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クエスト

『冒険者ギルド』。それは昨今のファンタジー小説やRPGにおいて絶対に欠かせない、お約束の組織名である。

だが驚くことに、綾子さんたち同人サークルの作った原作ゲームには、そんなありふれた組織が存在していなかった。


「あまりにもテンプレ過ぎる」とあえて実装しなかったのか、単に設定を作り忘れたのか。はたまた、テストプレイでゲームバランスの崩壊に気付き、面倒になってギルドのシステム丸ごと削除したのか。

――理由はどうあれ、そのポンコツ仕様のおかげで、この世界には『冒険者』という概念自体はあっても『冒険者ギルド』という組織は存在しないのだ。


当時のやり込みプレイヤーたちが検証で見つけ出した仕様によれば、クエスト依頼を受けたければ『町の受付所を訪れる』というイベントを発生させる必要がある。

しかし原作では、それがUI上のただのダイアログウィンドウだけで処理されていたため、その『役所』がマップのどこにあるのか、そもそも受付NPCがどんな姿をしているのかすら完全に謎のままだった。

そんなメタ的な事情がある中で、俺はどうやって現実となったこの町でその『役所』を見つけ出したのかって?

――答えは意外なほど単純。その辺を歩いている町民(NPC)に、直接『道を訊いた』だけである。


ここは開発途中で没になった『本来の冒険者ギルド』のマップをそのまま流用しているのかは知らないが、やたらとだだっ広い空間はひどく殺風景だ。そこにあちこち突っ立っているNPCたちは、皆一様に『冒険者』らしい格好をしている。

――そして言うまでもないが、非常に目のやり場に困る。

男だろうが女だろうが、彼らの服装は『露出過多』の一言に尽きるのだ。


(どうしてだろう。アイリたちの格好が突然『まとも』に見えてきた……)


「すみません。依頼を受けたいんだが、手ごろなものはあるか?」

「それは……ふぇ!? ぽ……ぽぽぽ、ポークナイトだんしゃっ――!?」

「――エンリーだ。冒険者のエンリー」

「……よ、ようこそ……エンリー様――っ」

「『様』はいらん。こいつらは仲間のリーヌ、マナにリース。んで、依頼のことなんだが――っ」

「も、申し訳ありません! エンリーさっ……エンリー殿に斡旋あっせんできる依頼は現在ありません!」

「なんだ? ないのかよ?」

「ごめんなさい! すみません! だってポークナっ……エンリーさっ……エンリー殿に、こんな低俗なことをさせる訳にはっ!……私がどうなっても構いません。どうか、家族だけは――っ!」

「なんだ、そういうことか。俺はただの『しがない冒険者』だと言っただろう。どんな依頼でも、俺たちにできるならさっさとよこすんっ……よこせ!」

「は、はいぃ!」


ガクガクと震え続ける公務員NPCちゃんを適当にスルーしつつ、俺は提出されたクエスト依頼書の束を確認した。


(だいたい予測はしていたが……見事に、攻略フォーラムで読んだ事前情報通りだな)


提示されたクエストは五つ。

まずはお約束の『ペット捜索』。これはたぶん、フォーラムの情報通り『ペット』が実際には『危険♡』な魔獣だというオチなんだろう。


二つ目は『ゴブリン討伐』。こっちは敗北してヒロインたちのエッチなCGが回収できるお決まりのイベントだが……絶対にやらないからな!? 本気でアイリに殺されかねない!――っていうか、目が怖い。


三つ目は『薬物密売の調査』。だが、こっちはやるだけ無駄らしい。どうやら『密売組織の元締め』が騎士団長のドラ息子らしく、せっかく捕まえても権力で証拠を揉み消され、EXPすら手に入らないのだ。――エロゲのくせに、無駄にリアルで胸糞悪い展開である。


四つ目は『とある施設の風呂掃除』。これなら安全にEXPが稼げそうに見えるが、実は裏がある。施設のオーナー(親玉)にヒロインたちが気に入られ、結果的に『そういう仕事』を斡旋される地雷ルートが開放されちまうのだ。……論外だ。


最後に『ゴミ拾い』。俺たちならこれ一択だな。ちょっとした『罠』があるけど、他より百倍マシだからな。


「ゴシュジン――もとい、『しがない冒険者のエンリー』さん? 受けるクエストは決まったっすか?」


(こいつっ! 絶対わざとだろう……!)


「ああ。リーヌは驚くかもしれないが、俺はこれに決めた」

「なるほど『リーヌ』ね。私は別にオッケーっすよ。マナちゃんは?」

「ま、またその偽名ですか!?……まあ、エンリーさっ、ごほごほっ! エンリーが、お決めになられたことですし……」

「ダメっすよ、マナちゃん。今は身分を隠して『隠密行動中』なんだから、ちゃんと喋り方を変えないと周りにバレるっす」

「なら、こんなところで大声で『身分を隠してる』なんて言ったら、隠密の意味が全くありませんわよね!?」

「――てへっ☆」

「……アタシ、最初からなんの意味もないと思ったのよ、この茶番」


「アハハっ! 皆様、お騒がせしてすまない。――受付ちゃん、この依頼は俺らが受けても問題ないよな?」

「ふぇっ!?――は、はい……っ」

「よし。じゃあ、行くぞ『パーティーメンバー』のみんな」


そのまま役所をあとにしたものの、これからクエストをどう進めようかと思考を巡らせる。


(確か、プレイヤー情報だとこのクエストは、町中にランダム配置される三十個のアイテムを拾い集めればよかったんだっけ……?)


ゲームの仕様なら画面の右上にカウンターが現れるはずだったが――当たり前のように、現実となったこの世界にはそんな便利なものはない。

そう考え事をしていると、ふと路地裏の奥でなにかが光ったように見えた。


「あれは、もしかして……?」

「あそこに拾うべき『ゴミ』がありますわ、エンリー様」

「アタシにも見えたけど」


どうやら、ゲームの脚本シナリオを何度もループしてきた彼女には、それがクエストアイテムだと一発で分かったようだ。


「ゴシュジン、あと二十九個探さないといけないし、サブクエストも何とかしないといけないから、だらだらしないっすよ」

「おまっ! ビアンカたちの前だぞ!?」

「今更っす」

わたくし、前々から『エンリー』様と『アイリ』様が『不思議な知識』を持っていることには気付いていましたわ?」

「なになに、なんのこと!? アタシにも教えてよ……!」

「……ビアンカとアイリが喧嘩しなくなったのは、そういう理由だったのか?」

「いえ、それは――」

「ゴシュジンのせいっす」

「俺がなにをしたっていうんだ?」

「自分の胸に手を当てて聞いてみたらどうっすか?」


俺は風向きが怪しくなったことに気づき、早々に口を閉ざし、視線を泳がせた。


(こりゃあ、近いうちに話をつけないと、俺たちの関係が段々ややこしくなるだろうな……)


しかし、困った。そもそもアイリたちには悪いと思うが――俺たち、別に付き合ってなんかないし、一度だけベッドを共にした仲っ……。


(いや、そういう思考はやめよう。そんなのゲス野郎になる道だ。……しかし、セリースとのこともなー……あれ、本当になんなんだろう……?)


俺が思考の海に潜っていることに配慮してか、アイリたちは黙々とゴミ拾いに付き合ってくれた。

そしてやがて、俺はついに『爆弾アイテム』を拾うことになった。


これはゲームの時と同じ仕様らしい。――ヒロインたちがクエストに参加しているのにも関わらず、この『アイテム』を拾うことになるのはいつも『主人公』なのだ。


(ってことは、この世界において俺は主人公?いや……まさか、な。――どうせ『男性のパーティーメンバーが拾う』って条件が設定されているだけだろう……)


アイリたちが離れた所にいることを確認し、件のアイテム――『亜人娘たちのグラビア雑誌』の中身をチラッと見る。

べ、別にそういうつもりで見た訳じゃないからな――。


「ギルティっす!」

「エンリー様……! わたくしという美女が傍に居りながら、そのようなものに興味を示されるなんて……!」

人間ヒューマンの雄なんて、所詮みんなケダモノってことね……」


(しまった! これが罠だったのか!)


よく考えればすぐに点と点が繋がる。

こいつら、全員この雑誌のことを知っていたはずだ。だからわざと距離を置いて、俺が罠にハマる瞬間を待っていただけだろう。


「ち、違うっ! ――俺はこっちを見ていたんだ」

「ふむふむ……えっ!? ご、ゴシュジン、まさかの『貧乳派』だったんっすか!?」

「はっ!?」

「嬉しいですわ! では、今日の夜伽よとぎでようやくわたくしの――っ」


俺は慌てて、さっきアイリに見せたページを確認する。そこに描かれた貧相な体型のラミアの絵を見て、俺はまた慌てふためいた。


「間違えたっ――こっちだ……!」

「また貧乳の子……私への当てつけっすか?」

「(分かっているくせに……!)――そこじゃない! ページの下を見てくれ!」

「これは……何なのでしょうか?」

「「えっ?」」


俺とアイリは同時に驚く。ビアンカは何回もシナリオを繰り返してきたはずなのに、このイベントを見たことが一度も無いってことか?


「これ、エンリーの字? 汚いっしょ」

「『〇〇の日に、昼頃〇〇公園の近くで見かけた』……エンリー様、まさか――ストーカーでしたの!?」

「違う! これを俺が書いたわけないだろ!」


(なんだって言うんだ、さっきから……)


アイリを見ると、彼女は深刻そうに考え事をしていて、俺の視線に気づいていない。


(一体、何が起きてる……!?)

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