表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き星に祈りを込めて  作者: ななしとせ
第3章 緋憎響歌
18/76

第15話 襲撃

 まだ日が昇らぬ肌寒い早朝だった。

 ディーファは気だるい体にムチを入れ、大隊執務室の扉を開けた。

 中にはクリスがいて、疲れた顔で出迎えた。

 クリスがこの部屋にいるのは、早く来たからではない。書類整理で一晩明かし、部屋には戻っていないからだろう。

「すまない。私が至らないばかりに苦労をかける」

 クラスの献身に対し、ディーファはアタマを下げる事しか出来なかった。


 ・


 赤面したクリスが、乱れた髪を手櫛でいそいそと整え始めた。

「こんな姿で申し訳ありません」

「気にするな。時間が出来たら一度部屋に戻って休め。あとは私なりに何とかする」

「お気持ちはありがたいのですが、大隊長の方こそ顔色が優れないように見えます。大丈夫でしょうか?」

「気のせいだ、と言いたいところだが心当たりがある。あの馬鹿のせいだ。アレフと言う特大級の馬鹿のな」

 ディーファは眠たげな瞳を見開かせ

 ると、かなり無理矢理に笑顔を作った。


「多少疲れはあるが問題ない。なんなら今ここで獣人とと戦ってもまったく平気だ」

「ご無理をなされないで下さい。私達と違い、あなたに代わりはおりませんので」

「それは違うぞクリス、お前にも代わりはいない。約束しよう、私は私を大事にすると。だからお前もそうしてくれ。差し当たりは、それ訂正しよう、今日の仕事は午前で終わりだ。午後は部屋で寝ること、これは命令だ。無論、シェイドも同様だ・・・ん?」

 話している中、ディーファはシェイドの姿がない事に気が付いた。

 出勤時に彼がいない事など珍しい。


「シェイドはどうした?」

「彼は・・・その・・・あの男に会いに・・・」

「あの男・・・あの馬鹿(アレフ)か」

「アレフさんです・・・馬鹿かどうかは答えかねますが」

 途端にディーファの表情が不機嫌なものへと変わった。


「すいません、あの馬鹿が。あ、この馬鹿とはシェイドの事です」

 クリスは何度も頭を下げ続けた。

 この時、彼女は内心でシェイドを激しく呪っていた。

 基本的に部下に寛容なこの上司が、ここまで不機嫌になるなど滅多にない。


「確かに、会うなとは言ってないな。それで?シェイドは何の用事で会いに行った?」

 ディーファ苛立ちを隠そうともせず問い掛けた。

 そんな上司に対し、クリスはただ恐縮するしかなかった。

「あの馬鹿、いえ、シェイドはその、あの男が何か不穏なことをしていないかを探りに・・・いきました」

「無謀なことを。私でもあれは御せない。出来るのはマリニア様ぐらいなものだ」

 そう言いディーファは嘆息した。


 話が通じ過ぎる怪異の類、それがアレフに対するディーファの感想だった。

 話せば先の先まで読まれ、道を塞がれ追い込まれる。

 だから接触すらすべきではない、それが結論だった。


「もしかして昨日もか?」

「・・・はい」

 隠しきれない悟ったのか、クリスは素直に白状した。

 これにより、ディーファの不機嫌が一段引き上げられた。


「シェイドのことだ、上手く擦り寄り手駒にでもするつもりなのだろう。違うか?」

「はい・・・大体その様な事を言ってました」

「あれは心を読む化け物だ。逆に洗脳されかねんぞ。戻って来たら説教の一つもしてやらんとな」

「お手柔らかにお願いします。私からもあの馬鹿(シェイド)にはよく言い聞かせておきますので」

 馬鹿(シェイド)が上司の地雷を踏み抜いた事を悟り、クリスは復讐を誓った。


「しかし馬鹿(シェイド)大馬鹿(アレフ)に会いに行くとはな。似た者同士で引き合うものがあるのかもな」

「そうでしょうか?」

 疲れて顔で笑うディーファに、しかしクリスは疑念の表情を浮かべた。


「シェイドはアレフさんを毛嫌いしていますが、アレフさんは気にしていない様子です。片やわからず屋の子供ともう片方は成熟した大人、とても似てるとは思えません」

「そうなのか?しかしそうまで違うとなると、口論になったりしないか心配になるな」

「なりません、生産年齢に差がありすぎます。子供の癇癪に大人は取り合わないものです。言うまでもないですが、子供はシェイドの方です」

「そ、そうか・・・」

 クリスのシェイドへの酷評に、ディーファは思わず困り顔になった。


「だが、アレフは意外と血の気が多いぞ。ボルガンとの騒ぎもあるし、私もその後で大喧嘩になったぞ」

「隊長とですか?・・・・それは必要だったでは?多分、隊長の方がアレフさんの気に障る何かをやらかしてのでは?」

 クリスはディーファを不思議そうに見つめると、見たクリスは、両腕を組み考え込んだ。


「失礼を承知で進言させていただきます。隊長とアレフさんに何があったか存じませんが、おおよそは予想はできます。そして正しいのはアレフさんです」

「おい!」

「これは私の個人的な意見ですので、これ以上議論するつもりはありません。ここで問題なのは、彼が大隊長を喧嘩に値すると判断した事です」

「何が言いたい?」

 ディーファが激しい歯ぎしりと音と共にクリスを睨みつけた。


「彼は物事を価値の有無で選択できる人です。喧嘩をしたのも、それだけの価値があると思ったからでしょう。隊長に期待できる、改善することが出来るはずだと思ったのではないでしょうか?」

「・・・見てきたように言う。期待されているとは微塵も感じなかったぞ」

「ではもう一度よく話し合って下さい、お願いします」

「・・・善処する。この話は終わりだ」

 ディーファはバツが悪そうにクリスから視線を外した。


 自分は頼られる上司でなければならない。

 なのに指摘をされては無能もいいとこだ。

 今は恥じるしかない。


「申し訳ありません。少し言い過ぎました」

 押し黙るディーファの姿に、クリスもまた己の迂闊さを後悔していた。


「私達魔力強化体はただの生体兵器、戦うだけの物体だ。ただそれだけの事だ。あの男が何を言ったところで、私は些かも変わらない」

  ディーファはポツリ呟いた。


「期待なんてするだけ無駄だ。私には何の価値もない」

「大隊長!いえディーファ!あなたがそれでは私達はどうなるのですか!」

「黙れ!今までだってどうにもならなかったんだ!今更どうしろと!」

 激昂したディーファの叫んだ。

「立場をわきまえろ!余計な口出しをするな!」

「・・・申し訳ありませんでした。もう何も言いません」

 失望の眼差しのクリスが、ゆっくりと頭を下げた。


「仕事を始めよう。怒鳴ってすまなかった・・・」

 そう告げると、ディーファは無言で仕事を始めた。


 それきりあたりは静寂に包まれた。重苦しい空気の中、彼女達は黙々と仕事を続けていた、


 ・


 そこは隊舎の中央の休憩用の広場だった。

 広場には幾つかの長椅子が設置されていて、そこに第一中隊長バレットが筋骨隆々な巨体を横たえていた。


 時間は昼休みで、ひとときの安らぎが許されている。

 バレットは長椅子で身体を休めながら、中央に置かれた魔道映像装置をうつらうつらと眺めていた。


 内容はほとんど聞き流していた。

 今日も雪で今年最低の気温だとか、明日も雪だとか。

 特に興味もなく、疲れた頭には何も入らない。


 寝返りを打つと左肩が傷んだ。昔戦いで受けた古傷で、雪の日はいつも痛み出す。

 傷を負ったのは一年前、レグルスとに名乗る獣人の男と死闘で殺されかけた時のものだ。


「雪は嫌いだ。あの野郎の顔を思い出す」

 バレットは神妙な顔つきで起き上がると、ジクジクと痛む古傷をさすった。

「あれから1年か、次こそは負けな、ガハッ!」

 決意と共に拳を握るバレットだが、背中への突然の衝撃に、なす術もなく長椅子に倒れ込んだ。


「やめろ、せっかく珍しく真面目なんだぞ」

 うつ伏せに倒れたバレットが、背中に覆い被さる二つの物体に叫んだ。

 乗っているのが誰だかは分かりきっている。

 振り返って見れば予想通りで、双子の妹達、フラムとマグだった。

 彼女達はバレットの広い背中の上に、小さな体躯でしがみついていた。


「あんちゃん、あんちゃん、どうしたの?」

「傷痛むの?痛むの?さすったろか?それとも噛む?」

 彼女達はかまってくれた無邪気に笑い続けた。

「おい!やめろ!」

「やめなーい」

「無理」

 バレットは完全に無視され、そのままマグは左肩に噛みつき、フラムは首に腕輪絡みつかせた。


 フラムのいわゆる裸締めと呼ばれる締め技に、バレットの頸動脈と呼吸が締め付けられた。

「やめろー!」

 バレットが堪らず悲鳴を上げた。


「俺は真面目になりたいんだ。絞めるな!噛むな!苦しい、血も出てる。意識、意識が遠のく」

「ねえねえ、古傷ってレグルスにやられたやつ?」

 質問したのは裸締めをしているフラムだった。

「そうだろ!もうやめ、やめ、もう意識が」

「あー、猫さ~んだね!猫さ~んのことだあ!」

 これはマグだった。

 彼女は噛み付くのやめると、足首の関節を極め始めていた。

「いて!やめろー!」 

 バレットはじたばたともがくが、妹達の抵抗は思いのほか強い。


 いつの間にかフラムも裸締めをやめると、今度は肘関節を極めていた。

「分かったあんちゃん、マグと一緒に猫さんをやっつけてやる。墓場から見守ってくれ!」

「だから痛えよ!あいつは猫じゃなくて獅子の獣人だ!お前らじゃ無理だ!」

「なにおー!」

「よしフラム、あんちゃんの仇討ちの前にあんちゃをやるぞ!」

 兄は至極真っ当な制止は、妹達という炎に油を注いだだけだった。


「やめてくれー!!!」

 腕と足の同時の関節技に耐え切れず、バレットは叫び声を上げた。


「さー、あんちゃんの仇打ちだ!あたしがぶっ殺してやる!うっしゃあ!」

 これがマグで、

「草葉の陰であんちゃんも応援しているぞ!うりゃあ!」

 これがフラムだった。


「痛え〜!止めろ〜!俺はまだ死んでね~!」

 そしてこれがバレットの悲鳴で、部屋中をいつまでも響き渡っていた。


 広場には他にも多数の隊員達が休憩していたが、誰も止めようはしなかった。

 これが三馬鹿中隊長達のいつもの姿で、彼等はす慣れきっていた。


「誰か助けてくれー!」

 バレットの悲痛な悲鳴が響く平場では、隊員達は何もなかったかのように

 ひと時の休憩をしていた。


 ・


 一方その頃、ウェネスを目指す約600名の獣人達は、残り6ラミーン(約9キロメートル)の場所にいた。


 彼等はそこで足止めを受けていた。

 先行部隊が、敵の巡回部隊を見つけたためだった。

 彼等は急遽作戦会議を始めた。


 報告は陽気な表情の犬顔の男からだった。

「レグルス、この先にいる巡回部隊は、魔力強化体一個分隊7名だ。流石に世代までは分からなかったがな」

「おう、分かった。よくやったぞ」

 レグルスと呼ばれた獅子の男は、姿通りの野太い声で答えた。


「しつこい雪だ。自慢の髭が台無しだ」

 レグルスは豪快に笑うと、たてがみに降り積もる雪を払い落とした。


「相手は魔力強化体第二大隊だ。行動するのは一個小隊単位、つまり30匹がやがるってことだ」

 30という数字を聞いた途端、獣人達がざわつきはした。

 彼等は皆、明らかに不安な眼差しをレグルスへと向けていた。


「なあに、発見は親達が先だ。風下から近づいて一気に殺す。それが俺たち獣人の殺り方だ。丁度良い景気付けだ。殺りたい奴は前へ出ろ!」

 レグルスの言葉にざわめきが消え、一瞬静寂が訪れた。

 彼等の瞳にはもう不安はなく、皆が爛々と怪しく光っていた。

 それから10名の獣人が歩み出た。


「お前らなら問題ねえな。一気に喰うぞ!」

 レグルスの獣の笑みに、他の獣人達は一斉に頷いた。


 ・


 アメリアの獣人

 サイカの魔力強化体

 これらは各々の国が誇る最高の兵器である。


 どちらが強いかは単純には決められないが、過去の戦闘記録から魔力強化体の方が優勢とされている。


 戦力比にすれぼ、獣人が3に対し、

 第三世代魔力強化体が5

 第ニ世代魔力強化体が7

 第一世代魔力強化体は30

 と一応は算定されている。


 各々の特徴としては、魔力強化体は射撃、格闘等での高い万能性を持つ。

 対して獣人は遠、中距離戦闘を苦手とするが、代わりに近接戦闘を得意とし、その能力は魔力強化体を上回る。


 つまり両者が戦った場合、遠、中距離戦では魔力強化体が勝つが、近距離戦では獣人達が勝つ。

 もちろん例外もあるが、過去の記録では概ねそうなっていた。


 レグルス率いる獣人達が勝つには、どうにかして近接戦闘に持ち込むしかない。

 しかしそれが至難の業だとは、彼等一番良く理解している。


 多数の犠牲を出しても、接近戦に持ち込むしかない。

 それでも勝てるかどうかは運次第の化け物達

 それが魔力強化体への認識だった。


 だからレグルスは自らが先陣を切る事にした。

 少しでも多くの者達を生き残らせるために・・・


 ・


 レグルス達襲撃部隊は、半ば雪に埋もれながら伏せていた、

 視線の先には、巡回中の魔力強化体達がいた。


 数は報告通りの一個分体の7名

 他に部隊はなく、彼らが気が付いている様子もない。


 レグルスが静かに手を挙げた。

 同時に獣人達は無音で立ち上がった。

 音もなくレグルスが駆けると、続き

 他の獣人達も無音で掛け始める。

 彼等は各々が決めた獲物へと一斉に飛び掛かった。


 襲撃に音はなかった。

 初めにレグルスが先頭の魔力強化体、恐らくは分隊長の喉を鋭い爪で掻き切った。


 続き、後方から他の獣人達が一斉に攻撃した。

 これに魔力強化体達は殆ど反応できなかった。

 ある者は分隊長と同様に喉を掻き切られる、ある者は首元に牙を突き立てられ、ある者は丸太ほどの腕で首をへし折られた。

 それが瞬き程の間に起きた事だった。


 獣人達は一瞬で魔力強化体達を絶命させたが、残る2名は失敗した。


 生き残った魔力強化体達だ は咄嗟に反応したため、深傷を負ったものの、致命傷だけは免れていた。


 それからの魔力強化体達の決断はは早かった。

 彼らは獣人達に背を向け、全速で逃走を始めたのだった。


 これをレグルスが追走した。

 もし逃がせば、自分たちの存在が敵に察知される。

 そうなれば作戦の成功率は下がるだろう。


 レグルスに一瞬遅れ、他の獣人達も急ぎ追走を始めた。


 駆ける速さはやはり獣人の方が上、一瞬でレグルスは追いつくが、その瞬間、魔力強化体の一名が振り向いた。


 背筋に悪寒を感じたレグルスがしゃがむと同時に、背中を炎の球が通り過ぎた。

 魔料強化体の魔法術式だった。当たっていれば致命傷だっただろう。


 避けたレグルスは立ち上がると同時に、鋭き爪を横薙ぎにし、魔力強化体の頸動脈を掻き切った。


 倒れる魔力強化体を顧みる事なく、最後の魔力強化体が逃げていく。

 その後ろを他の獣人達が追いかけた。


 すぐに間が詰まり獣人達が飛び掛かろうとした瞬間、魔力強化体の体体が浮かび上がった。

 逃走中に完成した飛翔の魔法術式だった。

 仲間を犠牲にしてでも情報を伝える。

 それが魔力強化体達選択だった。


「しまった!」

 レグルスが思わず叫んだ。


 獣人達の跳躍では届かない。既に魔力強化体は遥かに上空にいた。

「ケイン、行け!」

「おうよ!」

 レグルスが命じた相手は、大鷲の羽を持つ獣人だった。

 彼は頼もしい声で応じると、背中の羽を羽ばたかせ、最後の敵へと飛翔した。


 ・


「至急、至急!こちら221分隊、現在奇襲を受け壊滅状態、敵は獣人、位置はグフッ!」

 生き残った強化体の奇襲を伝える無線は、途中で遮られた。

 背後からケインと呼ばれた翼の獣人に抱きつかれたためだった。


「落ちやがれ!」

 ケインは逞しい両腕で敵の体を締めつけた。

 彼には鋭い牙はなく、喉を切り裂くことが出来ない。

 だから羽ばたきを止めて落下し、敵を地面に叩きつけて殺す。

 それが彼の得意な技だった。


 しかし羽ばたきを止めても落下は始まらない。

 魔力強化体が使う飛翔の魔法術式が、重力を上回っていた。

 彼等の高度は少しずつ上昇していた。


「この野郎!」

 ケインは叫び、今度は敵の首を絞め上げた。窒息させるまでもなく、首の骨を折って即死させるつもりだった。


 その時、ケインと敵の視線が合った。

 瞬間、ケインは背筋が逆立つのを感じだ。


 敵は涙を流しながら笑っていた。

 それが死を受け入れた者の顔と知っていた。


「しまった!」

 危険を察したケインが腕を話すが、既に遅かった。

 離れようとするケインに、逆に敵が逃すまいと抱き着き返す。


「畜生!」

 ケインが叫んだ瞬間、魔力強化体の体が爆発した。

 体内に限界まで圧縮された魔力が臨界に達して爆発したのだった。


 あたり一面に閃光も轟音とがほとばしった。


 やがて閃光が消えた時、空には魔力強化体の姿はない。彼の身体は粉々に砕け散った。

 残ったのはボロボロになったケインだけで、翼を失った彼は落下し始めていた。


 ・


 空で起きた光景にレグルス達はしばし呆然とした。


「畜生が!仲間に場所を知らせるために自爆しやがった!」

 叫んだのはレグルスだった。


 敵は自爆した光と音で、味方に奇襲の事実と場所を知らせたに違いない。

 これで奇襲は不可能になった。


「畜生がぁ!」

 叫びながらもレグルスは駆け抜け、落下したケインを逞しい両腕で受け止めた。


 レグルスは無言のままで、ケインを地面へと優しく横たえた。

 その姿は無惨だった。

 自慢の羽は吹き飛び、全身が焼け焦げている。

 もう助からないなど誰でも分かる。


「・・・すまない・・・すまない・・・みんな・・・すまない・・・すまない・・・すまない・・・」

 瀕死のケインは最後の力で謝罪の言葉を繰り返していた。


 もはや目は見えないであろう。だか

 レグルスはケインのてを優しく握った。

「気にすんな、お前はよくやった。俺達は平気だ、だからもう気にすんな」

「へへ・・・嘘だろ・・・優しいな」

「・・・苦しいだろう。今・・・楽にしてやるからな」

「ああ・・・頼むわ」

「あばよ。お前は最高の仲間だった」

 ケインが瞳を閉じ、レグルスが鋭い爪をケインの心臓へと突き立てた。


 そこに僅かなためらいもなかった。それが苦しめるとレグルスは痛いほど知っていたからだ。


「・・・ありがとう」

 感謝の言葉を残し、ケインは静かに息を引き取った。


 レグルスが遥か天を仰ぎ、遠吠えをした。

 哀しみの咆哮が雪原に響き渡る。

 それに続き他の獣人達もまた続き哀しみに吠える。


 幾重もの哀しい遠吠えが響くなかった、大地は激しく吹雪始めていた。


 ・


 彼女はこの一部始終を遥か空から見ていた。

「馬鹿ね、本当に馬鹿。本当に無能で馬鹿。あの女が切り捨てたのも正しかったようね」

 獣人達を見下ろす彼女の瞳には、侮蔑の光しかない。


「まっ、どうでも良いわ。大切なのは妹だけ」

 彼女は視線はウェネスへと向けた。


「私達の愛しい妹よ。あなたの部下が死んだわ。さあ嘆き、怒り、失望しなさい。そうすれば偽物のあなたが本物になる」

 彼女は両腕を大きく広げ、愉悦の表情を浮かべた。


「さあ殺し尽くすのよ。愛しいディー」

 それは祝福だった。

 やがて起こる凄惨な殺し合いへの、救いようもない祝福だった。


 雪原の地に日が昇るも、雲は厚く日は大地に届かない。

 薄暗い吹雪の中、ウェネスに敵襲を知らせる警報が鳴り響いていた。

次は12月2日に更新します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ