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19,セアリスの画力問題

 「セアラ、悪いんだけどこれ手伝ってくれない?」

昼過ぎ。倉庫で備品整理をしていたセアリスへ、ミリアが紙束を抱えて駆け寄ってきた。

「今度の交流会で使う案内用ポスターなんだけど、人手足りなくて……。」

「ポスター?」

「そう。アーレンス側の人にも分かりやすいように、絵も入れたいの。」

なるほど、とセアリスは頷いた。

確かに文字だけより絵の方が伝わりやすい。

「じゃあ私は説明文を書けばいい?」

「それもお願いしたいんだけど……。」

ミリアは少し気まずそうな顔をした。

「絵を描ける人がいなくて。」

「……絵。」

嫌な予感がした。

数十分後。

セアリスは机へ向かい、とても真剣な顔でペンを握っていた。

(落ち着いて描けば大丈夫よ。)

たぶん。……

「セアラ、まずは食堂の案内お願い!」

「わかったわ。」

セアリスはこくりと頷き、紙へさらさら線を描いていく。テーブル。椅子。料理。そして人。  

まあ人は棒人間でいいか。簡単に書くことは大切!

「できたわ。」

「どれどれ――」

ミリアが紙を覗き込み、

固まった。

「…………。」

「どうしたの?」

「えっと……。」

ミリアの顔が引きつっている。

「これ、人……?」

「そうだけど。」

「……なんか人外の魔物じゃなくて?」

「人よ。」 

もしかしてこの世界には棒人間というものがなかった?

セアリスは真顔だった。

紙の上には、妙に手足の長い謎の謎の生物が描かれていた。しかも笑顔のつもりなのか、口が異様に大きい。 

「えっ……。」

近くにいたリナも覗き込み、硬直する。

「こ、怖いです……。」

「どうして!?」

セアリスは衝撃を受けた。

「ちゃんと食事している人に見えるでしょう!?」

「夜道で会いたくないタイプです!」

「そこまで!?」

かなりショックだった。

その時だった。

「何してるの?」

聞き慣れた軽い声が背後から降ってくる。

振り返れば、案の定ルヴェルトが立っていた。

(最悪。)

セアリスは心の中で顔を覆う。

ルヴェルトは興味津々といった様子で机へ近づいた。

「へえ、絵描いてるんだ。」

「見ないでください。」

「なんで?」

「なんとなく嫌な予感がするので。」

しかし時すでに遅かった。

ルヴェルトは紙を覗き込み――

数秒沈黙したあと。

「っ、ふ……。」

肩が震えた。

「……。」

「は、ははっ……!」

笑い始めた。

しかもかなり本気で。

「ちょっ、待って、何これ!」

「笑いすぎでは!?」

「いやだって、これ本当に人!?」

「人です!」

ルヴェルトは完全にツボへ入っていた。

机へ突っ伏しそうになりながら笑っている。

「セアリス、君、絵壊滅的だね……!」

「そんな言い方あります!?」

「いや、ごめん、でも無理、ふふっ……。」

セアリスはものすごく不服だった。

「ちゃんと食堂って分かるでしょう!」

「分かる前に恐怖が来る。」

「恐怖!?」

ひどい。

するとルヴェルトは涙を拭きながら紙を持ち上げた。

「しかも何で全員同じ顔なの。」

「描きやすいので……。これは効率を重視したのです。今、私たちはとても忙しいのですから。」

「理由が分からなくはないけど、やっぱちゃんと描こうよ!これ、王宮に貼り出されるんだよ。」

再び笑われる。

セアリスはだんだん恥ずかしくなってきた。確かに、こんな綺麗な王宮に貼り出されると場違いかんがすごいかも。

「……やっぱこの絵はやめましょう。もともと絵なんて必要なかったんですよ。」

少しふてくされながら言うと、ルヴェルトは意外そうに目を瞬いた。

「え、拗ねた?」

「拗ねてません。」

「いや絶対拗ねてる。」

楽しそうだった。

本当にこの人は人の反応を見るのが好きである。

その時。

「何か楽しそうなことをやっているね。」

ここでエドワード登場。なんか最近、この場面をよく見る気がする。

ミリアとリナが一瞬で背筋を伸ばす。

「殿下!」

「随分騒がしいな。」

エドワードはそう言いながら机の紙へ視線を落とした。

そして、止まる。

「…………。」

空気が静まった。

セアリスはまたもや不安になった。この絵を笑われることはわかっている。

「……殿下?」

エドワードは数秒黙り込み、

「……これは。」

「食堂の案内です。私が描きました。」

「…………。」

また沈黙。

やめてほしい。

反応に困られるのが一番つらい。こんなことになるくらいなら大笑いしてよ。

すると隣でルヴェルトが耐えきれなくなったように吹き出した。

「エドワード、感想は?」

「……味はある…と思います。」

「無理やり絞り出したね?」

「……違いますよ。」

エドワードは少し眉をひそめた。

だがその目は、ほんのわずかに笑っているようにも見えた。

セアリスはさらにショックを受ける。

「そんなに変ですか……?」

「いや。」

エドワードは紙を見ながら言った。

「少なくとも、一度見たら忘れない絵だとは…」

「絶対に悪い方の意味じゃないですか!それはぜんぜんフォローになってません!」

ルヴェルトがまた笑い出した。

最悪だった。

しかし。

「でも、」

不意にエドワードが続ける。

「説明文はとても分かりやすいですね。」

「……え?」

「絵がなくても、十分わかりますよ。」

セアリスは少し目を瞬いた。

するとルヴェルトも頷く。

「確かに。セアリス、説明はめちゃくちゃ上手いしね。説明は、だけど。」 

いちいち鼻につく言い方をしてくる。

「絵だけ壊滅的だけど。」

「そこ補足しなくていいでしょう!?」

再び笑われる。

けれど、不思議と嫌な気分ではなかった。

ミリアたちまで笑っているせいだろうか。

なんだか空気が妙に平和だった。

するとルヴェルトが、ふとペンを取った。

「じゃあ代わりに描いてあげようか?」

「え。」

さらさらと線が走る。

数秒後。

紙の上には、簡単なのに妙に分かりやすい食堂の案内絵が完成していた。

「……上手。」

セアリスは思わず呟く。

「まあね。」

ルヴェルトは得意げに笑った。

「昔から落書き好きだったし。」

「なんかやばそうな趣味。だけど絵が上手いのはずるい……。」

「何その負けたみたいな顔。」

「負けました。」

即答だった。

するとルヴェルトはまた楽しそうに笑う。

「万能じゃないんだね、君。」

その言葉に、セアリスは少しむっとした。

「別に万能になりたいわけではありません。」

「でも周りから見るとかなり何でもできる人だったよ?」

「……絵以外は?」

「絵は壊滅。」

「ひどい!」

厨房騒動以来の大笑いが部屋へ響く。

セアリスは不満そうな顔をしながらも、小さくため息を吐いた。

……たまには、こういう騒がしい時間も悪くないのかもしれない。

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