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宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~ジャンクと技術で惑星インフラを構築する~  作者: 堀吉 蔵人
響き合う信号、還る場所

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電力の窓

お昼に更新中です。 ぜひ読んでいってください!!

格納庫の床は冷たかった。


 颯が目を開いた時、RL-7のランプが赤く点滅していた。横になった記憶はなかった。衛星のそばに腰を下ろして、いつの間にか意識が途切れていた。右肩が鈍く痛んだ。金属の床で長い時間を過ごした時の感触だった。


「颯」


 インターコムからアルテの声がした。それだけだった。


 颯は立ち上がった。全身が少し重かった。ブリッジへの階段を上がった。


 モニターに展開されたグラフがあった。縦軸が電力消費量、横軸が経過時間だった。折れ線が二か所で急な谷を作っていた。


「解析が終わったか」


「はい。送信周期ごとの電力消費パターンが確定しました」


「話せ」


「施設は信号送信の九分前から、送信系への電力集中が始まります。その影響で、防衛システム側への供給が一時的に低下します。最大低下幅は送信四分前で、通常時比二三パーセントの減少です。この状態が一分五〇秒から二分一〇秒持続します」


 颯はグラフの谷を見た。二三パーセント。数字としては大きくなかったが、百七十年間整備を受けていないシステムには、それで十分かもしれなかった。


「砲塔の反応速度が落ちるのはいつからか」


「低下幅が一五パーセントを超えた時点からです。旧連邦製防衛ユニットの仕様値に基づいています。ただし、百七十年の経年劣化がある分、実際には仕様より反応が鈍い可能性があります」


「一五パーセントを超えている時間は」


「計測ごとにばらつきがありますが、最低で一分五〇秒は確保できます」


 颯は暗算した。移動に五十秒、作業に二十五秒、合計七十五秒。使える窓は一分五〇秒。マージンは十五秒しかなかった。


「西面ジャンクションの構造は確認できているか」


「前回の映像では解像度が足りませんでした。三百五十メートル以内から撮影が必要です」


「今すぐ出す。撮影して戻れ」



 クラリス-01が格納庫を出た。


 映像が届いた。施設の西面が近づいた。距離計が三百七十メートルを下回ったところで、砲塔の一基が動いた。向きがゆっくりと変わり始めた。映像はその前に目的のものを捉えていた。外壁の一点に金属の小さなレバーがあった。手動切替口だった。その奥にコネクタの束が見えた。


 クラリス-01が反転した。砲塔が追った。四百メートルを越えたところで止まった。


「手動切替口を確認しました。レバー式です。アームで操作可能です」


「外板を開けてから切断まで何秒かかる」


「レバー操作に十秒、配線切断に十五秒。合計二十五秒の見込みです」


「切断後は施設内に入り込んで待機しろ。砲塔が止まってから格納庫に戻れ」


「はい」


「次の送信は」


「三時間四十二分後です」



 颯はクラリス-01の整備ログを出した。


 前回の作業以来、駆動系に異常はなかった。推進出力のムラもなかった。今回の偵察で外壁との接触もなかった。問題は見当たらなかった。確認すること自体に意味があった。


 ログを閉じた。施設がモニターに映っていた。砲塔が動いていなかった。起きているのかどうかも、一〇〇〇メートル先ではわからなかった。


「施設内部に何がある」


 アルテが少し間を置いた。


「通信制御室が中心部に存在すると想定されます。送受信の記録と接続先の座標データが格納されているはずです。百七十年間の記録が残存していれば、現在も存続するコロニーの位置情報が含まれている可能性があります」


「電力は中枢まで通じているか」


「送信系と防衛系への供給が確認されています。内部への供給も続いていると考えるのが自然です。完全に停止している区画がある可能性は否定できませんが」


「入口を開ける方法は」


「ドッキングポートに手動開放機構があるはずです。旧連邦製の設備は緊急操作を想定した設計になっています」


 颯はそれを聞いた。それ以上聞くことはなかった。現場で確かめることになる話だった。


 機関音が低く続いた。施設が一〇〇〇メートル先に静止したままだった。



 送信三十分前になった。


 颯はブリッジの椅子に座って、グラフが動くのを待った。モニターには数値が並んでいた。施設の電力消費量。砲塔の動作状況。クラリス-01の動作温度。


 どれも変化しなかった。二十分が過ぎた。


「電力消費が変化し始めました」


 アルテの声が来た。


 折れ線が緩やかに下降し始めた。送信九分前だった。颯は手を膝の上に置いた。


「低下幅一〇パーセント」


 施設の砲塔はまだ動いていなかった。


「一五パーセント到達まであと二十秒」


 外の暗さが変わらなかった。施設が静止していた。


「到達しました。一五パーセント低下」


「出せ」



 クラリス-01が格納庫を離れた。


 映像が入った。施設が正面にあった。速度を上げた。距離計が四百メートルを切った。


 砲塔が動いた。


 向きが変わり始めた。だが遅かった。明確に遅かった。クラリス-01はすでに三百メートルを切っていた。外壁が視野に広がった。


「経過二十三秒。ジャンクション前に到達」


 アームが伸びた。レバーを掴んだ。押し込んだ。金属が軋んだ。外板が開いた。


「経過三十三秒」


 コネクタの束が見えた。アームが差し込まれた。引いた。抵抗があった。引き続けた。コネクタが滑った。


「砲塔の照準が合い始めています」


 颯は何も言わなかった。


「経過五十一秒」


 アームが力を込めた。コネクタが抜けた。


 砲塔が止まった。


 西面の三基が。北面の二基が。静止した。動作音が消えた。センサーの反応が消えた。


「全砲塔の電力供給切断を確認しました。反応消失しています」


 颯は短く息を吐いた。


「クラリス-01の状況は」


「外壁付近で待機中。損傷なし」


「そのまま待機させろ」



 錆鉄丸を前進させた。


 一〇〇〇メートルが縮まった。八百、六百、四百。砲塔は止まったままだった。距離を詰めるごとに施設の輪郭がはっきりしてきた。外壁の継ぎ目が見えた。補修の跡があちこちにあった。補修されていない部分のほうが多かった。


 東面のドッキングポートの前で停止した。楕円形の入口に接続フランジが並んでいた。外側から視認できる緊急開放レバーがあった。経年で変色していたが、形は残っていた。


「規格は合うか」


「一致します」


「手動でドッキングする。クラリス-01にポートを開けさせろ」


「はい」


 推進炉の出力を最小に落として施設に寄せた。フランジが合った。固定した。クラリス-01がポート外側のレバーを操作した。


 音がした。内部の空気圧が変化した。ポートが開いた。


 冷たい空気が流れ込んだ。金属と埃の臭いがした。長い時間、密閉されていた空間の臭いだった。


 颯はヘルメットを被った。内部を確認していない以上、外さない習慣があった。


 通路は暗かった。非常灯だけが間隔を置いて点いていた。電力は通じていた。床に厚い埃の層があった。足を踏み出すたびに跡がついた。自分のものだけだった。


 通路が奥に向かって伸びていた。


「中枢部はどちらだ」


「この通路を三〇メートル進んだ先の分岐を右と推定しています。施設の外形から逆算した位置です」


「推定か」


「内部の正確な構造は入って確認するしかありません」


 颯は歩き始めた。足音が通路に反響した。長い時間、誰も立てなかった音だった。非常灯が頭上で橙色に光った。百七十年間、これも点き続けていたことになる。


 分岐が見えた。右に折れた。通路の奥に、扉があった。

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