第10話 とある若狐と古狸
「全員そこを動くなよ、私が通るからな」
マリニアの甲高くも威厳に満ちた声が響く中、食堂は緊張と沈黙に包まれていた。
誰もが口を閉ざし動かない。
そんな状況からに満足したのか、マリニアは美貌に微笑を浮かべ、ディーファを供に悠然と歩き始める。
ゆっくり周囲を見回し、騒動の中心へと足を進める。
コツン、コツンとマリニアの足音が響く。
それはまるで主演女優が華麗に歩く様のようだった、
「さて皆々よ、話を始めようか」
華麗なる主演女優は、美貌に相応しい美声で語り始めた。
・
誰もが沈黙する中、マリニアの独演が始まっていた。
「何やら揉め事があった故、少し邪魔をさせて貰った。まずはこの無粋を謝罪しよう。されど私は都市長を任された身、守るべきはこの都市の秩序。銃を構える者があっては、先ずはこれを止めざるをえなんだ。その旨、どうかご理解頂きたい」
語り終えたマリニアは優雅に一礼した。
「では、魔道連邦軍第二都市ウェネス防衛隊最高司令官ボルガン・ネオ中将よ、まずは其方に尋ねよう」
マリニアはボルガンへと振り向いた。
その青い瞳の冷たい視線の先には、ボルガンが握る短銃が写っていた。
「その手に握る銃はいかなる理由によるものかな?ご説明願おうか」
「はっ、はひっ!」
上擦る声で答えたボルガンは、慌てて短銃を懐に納めた。
「ウェネス都市長マリニア・ナーガ様、本日はご機嫌麗しゅうございます」
「世辞も挨拶も無用、疾く答えよ、無論、事実のみを簡潔に、な」
ボルガンの挨拶をマリニアには冷たくあしらった。
「なっ!・・・ははは、流石はマリニア様々、これは失礼しました」
ボルガンは一瞬怒りを露わにする。しかし思い直したのか、すぐに多少引きつる笑みへと変えた。
「実は我が輩、こちらへは査察のため訪れておりました!そこで情報収集と!隊員との交流とを兼ねて!この女性隊員と話をしていたのです!ところが!」
「声が大きい、今少し小さくせよ」
「し、承知しました」
睨み付けるマリニアに、ボルガンは身をすくませた。
「このアレフという者が突然、突然ですぞ、我が輩めの顔を殴りつけたです。それだけではありません。暴言を浴びせられた上に胸倉を掴まれ床に叩きつけたのです」
「ほほう?」
マリニアは楽しそうに唇を吊り上げた。
「成る程、殴られ、暴言を言われ、そしてまた殴られたと。はて?其方は軍人のはず。何故暴力を前に無抵抗であったか?ふむ、それは醜態と呼べるのではないか?」
マリニアは笑いながらボルガンを睨みつけた。
空気を締め付ける氷の微笑に、ボルガンはゴクリ唾を飲んだ。
「こ、これは非道な暴力での不法に対し、非暴力により法の裁きを求めるためです。つまりこの傷こそ、無抵抗を貫いた名誉の負傷でございます」
「無抵抗?銃を突きつける事が無抵抗とは知らなんだ。良い教訓だ、皆々のため後世に伝えおこう」
「そ、それは、どうかお止め下さい」
「戯言に決まってあろう。さて、銃を抜くほどに追い詰められた。そうなのであろう?」
「はいその通りです。ご理解ありがとうございます」
「礼はまだ早いのでは?私はまだ何も決めておらぬぞ」
「し、失礼しました」
仰々しく頭を下げるボルガンに対し、やはりマリニアは冷たい視線で睨み続けていた。
「なあ其方、情報収集と交流が目的と申したな」
「はいっ、ひっ!」
ボルガンが悲鳴に近い声を上げた。
顔を上げたボルガンの目には、凄惨な笑みのマリニアが写っていた。
「笑わせる。私が何も知らぬとでも?女漁りが交流とは笑わせる」
「まっ、待って下さい!」
「話は終わりだ」
「は、はい・・・」
訴え問答無用と打ち切るマリニアを前に、顔面蒼白よボルガンは肩を落とした。
・
ボルガンへの質問が終わり、次はアレフの番となった。
「さて客人よ、挨拶が遅れて申し訳ない」
マリニアは優美に振り返り、視線をアレフへと移した。
「今一度名乗ろう、私はマリニア・ナーガ、このサイカ魔導国第二都市ウェネスの都市長だ。ディーファより先の戦いにおける其方の比類なき功績は既に聞き及んでいる。真の英雄たる其方に感謝を。そして其方を迎えることができたこと、この上もない喜びだ」
舞台俳優が歌うかの様に語り終えたマリニアは、優雅な仕草で一礼をした。
それは自然な仕草で、生まれながらの気品と魅力を感じさせる。
温和表情の美しい瞳、しかしその奥には剣呑な光に宿っていた。
「狐の類だ、怖いな」
アレフは小声で呟くと、マリニアに倣い、優雅な動きで一礼した。
「お誉めのお言葉を賜り恐縮至極であります。私は、名をアレフ、姓をバンデットと申します。この度はサイカ魔導国の民に非ざるこの身を受け入れて頂き、誠に有難く存じ上げます」
「ほう其方・・・いや失礼した」
マリニアは見定めるように目を細めた。
「其方はただ一人で大型異形体を屠ったと聞く。失礼ながらどのような化け物か懸念していたが・・・ふふ、これは失礼。いや、お目に掛かれて光栄だ、遠き異邦の・・・いや、もしやどこぞの王ではないのかな?」
「お戯れを。ただの一介の凡夫風情に過ぎません」
「ふむ・・・この手の勘は外れたことがなかったのが自慢だが、まあそんな事もあろうな。いやこちらのこととが、失礼した、ただの一介の異邦人殿?」
マリニアが瞳を閉じ、それからまた開く。その瞳の奥からは、剣呑な光はもう消えていた。
アレフとマリニア、二人は目を合わした瞬間から、互いの探り合い始まっていた。
・
先手はマリニアからだった。
「ではアレフ殿、其方にも伺いたい。先程こちらのボルガンが申した事、これに相違はないか?」
「はい、事実にございます」
「認めましたぞマリニア様!こいつは自らの罪を認めたのです。即刻処分しましょう!」
「黙れボルガン!今面白・・・大事なところだ邪魔するな!」
「ひっ!」
嬉々として叫び出したボルガンを、マリニアの一喝が黙らせた。
「ボルガン、其方は何ゆえ我が客人の言葉を遮る?それは私への侮辱か!」
マリニアのおどしの聞いた低い声で叫んだ。
それはまるで肉食獣が獲物を狩る時の様な、そんな凄惨か微笑みだった。
「もっ、申し訳ありません!決してそのようなつもりなどありませんでした。どうか先の発言を取り消させて下さい」
「・・・其方の無礼を許そう、次はない」
頭を何度も下げるボルガンに、マリニアは鼻を鳴らした。
マリニアは再び優雅振る舞いでアレフへと振り返った。
「さてアレフ殿、ボルガンの不躾、どうかお許し頂きたい」
「気にしてはおりません、どうぞよしなに」
「お気遣い痛み入る」
マニリアは満足げに頷く様子を見せるが、その目は明らかに笑っていない。
「先程、其方は相違ないと答えた。何か申し開きはないのか?」
「私が暴力行為を働いた事実に相違はありません。この罪への裁き、全てはマリニア様にお任せいたします」
「お任せと・・・成る程食えぬ狸だ、いや失礼、つい本音が漏れた」
マリニアは呆れ顔で天を仰いだ。
全て任せる、とは結局責任の押し付けに過ぎない。
事の真相を自身で調べ、考え、始末をつけろと言われたと、マリニアは分かっている。
それはつまり同時に自分が試されているのだと。
その上で評価を下すのだろう。最悪の場合、評価次第で彼はこの都市から去る可能性すらある。
まったくもって食えないにも程がある。
「誤解なき様、他意はありません」
「抜か・・ゲフンゲフン、失礼した」
しれっと頭を下げるアレフを、マニリアは苦々しげに睨みつけた。
「困ったな、はは、本当に困ったぞ。他に言いたい事はないのか?」
「ありません」
「・・・古狸が」
マリニアは微笑みながら頬を引き攣らせた。
「はて、何のことでございましょう?」
アレフもマリニア、二人はお互いに笑っていた。しかしその目は完全に笑っていなかった。
「マリニア様、色々と重いものを被られているご様子、失礼ながら煩わしさを見受けてしまいます。そのようなもの、あなたには不要かと存じます」
アレフは不敵に笑った。
「とんと意味が分からぬなあ」
マリニアは不快そうに眉をひそめた。
つまりは「化けの皮を被るのも大変ですね」との皮肉だった。
「そのようなもの、仮にあろうと軽いものよ。其方も経験がおありではないかな?(お前も同類だろうが)」
これがマリニアで、
「はて?先程からとんと意味が分かりませんなあ(知らん、ほっとけ)」
これがアレフだった。
「ほほう?」
「いえいえ」
マリニアとアレフが笑いながら見つめ合った。その視線からは火花がぶつかり合うが、意外にも当人らは以外はその事に気が付いていなかった。
「何か申し開きはないのかな?このまま反論がなくては、其方を罰しなくてはならなくなる。それでよろしいのかな?(なんか言え!どうなっても良いのか!)」
「全てはマリニア様のお考えのままに。如何様な裁きも甘んじて受けます(自分で考えろ。どうなっても知らんがな)」
「成る程、其方程の正直者を私は知らぬ。いたく関心した。(ふざけやがってこの嘘つき野郎が!)」
「ご冗談を。マリニア様こそ私以上の正直者でありましょうに(お前もな)」
「はははは!其方との会話、実に楽しいものよ(やるか、この野郎!)」
「ふふふ、私もです(受けて立とう)」
それから何度か棘のある言葉の応酬が繰り広げられたが、そんな中で二人は楽しそうに笑い会っていた。
その様子をディーファ達は意味が分からず茫然と見守っていた。
・
「こんなものか」
先に切り上げたのはマリニアだった。
「おいアレフ、残念だが時間だ。楽しかったぞ。おかげで思いの外時間を潰してしまった」
「私もです」
マリニアの口調は、アレフとのやり取り中で、いつの間にかぞんざいなものはと変わっていた。
そんな様子にディーファ達は目を丸くしていたが、当の本人は気付いてないだろう。
「望み通り私なりのやり方を見せてやろう。実に簡単なことよ」
そう言うとマリニアは、舞台の中心へと再び歩き出した。
「おっと忘れてた。アレフ・バンデット、感謝するぞ。この機会、大いに利用させてもらう」
マリニアはアレフへと背中越しに、心底意地悪く微笑んだ。
「待たせたな皆々の者よ」
舞台の中心で、主演女優マリニアの演技が再び始まった。
彼女は両腕を広げると、聴く者全てに響き渡る声で語り始めた。
「結論を下そう。此度の件、ボルガンの咎と認める」
「なっ!」
ボルガンが顔面を蒼白とさせた。
「マリニア様、お待ち下さい!」
「黙れよ。口を塞ぎ、今ある命を感謝せよ。其方は戯れに助けられた、その愚行にも関わらずにな」
「何をもってそのような事を!」
「其方は兎、アレフは獅子よ。獅子は爪を納め殺さずに戯れた。それ故に其方は今生きている。それすら分かぬか」
「そんな・・・」
顔面を蒼白にさせたボルガンを、マリニアは見下すように睨み続けた。
「更に言おう。私は知っている、其方の不埒な行いの数々をな。だが其方の立場を慮り、敢えて不問にしてきた。それなのに其方ときたら、よりにもよって大事な金ヅルを!」
「金ヅル?」
アレフが突っ込みを入れた。
「ゲフン、ゲフン、いや失礼、舌が滑った」
マリニアは素早くそっぽを向くと、わざとらしく咳払いをした。
「おいボルガン!まさか私の客人まで巻き込むとはな。もうこれでは見逃せん」
マリニアは冷や汗を拭きつつボルガンを指差した。
「そんな、事実無根です!」
「私の言う事が偽りとな?面白い、では証拠を示してやろう」
マリニアの怒声に怯えたボルガンは、何も出来ずその場に立ち竦んだ。
「おいアレフ、機会をくれた礼にひとつ余興を見せてやる。なに、礼はいらんぞ」
誰もが沈黙する中、マリニアだけが悠然とした足取りで歩み出した。
「そこの給仕係の者、そう、其方だ。其方に尋ねたい」
マリニアは厨房に立つ中年の女性を指名した。
「は、はい、私などで宜しいのでしょうか?」
怯えた口調で応えたのは、先程イリスに食事を渡した女性だった。
マリニアは満足そうに頷いた。
「うむ、中立である其方が良い。其方にこそ何があったかを語り、思う事を申して欲しい。それこそが事実だ」
「そ、そんな大それた事、とても私には出来ません」
「心配は無用だ、其方が何を申そうと、私が其方を守ると誓う。故に頼まれてはくれぬか?」
「は、はい」
「うむ、頼んだぞ」
マリニアは頷くと、不敵な笑みを浮かべた。
「では、この騒動で一番悪いのは誰か尋ねたい。事実をありのままに申してみよ」
「はいマリニア様、悪いのはこの男です!」
質問された女性は迷うことボルガンを指差した。
「今回だけじゃありません!あのいやらしい男は、来ると必ず自分が偉いと自慢して、大人しそうな女の子達を狙っては、それはもう口に出すのもはばれるようなイタズラを何度も何度もしていたのです。一体何人の子があいつに泣かされたのか。今日も」
「止めよ!」
マリニアの一喝で女性が押し黙った。
「唐突に申し訳なかった。それ以上は申さずとも良い。彼女のために、な」
マリニアは涙目のイリスに視線を移すと、彼女に向け優しく微笑みかけた。
「其方の勇気と誠実に感謝を。約束通り其方の一切を保証しよう」
「ありがとうございます、マリニア様。あと、アレフさんはイリスちゃんを助けただけなのです。どうか寛大な処置をお願いします」
「うむ」
マリニアは肯定と示す様に右手を軽く上げた。
「さて、と」
マリニアは視線をボルガンへと移した。
その顔にはもう笑みはなく、鬼の形相が浮かび上がっていた。
「ボルガンよ、よくもくだらぬ事をしでかしてくれものよのう!」
室内にマリニアの怒声が響き渡った。
「そんな女の言うことを信じるのですか!嘘に決まってます!」
「黙れ下衆が!其方は私と私が信じた者を疑うのか?」
「マリニア様には一片の疑いもありません。しかしあれはただの給仕係、その様な者の戯言、信じるに値しません」
「阿呆が!ただの給仕の者だからこそ何者にも縛られぬ。だからこそ彼女を信じたのだ!それを否定するとはなんたる侮辱ぞ!」
「ち、違います!」
「愚図が!更なる侮辱を重ねるか!」
悲鳴に近い声で怯えるボルガンを、マリニアは冷徹な瞳で見下ろしていた。
「其方のお父上には大恩があった。それ故、これまでの事は見逃してきた。しかし此度の件で愛想も尽きた」
「そのようなつもりは」
「いい加減黙れよ」
マリニアの一喝に、涙目のボルガンはその場に崩れ落ちた。
・
「さて、どうしたものかな」
情けなく崩れ落ちボルガンを見下しながら、マリニアは思案していた。
「本来なら罷免にしても良いがな・・・さてボルガン、其方はどうされたい?不名誉な罷免か、或いは名誉ある処刑か?どちらが良いか選べ」
「お、お許しを!二度とこのような真似は致しません。どうか・・」
「戯言だ。軍規でもそこまでの処罰はない。それにこれまでの功績もある、今回だけは大目に見てやっても良い」
「あっ、ありがとうございます!」
「そうさな、取り敢えずは自宅への謹慎待機を5日、そして私の許可なしで今後いかなる理由があろうとも、この制限区への立ち入りを禁止する。ふむ、私も甘いものだ」
「いや・・しかし・・・私も監査の任務がありますので出入り禁止は困ります」
未練があるのか、ボルガンは不満げに訴えた。
そんなボルガンの様子を、マリニアは極寒の視線で見下していた。
「ここまで甘い沙汰に不服とな?私の恩情を無碍にするとは遺憾だ。誠に遺憾だ」
マリニアの発言が終わると、彼女の周囲から魔力が爆発的に膨れ上がった。
「ならば力にて決着をつけよう。古よりの魔力こそ正義の掟、今ここに示そうか!」
彼女の両腕に急速に強大な魔力が束され、彼女を中心に激しい風の渦が吹き始めた。
魔力こそ正義の掟
それは古来より伝えられた揉め事の際の最終決定手段
つまり魔法術式による命を掛けた決闘
そんな風習など絶えて久しいが、決して禁じられた行為ではない。
マリニアの膨大な魔力により、風の野砲術式が発動寸前だった。
精度、詠唱速度、そして威力とも凄まじく、一流の術者のみがなせる業だ。
あと一言唱えれば、強力な風の弾がボルガンの肉体を打ち砕くだろう。
「ひらに、どうかひらにご容赦下さい」
怒れるマリニアを前に、ボルガンは何度も何度も頭を下げ続けた。
「ご無礼をお許し下さい。全てマリニア様の御意志のままに」
「なんだつまらん。では、二度と抗うな。次あれば死を覚悟せよ」
マリニアは吐き捨てるように告げると、展開していた魔法術式を解除した。
吹き荒れていた嵐は収束し、辺りに静寂が訪れた。
「おいアレフ、沙汰は下した。幾らか不満はあるのかも知れないが、そこは勘弁しろ・・・違うか、こう言ったほうが良いだろう」
マリニアは唇の端を吊り上げ、意地悪く笑った。
「答えてもらおう、これで及第点はもらえたかな?」
「感服いたしました」
豪快に笑い続けるマリニアを前に、アレフは静々と頭を下げた。
「正直面倒だったぞ、お前の狙いが分からなかった
故な。これはお前の希望通りか?」
「はい。あなたのお力の程を知りたかったがため、このような真似をしてしまいました。誠に申し訳ありませんでした」
「とっくに知ってたさ、古狸が」
「あなたも中々かと」
「まあな、私も色々あるのさ」
それがアレフの本心だと察し、マリニアは眩しそうな目を細めた。
「近く場を設ける。また語り合おう、今度は本音をぶつけてな。久々に楽しませてもらった」
「こちらこそ。次の機会を楽しみにしております」
「おっと忘れてた。アレフ、お前の処罰もあったな。流石に無罪放免にはいかないからな」
「当然です。無法には法を持って会計を。私はそれに従います」
「マリニア様!それは!」
咄嗟にイリスが抗議の声を上げたが、アレフが片手を上げそれを静止した。
「私を無罪にしたら、マリニア様自身が法を犯すことになる。それは駄目だ。罪には罰を。マリニア様なら間違ったご処断などされない」
恭しく答えるアレフに対し、マリニアは苦笑を浮かべる。
「何だ、また私を試すつもりか?」
「失礼を承知で、質問に質問を返しましょう。試していると思われますか?」
「いや失言だった、許せ」
マリニアは目をつまり首を振った。
「アレフ・バンデット、軍規に従い、其方には独房入り七日間の処分を命じる。宜しいかな?」
「異論ありません。本来であれば極刑を申し渡されてもおかしくはない罪状であります。ご恩情あるご処置に感謝致します」
処断をあっさりと受け入れたアレフに、マリニアは満足げに頷いた。
「では、さっさと去ぬことにしよう。ここは食事の場の故、邪魔になる。ディーファ、アレフを連れてゆけ。抵抗するなら多少乱暴しても構わぬ、好きにせよ」
「はっ、御用命承りました」
ディーファの返事を聞き終えたマリニアは鷹揚に頷いた。
ディーファに連行されたアレフが横切る瞬間、マリニアは耳元に囁いた。
「退屈してたのでな、まあ中々に面白かったぞ」
アレフは苦笑しつつも無言で頷いた。
・
幕が降り舞台は静寂に包まれた。
主演たるマリニアが見守る中、アレフとボルガンが舞台たる食堂から退場して行く。
ただの部外者だったディーファは、そんな様子を憮然とした表情で見つめていた。
次回は10月2日更新予定です。
予告より13分間に合いませんでした。
申し訳ありませんでした。




