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4,婚約者に嫌われたい!

 「あ、あのエドワード殿下はどのような女性がお嫌いですか?」 

ある日の午後、私は自分の婚約者に尋ねた。これを聞いてどうするのかというと…もちろん彼に好かれるために嫌な女性のタイプを聞いたのではなく、自分自身がその嫌いな性格の人になるためだった。これも婚約破棄と国外追放のため。私はどんな役柄でも演じてみせるんだから。  


しかし…エドワードにはセアリスの思惑がばればれだった。 

エドワードはセアリスが何故かは分からないが自分との婚約を破棄したがっていることを感じ取っていた。会うたびに婚約破棄の話題を持ち出してくることもそのせいだろう。で、今日は私に嫌われたいということですか。そのためにこんな質問をしたと…きっと彼女はエドワードが言ったとおりの性格を演じるようになるだろう。セアリスは単純な人だから言ったことはすぐに信じるに違いない。 

エドワードは少し遊んでみたくなった。 

「私は自分にお金や顔目的で媚びてくる人は嫌いです。」 

果たして彼女はこんな人でも演じるのだろうか?エドワードは心の中で悪い笑みを浮かべる。 

「………。」


セアリスは困っていた。嫌いな人が媚びてくる人だったから。いや、そんなん、やる方が恥ずかしいよ!さすがにそれはやりたくない。ただ彼がそんな人が嫌いなのもよくわかる。ただ、そんな人になるのはさすがにプライドが許さなかった。いったんどんな感じになるのか想像してみる。すると乙女ゲームで見た悪役令嬢の姿がそのまま浮かんできた。うん、無理だ。こんな、氷の令嬢とか呼ばれているような顔で媚びたら気持ち悪すぎる。

こうなったら、

「他にはありませんか?嫌いなタイプ。」 

私は逃げた。 

「うーん、他…偉そうに自慢してくる人とかでしょうか。」 

それだ!それなら少し、いやだいぶ嫌だけど媚びるよりはまし。 

「なら、そんなふうにはならないようにします!」 嘘だけどね!もちろんそんなふうになるわよ。そしてアーレンス王国への切符をつかむんだ! 


エドワードにはそんなこともやはりバレていたが。セアリスの言葉も全て軽く流されていた。むしろ、今後どうなるのかにわくわくしていたほどだ。 



 翌日からセアリスはさっそく性格を変えようと動きだしたのだが…1つ大変なことに気がついた。わ、私自慢できることが特にない!自慢してくる人になろうと思ったけど、お金持ちなことを王族に言っても鼻で笑われてしまう。これは由々しき事態だった。何か、特技のようなものを見つけなければ!


 


 そうあせったセアリスが考えついたのは…掃除や料理などの家事だった。日本には学校の掃除をするという文化があったし、料理も少しはやっていたからできるだろう。このことを自慢すればエドワード殿下には嫌われ、屋敷の人からの好感度は上がるはず。一石二鳥だ。 

さっそく次の日に掃除をするためズボンに汚れてもよいブラウスという令嬢にはあるまじき格好をした。そして雑巾とバケツとほうきを持ってメイドたちが掃除しているところに向かう。

「私も掃除に参加させてもらえないかしら?今日は掃除をしたい気分なの。」 

どんな気分だよ、と心の中でツッコミを入れておく。 

メイドたちは一瞬かたまってこぞってこちらを向いた。信じられないというような顔をしている。その後、少し反対されたが…これも婚約破棄のためだ。私はお構いなしにもくもくと掃除を始めた。 

ほうきでさっさと床をはいて雑巾がけをした。普通の令嬢だったら雑巾なんて絶対にやりたくないと思うけど…私には余裕だった。日本の掃除文化をなめんなっていう話だ。私も小中学生のときはよく教室の雑巾がけをしていたから。とくに私が住んでいた場所は比較的少人数学級で少ない人数で教室を掃除していたから1人で広い面積を掃除するのも簡単だった。

私は1ヶ所目の掃除を終えるとさっさと次の場所に移った。屋敷の人からの評価はやはり爆上がりしている。うふふ、ここまでは計画通り。あとは殿下にこの様子を見せつけて自慢するだけ。彼の反応が楽しみだ。  



 エドワードが1週間ぶりミレー公爵邸を訪ねると前より綺麗になっているような気がした。掃除係のほうをよく見ると、何やらとても熱心に雑巾がけをしている少女がいる。その姿はとても異端だった。その雑巾のはやさと丁寧さは王宮でもなかなか見ない程だ。そもそも雑巾掛けをあんなに大胆にできる人はなかなかいなかった。ただ、エドワードはすぐに気がついていた。 

私の婚約者はなぜ侍女などに混ざって掃除をしているのでしょうか?しかもなぜそんなに掃除するのがうまいの?  



私は背を向けていてもわかった。ターゲットであるエドワード殿下が来たことに。より、掃除を頑張る。雑巾のスピードを1.25倍ほどにした。あとはこのことを自慢するだけ。 


「殿下!ごきげんよう。私、今掃除をしていたんですよ!とっても偉くないですか?この前からわざとこんな汚い服を着て手を汚しながら雑巾がけをしているのです!これは令嬢として表彰されてもいいレベルなのでは…」 

服に関しては本当は掃除服の方が楽でよかったが…言っていることはあながち間違ってない。それを聞いた殿下はというと…一瞬ぽかんとしていた。  



セアリスはどうやら自分が掃除していることを褒めて欲しいらしい。なんだかご褒美をまつ犬のようだった。エドワードは最初はそう思ったが、後から違うことに気づいた。これは、彼女は掃除したことを自慢しているのだ。先週の話を思い出す。うん、間違いない。エドワードは自分の嫌いなタイプが偉そうに自慢をしてくる人と答えたのだが…きっとセアリスの中ではそのようにやっているつもりなのだろう。しかしエドワードにとってはそれはやはり褒めて欲しいと言っているようにしか聞こえない。何を自慢してくるかと思えば、まさか掃除とは…

「あはははは…」 

ついに笑いを堪えられなくてエドワードは笑い出した。自分の前ではセアリスがえ?というような顔で困惑している。ただ、それがもっとおかしくてまた笑い出した。 


セアリスは笑いかけるエドワードを見ておどおどしていた。なぜ?私は自慢みたいなものをしたはずなのに?その反応が笑いだなんてことある?もしかして私のことを軽蔑して笑っているとか。ただ、そんな性格の悪そうな笑い方ではなかった。それは子供の純粋な笑いで…

セアリスはいったん他の人の立場になって考えてみることにする。 

掃除を一生懸命やる公爵令嬢がその身分不相応な活動を自慢する…待って、これあまり自慢になってなくない?周りから見れば身分の高い人が自ら掃除をやっているんだよ。そんなんものすごく優しい人で本当に女神様みたいじゃん。そんなことを言ったとしてもただ褒めて欲しい人みたいで…

うわわー! 

失敗した。私はとても恥ずかしくなった。こんな褒めて!みたいなことを人に対して言ってしまうなんて。しかもその人とは婚約破棄したい婚約者だった。どうかさっき言ったことで何も思われていませんように… ただ、そんな願いも無駄で…

「掃除はとても良い行いだと思いますよ。どうですか?王宮でメイドの仕事でもしてみたら。王宮のメイドはプライドが高いのでなかなか雑巾がけを自ら真面目にやるということはないんですよ。給料だけはけっこういいです。」

「え?」  

「いや、今のは冗談です。公爵令嬢が働く、しかもメイドだなんてとんでもない。」  

メイド…?な、なんと!もしかして殿下は天才だったのか?それは、名案かもしれない。だって仕事ができるから、金を稼げるし。そしてアーレンス王国に行ったらどうせ働くことになるから、その力を今からつけることができる!

「いや、そういう意味ではなくて…その、王宮メイドになるためにはどうしたらいいですか?」 

「はい?」 

「私将来の夢、メイドさんにしようかな!ということなのでもし目指す場合はどうしたらいいかと…」

「あなたは一応王妃になる予定なのですが…」

いや、婚約破棄しますからそんなはずはありませーん、と私は心の中で言った。 

「いや、それでも…」 

「……それなら王宮メイドを少し観察してみて話を聞いてみてははどうですか?」 

「そうですね…なら今度王宮に行ってもいいですか?」 

「え?それなら、いいですけど…あなたが自ら行くとは…」 

「ならそういうことで。お願いします!」  

私のテンションはメイドという夢を見つけたことで舞い上がっていた。




 



 










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