きでは彼に笑っていよう。
少なくとも、部隊に治癒魔法の教示が終わるまでは・・・・
そう考える自分自身さえも嫌悪しながら、シェイドは長い廊下を歩き続けた。
・
「随分と嫌われたものだ」
アレフが苦笑まじりに呟いた。
シェイドの演技など直ぐに見抜いていた。
好意的だと見せようとしていたが、ところどころで隠しきれない憎悪が漏れ出ていた。
だから敵意を和らげるために、冗談半分で特訓のくだりを話したのだが、逆に警戒させる結果となってしまった。
思い起こしながら、アレフは治癒魔法術式の翻訳作業を再開した。
『そりゃそうですよ』
応えたのは呆れ声のフィロだった。
『胸に手を当てて数々の悪行の思い出してください。はい、見えましたね。つまり自業自得です』
フィロの指摘に心当たりがあるのか、アレフは困惑とも驚きと見える複雑な表情を浮かべた。
「私自身の悪行は認めるのが、それだけはなかろう。あの憎しみ方は根底に根付いている」
『そうですね。人間そのものを憎んでいるように思えました』
「さもあらんよ、生体兵器なんて立場にされればな。恨み事などそれこそ日常茶飯事だろう」
『彼の個人記録を閲覧しましたが、人間を恨む原因と思われる出来事があります。お聞きになりますか?』
「止めておこう。聞けば彼の尊厳を傷つける」
作業の手を止めたアレフが強く断言した。
「それに、彼との対等な立場を崩したくない」
『尊厳はともかく、何故過去を知ると対等ではなくなるのですか?理解できません』
「人間ってのは、優越を知ると無意識に相手を見下す下衆な生物という事だ」
『単なる感情論だと思いますが?」
「感情論を完全には否定するな、人間は感情に支配される生き物だからな。だから命令しておく。魔力強化体第二大隊の隊員の個人記録を賢者達に送付することを禁止だ」
『え・・・』
突然の厳命にフィロは困惑を見せた。
『あなたの権限ではそのような命令は受け付けられません。まず理由をご説明してください』
「人間を知りたいのなら、人間らしく弁えろと言っている。お前も下衆とは呼ばれたくないだろ?それに賢者達も瑣末な個々の記録など求めまい。いずれにせよ不要な行為だ」
『はあ・・・まあ、そういう事でしたら命令に従います』
そう答えたフィロだが、その声色には明らかな不満が含まれていた。
「不満はあるだろうが、飲み込んでおけ。余裕ができたら自分で考えて、自分なりの納得できる答えを見つけてみろ。まあ一種の宿題だ。もう少し人間関係の経験を積み、自分自身で理解しろ。そうする事に意味がある」
『まあ参考にはしますけど。あと、今回の情報制限の経過については、賢者様方にご説明をお願いしますね」
「了解した。まあ宿題については焦る必要はない。そのうちに思い付いた答えを教えてくれ」
『なんか・・・まあよろしくお願いします』
「さて話を戻そうか」
『いつもいつも脱線ばかりですね』
話がいつのまにか逸れた。
元の魔力強化体と人間との確執という話に戻すことにした。
・
「無理に好意を抱いてもらおうとは思わない。いずれ別れる関係だ、嫌われているくらいでちょうど良い。別れる時の後腐れがないからな」
『だからわざと嫌われる言動を行ったのですね?何でこう滅茶苦茶な事をしでかしたかと思いましてが、これで納得が出来ました』
「・・・うん、まあそうだな」
皮肉か天然かわかりづらいフィロの指摘に、アレフは困った表情を浮かべた。
「とは言え、色々と誤算があった。少しやり過ぎたかなあ、と思ってる」
『ですよねえ。まあ必要な情報は大体収集しましたので、今後の関係構築はお任せします。ただ少々踏み込み過ぎとは思いますので、どうか程々にご自重ください』
「世知辛いものだが、そうなのだろうな。忠告通り控えることにす・・!」
フィロの忠告に答える最中、突然アレフの表情が激変した。
彼は窓から空を睨みつけていた。
「フィロ!二時の方向広域探査だ、急げ!」
アレフが叫んだ。
独特の空気が存在する時がある。
そしてアレフはそれを感じ取っていた
まるで空気そのものが引き締まり、肌を突き刺すような気配
それが戦いの気配だと、アレフはよく知っていた。
「今の方角で戦闘が起きた。そこまで遠くはないはずだ」
『驚きました。郊外で魔力強化体の偵察部隊が戦闘で殺されています。相手はおそらく獣人です。数は600』
ウェネス郊外で行われている獣人達の奇襲を、彼の鋭敏な感覚が正確に感じ取っていた。
続き僅かな、しかし確実な爆発音が見つめる方向から響いてきた。
「空中での破裂音だ。何かを突き破るような・・・自爆か」
『はい、偵察部隊の最後の一人が、仲間に知らせるために自爆したようです』
「こんな滅びかけた星でも殺し合うか」
俯いたアレフが拳を握りしめた。
「漣を転送してくれ。禁止事項に問題ないか?」
『問題ありません。準備しておきます』
その瞬間、襲撃を伝える警報が響き渡る。
それがこれから始まる殺戮の合図だった。
「また罪を重ねる事になるか」
虚空を見つめ続け、アレフはポツリ呟いた。
次は8日に更新する予定です。
組織の中で問題を起こせばこんな形で嫌われるかと思います。
ここから挽回することは大変なのですが、今後はそれを達成する流れとなります。




