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28,学園ぼっち回避計画①

 学園入学まで、あと数か月。 

その事実に、セアリスは密かに危機感を抱いていた。 

「……このままでは。」 

王宮の廊下を歩きながら、彼女は深刻な顔で呟く。 

「私は学園でぼっちになるかもしれない。」 

「また始まった。」 

隣を歩いていたミリアが即座に言った。 

「いや、でも本当にあり得るのよ。」 

休憩室へ入るなり、セアリスは大真面目な顔で言った。 

「学園って友達同士で行動するのでしょう?」 

「まあそうですね。」 

「お昼も一緒に食べたり。」 

「しますね。」 

「授業移動も。」 

「します。」 

「……終わったわ。」 

セアリスは静かに項垂れた。 

「まだ始まってもいませんよ!?」 

ミリアが慌てる。 

しかしセアリスは本気だった。 

「考えてみて。私は今まで、まともに同世代の令嬢と交流したことがないのよ。」 

「夜会とかでは話してるじゃないですか。」 

「あれは社交辞令。」 

即答だった。 

「“ご機嫌よう”“お綺麗ですわね”“最近はいかがお過ごしですか”で終わるの。」 

「まあ貴族令嬢ってそんな感じですよね。」 

「でも学園は違うでしょう?」 

セアリスは遠い目をした。 

「もし誰とも仲良くなれなかったら、昼食を一人で食べることになるわ。」 

「別に一人で食べても……。」 

「絶対目立つ。」 

真顔で言われた。 

確かに目立つ。セアリスは無駄に目立ってしまうのだ。 

「だから今のうちに友達作りに慣れておく必要があるのよ。」 

「慣れるって、そんな訓練みたいに。」 

「訓練よ。」 

セアリスは真剣だった。 

 そして数日後。 

王妃教育の一環として開かれた、小規模なお茶会。同年代の令嬢たちが集まる場である。セアリスは席へ座りながら、静かに決意した。 

(今日こそ友達を作る……!) 

気合いだけは十分だった。 

しかし、 

「…………。」 

誰も近寄ってこない。令嬢たちはちらちらこちらを見る。だが目が合うと逸らされる。なんとなく半径数メートル空いていた。 

(……なぜ?) 

セアリスは地味に傷ついた。すると近くで小声が聞こえる。 

「やっぱり綺麗な方ね……。」 

「でも厳しそう……。」 

「王太子殿下の婚約者様でしょう?」 

「絶対粗相できないわ……。」 

セアリスは静かに目を閉じた。 

(また顔ね……。) 

最近、本当に多い。だが今日は諦めない。学園ぼっち回避のためである。 

セアリスは意を決して立ち上がった。 

近くにいた令嬢2人へ歩み寄る。 

「ご機嫌よう。」 

「ひゃっ!?」 

片方が肩を跳ねさせた。 

セアリスが少し傷つく。 

「そんなに驚かなくても……。」 

「も、申し訳ありません……!」 

逆に謝られた。 

なんだか余計つらい。 

「本日は寒いですね。」 

「そ、そうですわね……!」 

「もうすぐ衣替えをしないと…」 

「え、ええ……。」 

会話が続かない。ものすごく続かない。 

沈黙が重い。 

セアリスは内心で焦った。 

(どうすればいいの……!?) 

すると、 

「セアリス様は、やはり学園でも首席を狙われるのですか?」 

1人が緊張した声で聞いてきた。 

「え?」 

「王妃教育でも非常に優秀だと……。」 

「ああ。」 

セアリスは少し考え、正直に答えた。 

「特に首席にこだわるつもりはないわ。」 

「そうなのですか?」 

「ええ。必要なことを学べれば十分だもの。」 

「……。」 

令嬢たちが微妙な顔をした。 

余裕ぶっている人みたいに聞こえた。 

違う。 

本当にそういうつもりではない。 

セアリスは慌てた。 

「ええと、でも私、裁縫はあまり得意ではないし……。」 

「えっ。」 

「前に刺繍をやり直し続けて徹夜したこともあるわ。」 

「徹夜……。」 

なんか重い。失敗した。 

空気がまた固くなる。 

(まずい……!) 

セアリスは焦った。 

するとさらに別の令嬢が恐る恐る聞く。 

「しゅ、趣味などはございますか?」 

(来たわ! 会話の糸口!) 

セアリスは少し目を輝かせた。 

「最近はメイド業務が楽しくて。」 

「……メイド業務?」 

「あ。」 

しまった。 

令嬢たちの顔に「???」が浮かぶ。普通の令嬢はそんな趣味を持たない。 

「ええと……掃除とか、洗濯とか……。」 

「…………。」  

空気が死んだ。 

セアリスは心の中で頭を抱えた。 

(終わった……。) 

完全に変人扱いされている気がする。 

実際ちょっと変わっている自覚はある。 

するとその時。 

1人の令嬢が、おそるおそる口を開いた。 

「……洗濯、楽しいのですか?」 

「え?」 

セアリスが顔を上げる。 

「ええ、まあ。綺麗になると達成感があるでしょう?」 

「……わかるかもしれません。」 

小さな声だった。 

「本当に?」 

「はい……。私も、たまに刺繍を無心でやっていると落ち着くので……。」 

「ああ、それは少し近いかもしれないわ。」 

そこからだった。 

「あと紅茶を淹れるのも好きで。」 

「えっ、私もです!」 

「茶葉の香りって落ち着きますよね……。」 

ぽつり、ぽつりと会話が繋がっていく。 

 だが。 

普通の友達同士のように盛り上がるには、まだ遠い。 

どこか皆緊張している。 

セアリスもぎこちない。 

それでも、完全な沈黙ではなくなった。 

帰り際、 

「本日はありがとうございました。」  

令嬢たちが頭を下げる。最初より表情は柔らかい。だがまだ少し距離はある。 

セアリスはその背中を見送りながら、小さく息を吐いた。 

「……難しいわね、友達。」 

思った以上に。かなり難しかった。 

すると後ろからミリアが近づいてくる。 

「お疲れ様です。」 

「全然駄目だった気がする。」 

「いや、最初よりは全然良かったですよ。」 

「そうかしら……。」 

セアリスは少し肩を落とす。 

「もっと自然に仲良くなれると思っていたのだけど。」 

「使用人相手の感覚で行くからですよ。」 

「そんなに違う?」 

「違います。」 

ミリアは即答した。 

セアリスは少し考え込み――やがて、小さく苦笑する。 

「……学園入学までに、もう少し頑張るわ。」 

どうやら“学園ぼっち回避計画”は、まだ始まったばかりらしかった。 

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