第15話 襲撃
まだ日が昇らぬ肌寒い早朝だった。
ディーファは気だるい体にムチを入れ、大隊執務室の扉を開けた。
中にはクリスがいて、疲れた顔で出迎えた。
クリスがこの部屋にいるのは、早く来たからではない。書類整理で一晩明かし、部屋には戻っていないからだろう。
「すまない。私が至らないばかりに苦労をかける」
クラスの献身に対し、ディーファはアタマを下げる事しか出来なかった。
・
赤面したクリスが、乱れた髪を手櫛でいそいそと整え始めた。
「こんな姿で申し訳ありません」
「気にするな。時間が出来たら一度部屋に戻って休め。あとは私なりに何とかする」
「お気持ちはありがたいのですが、大隊長の方こそ顔色が優れないように見えます。大丈夫でしょうか?」
「気のせいだ、と言いたいところだが心当たりがある。あの馬鹿のせいだ。アレフと言う特大級の馬鹿のな」
ディーファは眠たげな瞳を見開かせ
ると、かなり無理矢理に笑顔を作った。
「多少疲れはあるが問題ない。なんなら今ここで獣人とと戦ってもまったく平気だ」
「ご無理をなされないで下さい。私達と違い、あなたに代わりはおりませんので」
「それは違うぞクリス、お前にも代わりはいない。約束しよう、私は私を大事にすると。だからお前もそうしてくれ。差し当たりは、それ訂正しよう、今日の仕事は午前で終わりだ。午後は部屋で寝ること、これは命令だ。無論、シェイドも同様だ・・・ん?」
話している中、ディーファはシェイドの姿がない事に気が付いた。
出勤時に彼がいない事など珍しい。
「シェイドはどうした?」
「彼は・・・その・・・あの男に会いに・・・」
「あの男・・・あの馬鹿か」
「アレフさんです・・・馬鹿かどうかは答えかねますが」
途端にディーファの表情が不機嫌なものへと変わった。
「すいません、あの馬鹿が。あ、この馬鹿とはシェイドの事です」
クリスは何度も頭を下げ続けた。
この時、彼女は内心でシェイドを激しく呪っていた。
基本的に部下に寛容なこの上司が、ここまで不機嫌になるなど滅多にない。
「確かに、会うなとは言ってないな。それで?シェイドは何の用事で会いに行った?」
ディーファ苛立ちを隠そうともせず問い掛けた。
そんな上司に対し、クリスはただ恐縮するしかなかった。
「あの馬鹿、いえ、シェイドはその、あの男が何か不穏なことをしていないかを探りに・・・いきました」
「無謀なことを。私でもあれは御せない。出来るのはマリニア様ぐらいなものだ」
そう言いディーファは嘆息した。
話が通じ過ぎる怪異の類、それがアレフに対するディーファの感想だった。
話せば先の先まで読まれ、道を塞がれ追い込まれる。
だから接触すらすべきではない、それが結論だった。
「もしかして昨日もか?」
「・・・はい」
隠しきれない悟ったのか、クリスは素直に白状した。
これにより、ディーファの不機嫌が一段引き上げられた。
「シェイドのことだ、上手く擦り寄り手駒にでもするつもりなのだろう。違うか?」
「はい・・・大体その様な事を言ってました」
「あれは心を読む化け物だ。逆に洗脳されかねんぞ。戻って来たら説教の一つもしてやらんとな」
「お手柔らかにお願いします。私からもあの馬鹿にはよく言い聞かせておきますので」
馬鹿が上司の地雷を踏み抜いた事を悟り、クリスは復讐を誓った。
「しかし馬鹿が大馬鹿に会いに行くとはな。似た者同士で引き合うものがあるのかもな」
「そうでしょうか?」
疲れて顔で笑うディーファに、しかしクリスは疑念の表情を浮かべた。
「シェイドはアレフさんを毛嫌いしていますが、アレフさんは気にしていない様子です。片やわからず屋の子供ともう片方は成熟した大人、とても似てるとは思えません」
「そうなのか?しかしそうまで違うとなると、口論になったりしないか心配になるな」
「なりません、生産年齢に差がありすぎます。子供の癇癪に大人は取り合わないものです。言うまでもないですが、子供はシェイドの方です」
「そ、そうか・・・」
クリスのシェイドへの酷評に、ディーファは思わず困り顔になった。
「だが、アレフは意外と血の気が多いぞ。ボルガンとの騒ぎもあるし、私もその後で大喧嘩になったぞ」
「隊長とですか?・・・・それは必要だったでは?多分、隊長の方がアレフさんの気に障る何かをやらかしてのでは?」
クリスはディーファを不思議そうに見つめると、見たクリスは、両腕を組み考え込んだ。
「失礼を承知で進言させていただきます。隊長とアレフさんに何があったか存じませんが、おおよそは予想はできます。そして正しいのはアレフさんです」
「おい!」
「これは私の個人的な意見ですので、これ以上議論するつもりはありません。ここで問題なのは、彼が大隊長を喧嘩に値すると判断した事です」
「何が言いたい?」
ディーファが激しい歯ぎしりと音と共にクリスを睨みつけた。
「彼は物事を価値の有無で選択できる人です。喧嘩をしたのも、それだけの価値があると思ったからでしょう。隊長に期待できる、改善することが出来るはずだと思ったのではないでしょうか?」
「・・・見てきたように言う。期待されているとは微塵も感じなかったぞ」
「ではもう一度よく話し合って下さい、お願いします」
「・・・善処する。この話は終わりだ」
ディーファはバツが悪そうにクリスから視線を外した。
自分は頼られる上司でなければならない。
なのに指摘をされては無能もいいとこだ。
今は恥じるしかない。
「申し訳ありません。少し言い過ぎました」
押し黙るディーファの姿に、クリスもまた己の迂闊さを後悔していた。
「私達魔力強化体はただの生体兵器、戦うだけの物体だ。ただそれだけの事だ。あの男が何を言ったところで、私は些かも変わらない」
ディーファはポツリ呟いた。
「期待なんてするだけ無駄だ。私には何の価値もない」
「大隊長!いえディーファ!あなたがそれでは私達はどうなるのですか!」
「黙れ!今までだってどうにもならなかったんだ!今更どうしろと!」
激昂したディーファの叫んだ。
「立場をわきまえろ!余計な口出しをするな!」
「・・・申し訳ありませんでした。もう何も言いません」
失望の眼差しのクリスが、ゆっくりと頭を下げた。
「仕事を始めよう。怒鳴ってすまなかった・・・」
そう告げると、ディーファは無言で仕事を始めた。
それきりあたりは静寂に包まれた。重苦しい空気の中、彼女達は黙々と仕事を続けていた、
・
そこは隊舎の中央の休憩用の広場だった。
広場には幾つかの長椅子が設置されていて、そこに第一中隊長バレットが筋骨隆々な巨体を横たえていた。
時間は昼休みで、ひとときの安らぎが許されている。
バレットは長椅子で身体を休めながら、中央に置かれた魔道映像装置をうつらうつらと眺めていた。
内容はほとんど聞き流していた。
今日も雪で今年最低の気温だとか、明日も雪だとか。
特に興味もなく、疲れた頭には何も入らない。
寝返りを打つと左肩が傷んだ。昔戦いで受けた古傷で、雪の日はいつも痛み出す。
傷を負ったのは一年前、レグルスとに名乗る獣人の男と死闘で殺されかけた時のものだ。
「雪は嫌いだ。あの野郎の顔を思い出す」
バレットは神妙な顔つきで起き上がると、ジクジクと痛む古傷をさすった。
「あれから1年か、次こそは負けな、ガハッ!」
決意と共に拳を握るバレットだが、背中への突然の衝撃に、なす術もなく長椅子に倒れ込んだ。
「やめろ、せっかく珍しく真面目なんだぞ」
うつ伏せに倒れたバレットが、背中に覆い被さる二つの物体に叫んだ。
乗っているのが誰だかは分かりきっている。
振り返って見れば予想通りで、双子の妹達、フラムとマグだった。
彼女達はバレットの広い背中の上に、小さな体躯でしがみついていた。
「あんちゃん、あんちゃん、どうしたの?」
「傷痛むの?痛むの?さすったろか?それとも噛む?」
彼女達はかまってくれた無邪気に笑い続けた。
「おい!やめろ!」
「やめなーい」
「無理」
バレットは完全に無視され、そのままマグは左肩に噛みつき、フラムは首に腕輪絡みつかせた。
フラムのいわゆる裸締めと呼ばれる締め技に、バレットの頸動脈と呼吸が締め付けられた。
「やめろー!」
バレットが堪らず悲鳴を上げた。
「俺は真面目になりたいんだ。絞めるな!噛むな!苦しい、血も出てる。意識、意識が遠のく」
「ねえねえ、古傷ってレグルスにやられたやつ?」
質問したのは裸締めをしているフラムだった。
「そうだろ!もうやめ、やめ、もう意識が」
「あー、猫さ~んだね!猫さ~んのことだあ!」
これはマグだった。
彼女は噛み付くのやめると、足首の関節を極め始めていた。
「いて!やめろー!」
バレットはじたばたともがくが、妹達の抵抗は思いのほか強い。
いつの間にかフラムも裸締めをやめると、今度は肘関節を極めていた。
「分かったあんちゃん、マグと一緒に猫さんをやっつけてやる。墓場から見守ってくれ!」
「だから痛えよ!あいつは猫じゃなくて獅子の獣人だ!お前らじゃ無理だ!」
「なにおー!」
「よしフラム、あんちゃんの仇討ちの前にあんちゃをやるぞ!」
兄は至極真っ当な制止は、妹達という炎に油を注いだだけだった。
「やめてくれー!!!」
腕と足の同時の関節技に耐え切れず、バレットは叫び声を上げた。
「さー、あんちゃんの仇打ちだ!あたしがぶっ殺してやる!うっしゃあ!」
これがマグで、
「草葉の陰であんちゃんも応援しているぞ!うりゃあ!」
これがフラムだった。
「痛え〜!止めろ〜!俺はまだ死んでね~!」
そしてこれがバレットの悲鳴で、部屋中をいつまでも響き渡っていた。
広場には他にも多数の隊員達が休憩していたが、誰も止めようはしなかった。
これが三馬鹿中隊長達のいつもの姿で、彼等はす慣れきっていた。
「誰か助けてくれー!」
バレットの悲痛な悲鳴が響く平場では、隊員達は何もなかったかのように
ひと時の休憩をしていた。
・
一方その頃、ウェネスを目指す約600名の獣人達は、残り6ラミーン(約9キロメートル)の場所にいた。
彼等はそこで足止めを受けていた。
先行部隊が、敵の巡回部隊を見つけたためだった。
彼等は急遽作戦会議を始めた。
報告は陽気な表情の犬顔の男からだった。
「レグルス、この先にいる巡回部隊は、魔力強化体一個分隊7名だ。流石に世代までは分からなかったがな」
「おう、分かった。よくやったぞ」
レグルスと呼ばれた獅子の男は、姿通りの野太い声で答えた。
「しつこい雪だ。自慢の髭が台無しだ」
レグルスは豪快に笑うと、たてがみに降り積もる雪を払い落とした。
「相手は魔力強化体第二大隊だ。行動するのは一個小隊単位、つまり30匹がやがるってことだ」
30という数字を聞いた途端、獣人達がざわつきはした。
彼等は皆、明らかに不安な眼差しをレグルスへと向けていた。
「なあに、発見は親達が先だ。風下から近づいて一気に殺す。それが俺たち獣人の殺り方だ。丁度良い景気付けだ。殺りたい奴は前へ出ろ!」
レグルスの言葉にざわめきが消え、一瞬静寂が訪れた。
彼等の瞳にはもう不安はなく、皆が爛々と怪しく光っていた。
それから10名の獣人が歩み出た。
「お前らなら問題ねえな。一気に喰うぞ!」
レグルスの獣の笑みに、他の獣人達は一斉に頷いた。
・
アメリアの獣人
サイカの魔力強化体
これらは各々の国が誇る最高の兵器である。
どちらが強いかは単純には決められないが、過去の戦闘記録から魔力強化体の方が優勢とされている。
戦力比にすれぼ、獣人が3に対し、
第三世代魔力強化体が5
第ニ世代魔力強化体が7
第一世代魔力強化体は30
と一応は算定されている。
各々の特徴としては、魔力強化体は射撃、格闘等での高い万能性を持つ。
対して獣人は遠、中距離戦闘を苦手とするが、代わりに近接戦闘を得意とし、その能力は魔力強化体を上回る。
つまり両者が戦った場合、遠、中距離戦では魔力強化体が勝つが、近距離戦では獣人達が勝つ。
もちろん例外もあるが、過去の記録では概ねそうなっていた。
レグルス率いる獣人達が勝つには、どうにかして近接戦闘に持ち込むしかない。
しかしそれが至難の業だとは、彼等一番良く理解している。
多数の犠牲を出しても、接近戦に持ち込むしかない。
それでも勝てるかどうかは運次第の化け物達
それが魔力強化体への認識だった。
だからレグルスは自らが先陣を切る事にした。
少しでも多くの者達を生き残らせるために・・・
・
レグルス達襲撃部隊は、半ば雪に埋もれながら伏せていた、
視線の先には、巡回中の魔力強化体達がいた。
数は報告通りの一個分体の7名
他に部隊はなく、彼らが気が付いている様子もない。
レグルスが静かに手を挙げた。
同時に獣人達は無音で立ち上がった。
音もなくレグルスが駆けると、続き
他の獣人達も無音で掛け始める。
彼等は各々が決めた獲物へと一斉に飛び掛かった。
襲撃に音はなかった。
初めにレグルスが先頭の魔力強化体、恐らくは分隊長の喉を鋭い爪で掻き切った。
続き、後方から他の獣人達が一斉に攻撃した。
これに魔力強化体達は殆ど反応できなかった。
ある者は分隊長と同様に喉を掻き切られる、ある者は首元に牙を突き立てられ、ある者は丸太ほどの腕で首をへし折られた。
それが瞬き程の間に起きた事だった。
獣人達は一瞬で魔力強化体達を絶命させたが、残る2名は失敗した。
生き残った魔力強化体達だ は咄嗟に反応したため、深傷を負ったものの、致命傷だけは免れていた。
それからの魔力強化体達の決断はは早かった。
彼らは獣人達に背を向け、全速で逃走を始めたのだった。
これをレグルスが追走した。
もし逃がせば、自分たちの存在が敵に察知される。
そうなれば作戦の成功率は下がるだろう。
レグルスに一瞬遅れ、他の獣人達も急ぎ追走を始めた。
駆ける速さはやはり獣人の方が上、一瞬でレグルスは追いつくが、その瞬間、魔力強化体の一名が振り向いた。
背筋に悪寒を感じたレグルスがしゃがむと同時に、背中を炎の球が通り過ぎた。
魔料強化体の魔法術式だった。当たっていれば致命傷だっただろう。
避けたレグルスは立ち上がると同時に、鋭き爪を横薙ぎにし、魔力強化体の頸動脈を掻き切った。
倒れる魔力強化体を顧みる事なく、最後の魔力強化体が逃げていく。
その後ろを他の獣人達が追いかけた。
すぐに間が詰まり獣人達が飛び掛かろうとした瞬間、魔力強化体の体体が浮かび上がった。
逃走中に完成した飛翔の魔法術式だった。
仲間を犠牲にしてでも情報を伝える。
それが魔力強化体達選択だった。
「しまった!」
レグルスが思わず叫んだ。
獣人達の跳躍では届かない。既に魔力強化体は遥かに上空にいた。
「ケイン、行け!」
「おうよ!」
レグルスが命じた相手は、大鷲の羽を持つ獣人だった。
彼は頼もしい声で応じると、背中の羽を羽ばたかせ、最後の敵へと飛翔した。
・
「至急、至急!こちら221分隊、現在奇襲を受け壊滅状態、敵は獣人、位置はグフッ!」
生き残った強化体の奇襲を伝える無線は、途中で遮られた。
背後からケインと呼ばれた翼の獣人に抱きつかれたためだった。
「落ちやがれ!」
ケインは逞しい両腕で敵の体を締めつけた。
彼には鋭い牙はなく、喉を切り裂くことが出来ない。
だから羽ばたきを止めて落下し、敵を地面に叩きつけて殺す。
それが彼の得意な技だった。
しかし羽ばたきを止めても落下は始まらない。
魔力強化体が使う飛翔の魔法術式が、重力を上回っていた。
彼等の高度は少しずつ上昇していた。
「この野郎!」
ケインは叫び、今度は敵の首を絞め上げた。窒息させるまでもなく、首の骨を折って即死させるつもりだった。
その時、ケインと敵の視線が合った。
瞬間、ケインは背筋が逆立つのを感じだ。
敵は涙を流しながら笑っていた。
それが死を受け入れた者の顔と知っていた。
「しまった!」
危険を察したケインが腕を話すが、既に遅かった。
離れようとするケインに、逆に敵が逃すまいと抱き着き返す。
「畜生!」
ケインが叫んだ瞬間、魔力強化体の体が爆発した。
体内に限界まで圧縮された魔力が臨界に達して爆発したのだった。
あたり一面に閃光も轟音とがほとばしった。
やがて閃光が消えた時、空には魔力強化体の姿はない。彼の身体は粉々に砕け散った。
残ったのはボロボロになったケインだけで、翼を失った彼は落下し始めていた。
・
空で起きた光景にレグルス達はしばし呆然とした。
「畜生が!仲間に場所を知らせるために自爆しやがった!」
叫んだのはレグルスだった。
敵は自爆した光と音で、味方に奇襲の事実と場所を知らせたに違いない。
これで奇襲は不可能になった。
「畜生がぁ!」
叫びながらもレグルスは駆け抜け、落下したケインを逞しい両腕で受け止めた。
レグルスは無言のままで、ケインを地面へと優しく横たえた。
その姿は無惨だった。
自慢の羽は吹き飛び、全身が焼け焦げている。
もう助からないなど誰でも分かる。
「・・・すまない・・・すまない・・・みんな・・・すまない・・・すまない・・・すまない・・・」
瀕死のケインは最後の力で謝罪の言葉を繰り返していた。
もはや目は見えないであろう。だか
レグルスはケインのてを優しく握った。
「気にすんな、お前はよくやった。俺達は平気だ、だからもう気にすんな」
「へへ・・・嘘だろ・・・優しいな」
「・・・苦しいだろう。今・・・楽にしてやるからな」
「ああ・・・頼むわ」
「あばよ。お前は最高の仲間だった」
ケインが瞳を閉じ、レグルスが鋭い爪をケインの心臓へと突き立てた。
そこに僅かなためらいもなかった。それが苦しめるとレグルスは痛いほど知っていたからだ。
「・・・ありがとう」
感謝の言葉を残し、ケインは静かに息を引き取った。
レグルスが遥か天を仰ぎ、遠吠えをした。
哀しみの咆哮が雪原に響き渡る。
それに続き他の獣人達もまた続き哀しみに吠える。
幾重もの哀しい遠吠えが響くなかった、大地は激しく吹雪始めていた。
・
彼女はこの一部始終を遥か空から見ていた。
「馬鹿ね、本当に馬鹿。本当に無能で馬鹿。あの女が切り捨てたのも正しかったようね」
獣人達を見下ろす彼女の瞳には、侮蔑の光しかない。
「まっ、どうでも良いわ。大切なのは妹だけ」
彼女は視線はウェネスへと向けた。
「私達の愛しい妹よ。あなたの部下が死んだわ。さあ嘆き、怒り、失望しなさい。そうすれば偽物のあなたが本物になる」
彼女は両腕を大きく広げ、愉悦の表情を浮かべた。
「さあ殺し尽くすのよ。愛しいディー」
それは祝福だった。
やがて起こる凄惨な殺し合いへの、救いようもない祝福だった。
雪原の地に日が昇るも、雲は厚く日は大地に届かない。
薄暗い吹雪の中、ウェネスに敵襲を知らせる警報が鳴り響いていた。
次は12月2日に更新します。




