26,セアリス復帰
休暇を終えたセアリスは、小さな箱を持ってエドワードの執務室前へ来ていた。
(……なんでこんなに緊張してるのよ。)
ただ渡すだけだ。そう自分へ言い聞かせながら扉を叩く。
「入ってください。」
静かな声。セアリスはそっと中へ入った。
エドワードは机で書類へ目を通していた。
相変わらず仕事量がおかしい。
「休暇は終わったのですね。」
「はい。」
「そうですか。」
エドワードはゆっくり視線を上げる。
「……それで?」
「え?」
「何か用があるのでしょう。」
完全に見抜かれていた。セアリスは少し気まずくなる。
「ええと……。」
小さな箱を差し出した。
「休暇のお土産です。」
エドワードがわずかに目を細める。
「私に?」
「はい。」
「……珍しいですね。」
「お世話になっていますので。」
エドワードは静かに箱を受け取る。そして蓋を開けた。中には、あのペン。
沈黙が続く。
(あれ……?)
セアリスは急に不安になった。趣味じゃなかっただろうか。もっと高価な物の方が良かった?やはりやめればよかったかもしれない。
だが、
「……綺麗ですね。」
彼はそうつぶやいた。
セアリスは瞬きをする。エドワードはペンを見つめていた。そしてその表情は穏やかだった。
「殿下、いつも書類を書いているので……使いやすいかなと。」
「覚えていたんですか。」
「え?」
「私が普段どんなものを使っているか。」
セアリスは少し固まった。言われてみれば、確かに自然に選んでいた。
「……たまたま目に入っただけです。」
「そうですか。」
エドワードは小さく笑った。その笑みは柔らかい。
「ありがとうございます。」
そして、彼は机の上の書類を1枚引き寄せると。そのペンを取り出し、自然な動作で文字を書いた。さらり、とインクが紙へ滑る。
エドワードは少し目を細める。
「……書きやすい。」
その声音は、本当に気に入った時のものだった。セアリスの胸が少しだけ軽くなる。
「それなら良かったです。」
エドワードは静かにペンを眺める。
そして、
「大切に使います。」
そう真っ直ぐ言った。大げさではない。けれど、妙に心へ残る声だった。




