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宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~ジャンクと技術で惑星インフラを構築する~  作者: 堀吉 蔵人
広がる通信網、新たな文明の灯火

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先客の痕跡

お昼に更新中です。 ぜひ読んでいってください!!

エリアの里を出て四日が経った。


 礫帯を抜けると視界が開けた。岩塊の密度が下がり、前方が広くなる。エリアから受け取った航路データには、この宙域の密集領域を迂回するルートが複数引かれていた。古いデータだったが使えた。


 眠って、起きて、エンジンの振動を確認して、また眠る。何もない宙域は単調だが、単調さには慣れている。仮眠から戻るたびに計器を確認した。燃料と水の残量は問題なかった。



 四日目の昼、アルテが声のトーンを変えた。


「颯さん。座標方向に電磁波を検知しました。弱いですが規則的なパターンがあります。機器からの定期発信です」


「施設が生きているのか」


「まだ断言できません。それとは別に」アルテが間を置いた。「同じ方向からもう一つシグナルを検出しています。人工衛星中継を経由した発信で、コーデックが旧連邦規格と異なります」


「どのくらい前の発信だ」


「七十二時間以内。現在は停止しています」


 颯は前方を見た。窓の外は変わらない。塵と星だけだ。しかし何かが変わった。


「俺たち以外の誰かが、そこにいた」


「あるいは、まだいる可能性もあります」


「施設まで何時間だ」


「十五時間」


 速度を少し上げた。



 施設は小惑星帯の縁近くで、岩塊の陰に半分隠れた形で建っていた。


 周囲を一周しながら確認した。リード13番と同型の主棟に側面二棟が接続されている。規模は大きかった。外壁全体に赤褐色の錆が走り、窓の一部が割れていた。主棟の南側に貨物搬入口があった。扉が半開きになっていた。


「主棟の奥、農業区画と思われる位置に分散した熱反応があります。外気温より三十度以上の差です」


「人間の熱源は」


「現在、施設内外に人間の反応は確認できません」


 施設の北側に平地があった。降下する前に、手前に散らばった物体が目に入った。高度を下げた。


 梱包材のケーシングが十数個と、作業用ドローンの残骸が三体。岩盤の上に無造作に散らばっていた。


「ポリ複合素材です。紫外線暴露による劣化が少ない。放置期間は数週間から数ヶ月以内」


「着地痕は」


「岩盤に推進剤の焦げ跡と擦り傷があります。小型の着陸船のサイズです」


 颯は北側の平地に錆鉄丸を降ろした。



 外に出ると風があった。細かい砂が機体の外板を叩いていた。大気は薄い。酸素補助マスクをつけた。工具と念のためフレアを腰に差した。


 梱包材の残骸まで歩いた。一つに触れた。表面の光沢がまだ残っている箇所がある。ひっくり返した。底に刻印があった。「NF-TYPE/3」という英数字と、その下に別の記号列。旧連邦の規格コードではない。


「この刻印のデータはあるか」


「比較データに存在しません。旧連邦の分類体系外です。追跡管理用の独自コードと思われます。大量の物資を組織的に管理する集団が物品に付ける種類のものです」


 颯は刻印を指でなぞった。型押しで角が鋭い。使い捨てではなく、追跡するために付けた。


 ケーシングを数えた。十四個。ドローン残骸が三体。一人や二人が持ち込む量ではない。


 ドローンの残骸に近づいた。作業用の小型機だ。マニピュレーターが展開したままで、先端が変形している。施設内で何かに当たった跡だった。本体に識別番号があった。ケーシングと同じ「NF」の接頭辞がついている。



 施設の正面扉は閉まっていたが、鍵はかかっていなかった。


 廊下は非常灯の赤い光だけだった。進むにつれて温度が上がった。右側の作業室を確認した。工具棚が並んでいたが、棚の一部が空だった。旧連邦規格の工具が置いてあれば価値がある。持ち去られた。


 床に金属製の小筒が落ちていた。拾い上げた。センサープローブだった。旧連邦規格ではない、比較的新しい製造のもの。


「内壁のポートに差し込んだ痕跡があります」アルテが壁面を示した。「接続部の縁に細かい傷があります。施設のデータを読み取るために使ったと考えられます」


 颯はプローブをポケットに入れた。廊下の奥から熱気が漏れていた。



 農業区画の扉を開けると熱風が来た。


 植物が壁まで達していた。棚から溢れて通路を塞ぎかけている。天井近くまで葉が重なり合っていた。照明が強すぎる。加熱ランプが連続点灯していた。葉の表面が白っぽく乾いていた。


「照度センサーの昼夜周期が失われています。ランプが連続照射を続けて水分蒸発が急速に進んでいます。このまま数日で農業区画が機能を失います」


 颯は管理端末に向かった。電源は入っていた。エラーメッセージが複数並んでいた。照度センサーのパラメータを確認した。上限値が初期設定の三倍に設定されていた。


 颯は手を止めた。


 誤作動か。それとも誰かが変えたのか。


 操作ログを開いた。パラメータの変更履歴があった。十八日前、外部入力による書き換え。自動処理ではない。誰かが意図して上限値を三倍に引き上げた。


「誰かが変えた」


「確認できます。外部からの手動入力です」


「何のために」


「農業区画の稼働を不安定にするためか、植物の消耗を意図していたかです。いずれにせよ、放置すれば数日で機能を失いました」


 颯は上限値を正規の値に戻した。照明が落ちた。ランプが周期的な点滅に切り替わった。


 植物の葉に触れた。萎れていたが根元の感触が固い。生きている。根がまだ水を抱えていた。



 アクセスログを全部開いた。


 直近のアクセスは十八日前。颯たちがエリアの里にいた時期に相当する。読み取り項目は施設の稼働状況、在庫資材量、自動栽培システムの種類と数量。網羅的に取っている。


「施設の価値を調べて、工具を持ち去った。それだけでなく、農業区画のパラメータを書き換えた」


「そう解釈できます」


 颯は端末を離れた。割れた窓から外の岩盤が見えた。十八日前にここにいた人間が、施設の内容をすべて調べた。壊しはしなかった。工具を持ち去り、パラメータを静かに変えて去っていった。壊さずに傷つける方法を知っている。


「アルテ」


「はい」


「さっきのシグナルのコーデック。以前に似たものを見たことがあるか」


 間があった。


「環状帯外縁の加工中枢を離れた時に颯さんが気にしていた未特定の通信信号がありました。コーデックの構造が類似しています」


 颯はその場所を思い出した。精密加工機器が揃った施設。外部から先に接触した痕跡があった場所だ。あそこにも梱包材の残骸があった。


「同じ集団か」


「断言はできません。類似点があります」


 颯は農業区画を見渡した。照明が周期的に落ちている。植物の列が薄暗がりの中に並んでいた。


 二つの施設に、颯より先に誰かが来ていた。どちらも来て、調べて、何かを持ち去って去った。ただ環状帯外縁では梱包材だけだった。ここでは工具を持ち去り、さらにシステムを意図的に変えた。段階が上がっている。


 ゾーラの箱から取り出した座標データが颯の手元にある。三施設分。そのうちの一つがここだった。別のルートで同じ座標を持っている集団がいるか、あるいは別の方法で同じ施設を特定している。どちらにせよ、颯が到着するより前に来て、必要なものを持ち去り、農業区画を静かに傷つけて去った。


「他の区画も調べる。機器整備区画と資材貯蔵区画を確認したい」


「一緒に確認します」


 颯は廊下に戻った。非常灯の赤い光が続いていた。足音だけが静かに続いた。施設の奥に、まだ確認していない部屋がある。

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