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宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~ジャンクと技術で惑星インフラを構築する~  作者: 堀吉 蔵人
座標の先の影、静かなる包囲網

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優先確保対象

お昼に更新中です。 ぜひ読んでいってください!!

候補地は三つあった。だが、先に消される場所も三つだった。


 環状帯の縁を抜けたところで、アルテが方向を出した。


「三つの候補地の方向が出ました」


 颯は工具入れを閉めた。手を膝の上に置いた。


「聞かせろ」


「一番目——北東、二時間半の位置。旧連邦補給路の中間ポイントに当たる場所で、小型中継ステーションの残骸があります。Ω記録への言及が少ない。ほぼ廃棄状態と見られます」


「二番目は」


「南東、六時間。精密機械の加工施設跡地です。Ω-01が定期的に立ち寄っている記録があります。最後の記録は四年前」


「三番目」


「南東——二番目の手前、四時間半の位置。旧連邦の生態系観測基地です。太陽系内の植生分布を追跡するためのセンサーアレイが稼働していた場所で、Ω記録への言及が三候補の中で最も多い。記録の末尾に『優先確保対象』という記述があります」


 颯は星図を見た。


「三番目に行く」


「了解です」


 エンジン出力を上げた。錆鉄丸の船首が南東に向いた。



 四時間半のあいだ、アルテはずっと解析を続けていた。


 颯は運転席でコーヒーの代用品を飲んだ。実物のコーヒーはフィーエルを出た頃に切れている。苦みの似た乾燥植物をお湯に入れるだけだが、匂いは悪くなかった。手が空くと余計なことを考える。飲むものがあれば手が塞がる。


「Ω-01について続きを報告してもいいですか」


「言え」


「崩壊後に旧連邦管理局の残存職員が母船を立ち上げた時、彼らは当初、正当な目的を持っていたと思われます。各地に散在する生存者へ技術情報を届ける役割を自任していた記録があります。最初の五年間は配布の実績もあります」


「五年で変わった」


「はい。記録上、明確な転換点があります。崩壊から六年後——主要なコミュニティが独立して技術開発を始めた時期と重なります」


 颯は計算した。


「自分たちが必要とされなくなりそうだと思った」


「推定ですが、整合します。彼らが独占を強化し始めたのは、各地が復興の兆しを見せた時期です。技術を渡せば自分たちの価値が下がる。渡さなければ、番人として地位が維持される」


「三十年そのまま来た」


「乗組員の世代も入れ替わっています。最初の理念を知らない世代が今の実務を担っている可能性があります。彼らにとってこれは最初からそういうものかもしれない」


 颯は窓の外を見た。最初からそういうもの。変えようとした人間がいたとしても、そういう話は記録に残らない。


「前の持ち主のことを考えました」


 手の中のカップが止まった。


「M-0144の設計図を排熱ダクトに隠した人物です。Ω-01の輸送記録に、錆鉄丸の登録番号に近い船体番号の記録が三件あります。同じ船かどうか断定できませんが」


「調べているのか」


「はい。あの人がなぜ設計図を隠したのか——Ω-01との関係があるとすれば、状況が変わります」


「続けろ」



 目標地点が見えてきた頃、アルテが警告を出した。


「施設から電磁波の放射があります。内部に稼働しているものがある」


 颯は速度を落とした。


「Ω-01の先遣隊か」


「放射パターンは施設内部の機器です。船の反応はありません。ただ——この施設が優先確保対象に指定されていたなら、彼らが先に来ている可能性は排除できません」


 生態系観測基地は予想より大きかった。直径四百メートル程度の回転式ステーション。居住区域と観測アレイが分かれた構造で、片側のアレイが展開されたままになっていた。パネルがゆっくりと首を振っている。恒星の方向を追跡していた。


「自律プログラムが生きているだけか」


「断定できません」


 颯は施設の影に入って静止した。


「旧連邦の周波数で信号を出せるか」


「試みます。ただし、もし内部に誰かいれば位置を明かします」


「返答があれば引き返す。なければ入る」


 アルテが信号を出した。二分待った。応答がなかった。



 ドッキングポートに傷があった。最近のものだ。


 内部に入った。颯が先に歩いた。空気にオイルと加熱された金属のにおいが混じっていた。最近まで人がいた。


「足跡が二名分。観測制御室の方向です」


 観測制御室は広かった。中心に五メートルの球体型ディスプレイ。かつては太陽系全域を映していたはずだ。今は一部のセクターしか映っていない。それでも点滅しながら動いていた。


 机の上に食料の包みがあった。開封済みで中身が少し残っている。


「急いで出ていったか」


「可能性があります」


 颯は端末に向かった。アダプタを取り出しかけて、止まった。


 端末が接続中の状態にある。インジケータが点滅していた。どこかと通信している。


「どこにつながっている」


 十秒かかった。


「Ω-01の発信源と一致するパターンです」


 颯はその状態のまま手を引いた。


「切るな」


「でも——位置が」


「切ったことが向こうに伝わる。切るな」


「……理解しました」


 メインの通信を遮断しないまま、隣の補助端末に接続した。別系統から記録を読む。


 観測データが出てきた。植生の分布、土壌の組成、水の存在確率。数十年分の記録がある。


「颯」アルテの声が変わった。「この施設が観測していたのは外部の惑星系です。旧連邦が植民候補として選定していたリストと一致します。七十三件」


「七十三の惑星候補」


「そのうち二十二件が居住適合の評価を受けています。データは崩壊前の状態で止まっていますが——内容は現在でも有効です」


 画面に座標が並んだ。七十三の点。そのいくつかには丁寧な調査記録が積み重なっていた。


「これをΩ-01が独占していた」


「ここに残したのは彼らの判断です。施設の自律システムを使って遠隔から観測を続けさせていた。——技術情報だけではない。行ける場所の情報を持っている。それが本質的な価値かもしれません」


 三十六年かけて守ってきたのは、設計図ではなく地図だった。


「全データを転送する」


「十五分かかります。——颯、Ω-01との通信が更新されました。施設への確認信号です」


「返答がなければ直行してくるか」


「前回の経験から——おそらく二時間以内に来ます」


「十五分で終わる」


「はい。ただし——」アルテが止まった。


「ただし」


「今回は逃げられる保証がありません。前回の接触でこちらの船のパターンを学習している可能性があります。追跡された場合、この宙域には隠れる場所が少ない」


「わかっている」


 颯は転送を開始させた。


「アルテ」


「はい」


「俺が間違えると思ったら言え」


 間があった。


「わかりました」



 インジケータが動き始めた。


 颯は何もしなかった。工具を触ることもしなかった。観測アレイがゆっくりと首を振るのを見ていた。四十年以上、誰にも見られずにこうして動き続けていた装置だ。


 七十パーセント。


「颯」


「なんだ」


「前の持ち主とΩ-01の関係について——一つ仮説が立ちました」


「聞かせろ」


「船体番号が近い三件の輸送記録を確認すると、最後の記録はM-0144の設計図と同種のデータが含まれていた輸送便です。M-0144は旧連邦の医療機器ですが、Ω-01は配布を止めていた。あの設計図はΩ-01の管理下に置かれるべきものでした」


「持ち出したのか」


「証明はできません。ただ——排熱ダクトの中に設計図を隠すのは、検査で見つからない場所を選ぶ行動です」


 颯は窓の外を見た。


「九十パーセントです」


 彼が何者だったのかは知らない。颯が拾ったのはコアケージとデータだけで、名前も顔も残っていなかった。ただ——設計図を持って逃げた。見つからない場所に隠した。どこかへ届けようとしていた。


「九十五パーセント——颯、Ω-01の船影が捉えられました。到達まで推定七十分です」


「転送は」


「完了まで一分半」


「続けろ」


 一分半が終わった。


「完了です」


 アダプタを引き抜いた。補助端末の電源を落とした。メインの通信は切らずに出た。



 錆鉄丸に戻った。ドッキングを外した。エンジンを絞って、施設の影に入ったまま流れた。


「Ω-01が施設へのドッキングを開始します——こちらのセンサーレンジ外へ出ます」


 速度を上げた。施設が後ろへ遠ざかっていった。


「転送データにΩ-01の現在位置を絞れるものはあったか」


「通信記録の発信源と、植民候補地の一部が重なっています。特定の候補惑星の近傍を根拠地としている可能性があります。次の施設のデータと組み合わせれば、座標の絞り込みが可能です」


「次は南東の製造施設だ」


「はい。彼らも向かう可能性があります」


 どちらが先に着くかは速度次第だった。颯はスロットルを上げた。


「アルテ」


「はい」


「植民候補の中で評価が一番高いものはどこだ」


 間があった。少し長い間だった。


「フィーエルに環境が近い惑星です。居住適合スコアが最高値です。座標は——今のルートから大きく外れません。次の目的地より先の方向にあります」


「わかった」


「……報告します」


「後でいい」


 今はまず次の施設に先に着くことだった。ルートを確認した。製造施設まで二時間。Ω-01の速度がわからない。わからないうちは動き続けることしかできない。


 観測アレイが今も回っている。颯には見えなくなっていたが、アルテのセンサーにはまだ映っているかもしれなかった。


 前の持ち主は設計図を持って出た。届け先を読み違えれば、Ω-01に先を越される。

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