表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/31

18,翻訳係

 その日、セアリスは会議室に呼び出されていた。なぜかというと… 

また喧嘩が勃発しているから。最近は本当にこんなことが多すぎる。

「だから、この数量では足りないと言っているんだ!」

「いや、こちらの記録では問題ないはずで……!」

会議室へ入った瞬間、険悪な空気が流れていた。テーブルを挟み、王宮側とアーレンス側が向かい合っている。どうやら備品管理の話らしい。

しかし問題は。

「言葉の意味が微妙にズレている……。」

セアリスは小さく呟いた。

アーレンス語の“予備”という表現が、こちらでは“余分”に近い意味で伝わっている。

つまり。

アーレンス側は「不足時のための追加備品」を要求しているのに、王宮側は「無駄な量を欲しがっている」と受け取っていたのだ。

「……あの。」

セアリスは恐る恐る手を挙げた。

全員の視線が集まる。

「言葉の解釈が少し違うかもしれません。」

「何?」

王宮側の担当者が眉をひそめる。

セアリスは説明した。

「アーレンス側は“緊急用の備蓄”の意味で言っているみたいです。無駄に増やしたいわけではなくて。」

一瞬、空気が止まった。

アーレンス側の男性が勢いよく頷く。

「そう! それだ!」

「なるほど……。」

王宮側も少し納得した顔になる。

「でしたら、保管場所を別に分ければ問題ないのでは?」

セアリスがそう言うと、会議室は急に静かになった。

「……確かに。」

「それなら管理もしやすいな。」

「輸送時も分けられる。」

さっきまで揉めていた空気が、一気に落ち着く。

(よ、よかった……。)

セアリスは内心ほっとした。

すると。

「へえ。」

楽しそうな声が響く。部屋の奥。椅子へ座っていたルヴェルトが、面白そうにこちらを見ていた。

「また君?」

セアリスは少し嫌そうな顔をした。

「“また君”とは何ですか。」

「だって最近どこでもいるじゃん。」

「私もそう思います。会うにしては回数が多すぎる。」

本当に。

最近やたら巻き込まれる。

ルヴェルトはくすくす笑った。

「でも助かったよ。完全に噛み合ってなかったし。」

「言葉って難しいですからね。」

セアリスは資料を整えながら答えた。

「同じ意味でも国によって感覚が違いますし。」

「それを自然に理解できるのすごくない?」

「本を読んでいただけです。」

「またそれ言う。そんな天才、いてたまるか。」 

ルヴェルトは笑う。完全に信じていない顔だった。 

「というか翻訳ならあなたでもできるのではないですか?この前、とても流暢にこっちの言葉を話していたではありませんか。」 

「いや、僕は文化なんて理解していないから。まあ頑張れば翻訳ぐらいできるけどね。」  

「ならその力を使ってくださいよ。」 

「やだよ。君の活躍しているところが見られなくなってしまう。」 

「私のことはどうでもいいですから。」 

私はそう説得しようとしたが、彼はやはり折れず…結局セアリスが翻訳者の係を務めた。

会議はその後、驚くほどスムーズに進んだ。

必要な備品数。

保管方法。

輸送時期。

セアリスが間に入って説明するたび、両国の会話が綺麗に繋がっていく。

そして会議終了後。

「助かった。」

「ありがとう、セアラ殿。」

「また来てくれ。」

アーレンス側から次々礼を言われ、セアリスは少し困った。

「い、いえ、私はただ……。」

「君、本当に便利だね。」

ルヴェルトがさらっと言った。

「便利って言い方やめてください。」

「でも事実。」

ルヴェルトは頬杖をつく。

「言葉わかるし、文化も理解してるし、変に揉めない方向へ持っていくし。」

「揉め事は疲れるので……。」

「それ。」

ルヴェルトは笑った。

「向こうならかなり重宝されると思うけどな。」

その言葉を聞いてセアリスは少しだけ視線を落とした。

「……そうですか…」

「うん。」

ルヴェルトは軽い調子で続ける。

「実際、通訳とか交流補佐とか足りてないし。」

その瞬間。

セアリスの目が少し見開かれた。

(通訳。)

(交流補佐。)

(つまり仕事……?)

ルヴェルトはまだ軽い雑談のつもりだった。しかしセアリスの頭の中では。

(国外で働ける可能性がある……!?)

かなり大きな話になっていた。

「特に今みたいに、両方の文化理解してる人少ないんだよね。」

「…………。」

「君、普通に向こうで働けそう。」

セアリスは真顔になった。ルヴェルトが少し首を傾げる。

「……セアラ?」

「ちなみに。」

セアリスは真剣な顔で聞いた。

「アーレンスで働く場合、住居ってどんな感じなんですか?」

「え。」

「あと物価とか。」

「ちょっと待って。」

「普通に生活するならどの辺りがおすすめですか?」

急に質問が具体的になった。ルヴェルトは数秒黙る。

 そして…

「……もしかして、本当に国外就職考えてる?」

セアリスははっとした。

「あ。」

しまった。

つい本音が出た。しかしルヴェルトは吹き出した。

「ははっ! 何それ!」

「わ、笑わないでください!」

「いやだって普通、“向いてる”って言われて最初に住居事情聞く!?」

「重要でしょう!?」

セアリスは真剣だった。

「生活基盤は大事です!」

「そこなの!?」

ルヴェルトは完全に笑っていた。

そしてその青っぽい瞳は、どこか楽しそうだった。

「……やっぱり君、面白いな。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ