遮断の構造
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通信は壊れて途切れたのではなく、途切れるように作られていた。
製造施設までの距離表示を一度見て、颯は目を離した。二時間。Ω-01の速度はまだ把握できていない。観測基地で何を学習したかもわからない。
「彼らが今どこにいるか、計算できるか」
「観測基地でのドッキングから現在まで、約三十五分。彼らの船の最大速度が錆鉄丸の一・二倍と仮定した場合——製造施設への到達は我々より四十分遅れます。ただし、すでに別の船が先行していれば、この計算は無効です」
「先行部隊がいる可能性は」
「排除できません」
颯はスロットルを現状のまま固定した。限界まで上げても燃料の余裕が削れるだけで、四十分の差は縮まらない。
「七十三の座標について、Ω-01はすべて把握していたのか」
アルテが少し間を置いた。「調査記録の最終更新日付を確認しています。崩壊後十年以内に追加された注釈がいくつかあります。彼らは崩壊前から観測データにアクセスしていた可能性があります」
「三十六年でどれだけ動いた」
「七十三件のうち、注釈が残っているのは十一件です。残りの六十二件は原記録のまま」
「なぜ全部持っていかなかった」
「輸送コストか——あるいは必要なかったのかもしれません」
引っかかった。技術情報を独占しようとしているなら、関係しそうなデータは全部持っていくはずだ。選んで残していくのは、残したものに価値がないと判断したか、あるいは。
「その十一件はどんな惑星だ」
「資源採掘に適した環境が八件。大気組成が安定していて植民に向くものが三件。そのうちの一件が先ほど報告した、フィーエルに環境が近い惑星です」
「残りの六十二件は」
「農業適性が高いもの、水の豊富なもの、温暖で人が住みやすいもの——要するに、採掘や産業利用がすぐにはできないものです」
颯はしばらく何も言わなかった。
彼らが欲しいのは採掘できる惑星だ。人が生きていける惑星は必要ない。
製造施設は環状帯の外縁にあった。輪状に広がる小惑星の帯が背後に見えた。施設本体は細長い構造で、加工用のアームが二本、大きく展開されたまま止まっていた。
「センサー反応は」
「熱源が一か所。規模から見て機械です。——先行者の痕跡があります。ドッキングポートに擦過痕。最近のものです」
「中にいるか」
「船の反応はありません」
颯は施設の周囲を一周した。展開されたアームの根元に損傷はなかった。意図的に壊した形跡もない。探して持っていったか、見て諦めたか、まだわからない。
「入る」
ドッキングから内部へ。照明の電力は失われていたが、非常灯が三割程度生きていた。通路は広い。大型機材の搬入を想定した設計だ。空気にオイルと焼けた金属のにおいが混じっていた。最近まで何かが動いていた。
加工棟の中心部に入ると、天井まで届く旋盤が並んでいた。精密加工用の設備だ。いくつかは電源が入ったままで、操作パネルが薄く点滅していた。
「稼働状態にある機材はどれだ」
「三基です。電力は太陽光パネルから供給されています。ただし過負荷に近い。重い加工はできない状態です」
颯は一番近い機材の前に立った。旧連邦の規格番号が打ち込まれている。標準的な精密加工用ユニットだ。フィーエルの基地にも同型があったが、動いてはいなかった。
操作パネルの履歴を開いた。最終操作が記録されていた。
「二週間前だ」
「Ω-01のスカウトが使った可能性があります」
何を作ったのか。颯は履歴を辿った。小型の部品。繰り返しの加工指示。数十個単位の生産記録が三つある。
「これは何の部品だ」
アルテが数秒かけた。
「通信ブースターの部品です。旧連邦の規格では無線中継用の——颯、これは通信妨害装置の構成部品です」
颯の手が止まった。
「妨害装置」
「中継ではなく、特定周波数の遮断に使える部品です。設計は旧連邦の通信システムに対応しています」
三十六年間。人々が助けを求めても、信号が届かなかった時間がどれだけあったか。中継基地デルタのゾーラが長年ひとりで維持してきた通信機。出力が落ち続けていたあの問題。
「各地に置いて回っていたのか」
「可能性があります。私たちが修復してきた通信機が機能しにくかった理由が、これで一部説明できます」
「確証はあるか」
「今ここにある生産記録だけでは断定できません。ただし、この設備が何に使われたかは明らかです」
颯は生産記録を全部コピーした。
加工棟の奥に資材倉庫があった。棚の一部が空になっていた。取っていったものがある。残っているものも多い。
颯は棚を端から見ていった。希少金属のブロック。複合セラミック。光学ガラスの原板。どれも状態がいい。密閉保管されていたのだろう、表面が清潔だった。
「持てるだけ持つ」
アルテが補足した。「加工設備の稼働データも転送します。設定値と調整履歴が残っています。フィーエルの同型機に適用できます」
作業は黙って進めた。アルテが管理データを引き出している間、颯は運搬用クレートに素材を積んだ。金属ブロックが重い。腕に負荷がかかる。フィーエルを出てからどれだけ経ったか。体が慣れてきている部分と、疲れが抜けていない部分がある。
「颯」
「なんだ」
「通信妨害装置の生産記録を解析しました。同じ部品が過去に三十一回分製造されています。複数の施設で分散して作られた可能性があります」
「三十一か所に置いた」
「それ以上の可能性もあります。施設が別にあれば」
クレートの蓋を閉めた。
「Ω-01が信号を遮断する動機は何だ。採掘が目的なら、他の人間が増えても関係ないはずだ」
「競合を排除するためかもしれません。技術を持つ人間が集まれば、彼らの独占が崩れます」
「三十六年間、人が死ぬのを見ながら」
アルテは何も言わなかった。
颯も続けなかった。答えが出るものではない。クレートをもう一箱積んだ。
資材の搬出を終えて、加工設備データの転送が完了したとき、アルテが言った。
「颯、Ω-01の船影がセンサーに入りました。到達まで推定二十分です」
「出る」
ドッキングを外した。加工棟のアームを横目に、施設から離脱した。
「追跡しているか」
「速度を上げています。目標はこちらです」
「三件目の施設はどの方向だ」
「南東、この施設からさらに深部です。距離は現在地から約四時間」
「向こうも把握しているか」
「優先確保リストに入っていたなら、知っている可能性があります」
どちらが先に着くかは速度次第だった。
「アルテ、前の持ち主の件——通信妨害装置との関係はあるか」
少し間があった。
「M-0144の設計図は配布を止められていた。通信妨害装置は人が助けを求める経路を遮断していた。どちらも——人が生き延びることを妨げる方向に機能します」
「それを知って設計図を持ち出した」
「証明はできません。ただ——」アルテがわずかに止まった。「知っていたとすれば、届けようとした相手が誰なのか、考えが変わります」
颯は前を向いたまま、スロットルを上げた。
追うものと追われるもの。どちらが何を持って動いているのか。Ω-01の船が後方のセンサーに映り続けている。
「颯」
「なんだ」
「もし——前の持ち主がΩ-01から持ち出した設計図を、誰かへ届けようとしていたなら」アルテの声は変わらない、変わらないが、どこか遅かった。「その誰かに、まだ間に合う可能性があります」
「わかっている」
三件目の施設に何があるかは、まだわからない。ただ、Ω-01が三十六年かけて守ってきたものが技術の地図だったなら、前の持ち主が命がけで持ち出したものは、その地図の読み方だったかもしれない。
錆鉄丸の船体が、環状帯の外縁を抜けて加速した。追う側ではなく、遮る側の地図を読まなければならなかった。
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