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5,王宮での試験

 初めて行く王宮はとても大きなところだった。私はメイドを志す平民の少女という設定。平民風の服に身をつつみ話し方も変えた。まあ、私にとっては前世に戻したような感じだったけど。 

他にもメイドや執事を目指す人が沢山いた。私は13歳だったがそれより小さい子供も少しはいる。みんな顔立ちが整っていた。きっと王宮で勤めるからにはそれなりに顔が良くないとダメなのだろう。そして氷の令嬢などと呼ばれるほど怖くて人の印象に残ってしまう顔をしているセアリスはというと…今日は髪を黒に染めてなるべく笑顔を絶やさないようにしていた。こうでもしないと絶対にバレてしまうから。 


セアリスのように王宮で働きたい人はたくさんの人がいるが、この中でも採用される人はごくわずかしかいないらしい。今日はその採用試験のようなものだ。内容には計算や地理などの筆記試験と実技試験、そして最後には面接がある。軽いノリでここまで来てしまったセアリスは勉強などはほとんどしていない。はたして、この試験をくぐり抜けられるのだろうか? 



 クロエさんはX円の卵を12個とY円の牛乳を4本買いました。クロエさんは5000円持っていきましたが店を出た後の所持金は4150円でした。このときの卵1個の値段を求めなさい。 


私はこの問題を見て苦笑いを浮かべた。これは一応このテストのラスボス問題らしい。ただ…普通に連立方程式の文章題ではないか。しかも地味に引き算も加えられて本当に少しだけ発展レベルの。なんか、数学の教科書からそのまま取ってきたというような…この乙女ゲームの開発者の手元には数学ワークでもあったのではないか?本当にザ連立方程式という問題だった。なんというか…周りがとても苦労して解いているというのに、私は1、2分であっさり解き終わってとても申し訳ない気持ちになった。まあでも前世の知識が生かされたってことでいいよね?私は何もずるはしていない。うん、そういうことにしよう。 



 2番目に待ち受けているのは家事。内容はお菓子を1つ作れというもの。今回、なんとプロの料理人たちがお菓子の評価をしてくれるらしい。 


これはさっきのように一筋縄ではいかず、なかなか困った。異世界人ならそこのとても美味しいお菓子を作って出せば簡単に高評価を得られるのではないか、と思うかもしれないが、私はネットとレシピ本に頼ってきた人間だった。パティシエでもないんだからお菓子のレシピを完璧に覚えているはずがない。とういうわけで自分の力で1から作るというのはなかなか厳しかった。 


そうやってうんうんと悩んだ結果、セアリスが作ったものは…

「こちらスノーボールクッキーといいます。スノーとは英語…失礼しました、アーレンス語で雪という意味でして、このクッキーの上にかけられている粉砂糖は雪を模しています。このお菓子の由来はですね…ある日とても仲の良い姉妹がいまして、ただ妹の方は体が悪くていつも家の中にいたんです。冬には姉は雪遊びに毎日でかけ、雪だるまなどを作っていました。そしてその作った雪だるまを妹に見せてあげたい、と思いましたが家に雪を持ち込むことは禁止されていて…それでも見せたかった姉はお菓子で作ることにし。その一家はお菓子作りを生業としていたので。こうしてできたのがスノーボールクッキーです。」 

お菓子の説明を、と言われた私はとっさにいい感じの物語を捏造した。本当の由来はなんなのか知らないがなかなかいい話だったのではないか。 


この物語が功を奏したのか、いや単純に味が良かったのか私のお菓子は大絶賛された。ここまではいいことだったのだが…   

今日の試験はここまでだったので私がさっさと帰ろうとしているところ…何やら1人のメイドさんがやってきた。

「あなたのスノーボールクッキーは非常に素晴らしかったので王子殿下にご賞味いただくことになりました。ということなので私についてきてください。」 

はいっっ?なんですって。お、王子殿下に食べてもらうって。その人ってエドワード殿下しかいなくない?今から会うって…別にこの前あんなことを言ったから私がここにいてもおかしくないとは思うかもしれないけど、私が身バレするかもしれない。 

私はまるで刑務所に連行される囚人のような格好でとぼとぼ歩いた。まさかこんなことになるなんて。これなら一次試験は間違いなく受かった気はするけど…正体がバレたら絶対に却下される。 


ついた先には予想通りエドワード殿下がいた。私はバレないように全力で笑顔をつくる。ただ、バレたのだろうか、すごい怖い笑顔でこっちを見てきた。なんだろう、とても圧をかけられている気がする。私の笑みはだんだんぎこちないものに変わっていった。私はずっと片隅でビクビクしながら待っていた。 

そう居ても立ってもいられないほど心配していたが…さいわい何も自分の正体についてはふれられなかった。案外、変装はいけるものね。そんな呑気なことを考え、セアリスはすっかり安心していたが…

エドワードはもちろん気づいていた。今、目の前にいるメイド見習いがセアリスであることに。自分の婚約者の顔だ。髪を染めたくらいなら見分けられる。まさかこんなところまでくるとは、今回は最初の筆記試験だけでもかなり難しかったと聞いているのに…特に最後の計算問題は方程式というとても高度な方法で解かないといけない何年に一度かの超難問だとか。試験官によるとセアリスはそれを軽々と解いていたらしい。それに加え料理でも他の人に勝っているなんて。エドワードに出されたスノーボールというお菓子は口に入れるとほろほろと崩れてとても美味しかった。彼女はきっとかなり優秀な人なのだろう。それなのにどこかバカっぽくてとても単純。なんだかとても恵まれた人だ。   


意外と王宮で1回働かせてみたら面白いかもしれない。絶対に何か面白いことが起こる気がするし、彼女に会える時間も増えるだろう。 

そうしてセアリスが王宮で働くことはほとんど決定になった。


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