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宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~ジャンクと技術で惑星インフラを構築する~  作者: 堀吉 蔵人
広がる通信網、新たな文明の灯火

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種子と座標

お昼に更新中です。 ぜひ読んでいってください!!

三日目の朝、アルテが最初の警告を出した。


「前方七十キロに礫密度の急上昇。想定値の一・四倍です」


 颯は計器盤から目を上げた。窓の外は前回通った時と同じ景色だった。星の背景が濃くなり始めている。塵だ。


「迂回するか」


「行きと同じ経路を取り直しました。エリアからもらった航路データの裏に、復路用の修正値が添えてありました」


「いつ気づいた」


「最初の通行時に。報告するほどの差ではありませんでした」


「次は先に言え」


「はい」


 颯は操舵桿を握り直した。エンジン出力は七十パーセント。前回より少しだけ手の動きが軽い。一度通った道だ。




 ゾーラのステーションを出てから七十二時間が経っていた。


 その間、颯は仮眠を挟みながら操縦を続けた。礫の動きは想定の範囲内で、アルテの再計算が間に合わなかった場面は一度もなかった。前回はこの宙域を初めて通った。今回は、引いてあった線をなぞるだけだった。


「ゾーラさんから預かった箱の解析が終わりました」アルテが言った。「三施設目の座標を共有します」


「聞く」


「一施設目はフィーエルから見て反対方向の宙域です。現在の航路から大きく外れます。二施設目はアステルの近く。次にアステルへ向かう時に、イグニスさんたちと共有できる位置です」


「三施設目は」


「今向かっている方角です。エリアの里を経由してから、外縁を回って追加で四日ほどの行程になります」


「燃料は」


「往復に充分な余裕があります。エリアの里でデータを置いた後、そのまま向かえる距離です」


「向こうから信号は出ているか」


「リード13番のような定期発信は確認できません。施設が稼働しているかどうかは現地で見るしかありません」


「分かった」


「リード13番が動いていたことを考えると、可能性は低くないと思います」


 颯は答えなかった。換気の音だけがコックピットに残った。




 三日目の昼、礫密度が頂点に達した。


 外部カメラの映像が白く滲んだ。塵の散乱だ。前回も同じ場所で同じ景色を見た。アルテの磁場センサーが小さな光点を追っていた。颯は操舵桿を三度、パルス状に動かした。船体が上方にずれた。


「回避完了。最小距離十六メートル」


「前回より近いな」


「軌道予測の精度が上がっています。余裕を少し削っています」


「削りすぎるな」


「はい」


 颯は計器盤の磁場表示に目を移した。礫はそこにある。光と音にならない動きを、アルテが数字に変えていた。


「この宙域を一人で航行するのはまだ無理だ」


「はい」


「分かっていた」


 アルテは続けなかった。




 四日目の夕方、礫密度が落ちた。


 視界が開けた。窓の外に岩塊が見えた。緑が地表を覆っている。前回と同じ自転の向きで光と影が動いていた。颯は出力を絞った。


「通信を入れてくれ」


「既に開いています」


 返答はすぐだった。


「東側の台地、いつもの位置です。降りてください」


 エリアの声だった。口調に長い説明はなかった。前回と同じだった。




 台地に降りると、気圧計が一段落ちた。


 体感は前回ほど鋭くなかった。ハッチを開けるとエリアが待っていた。背の高い影が、こちらへ歩いてくる前から見えていた。


 隣にクレがいた。立っていた。


「歩けるようになったか」


「歩けるようになった」


 クレの作業着は前回より厚い。色が薄れていた。仕事に何度も使った布の色だ。顔の頬はまだ細いが、目の動きが速くなっていた。


「データは届いた」エリアが言った。「三日前に。ゾーラさん経由で」


「シミュレーションは」


「クレが回した。二百四十一種、うちの環境で育てられる目処が立った」エリアは台地の縁に向けて歩き出した。「もう一度、見ておいてもらいたい場所がある」


 颯はついた。




 里の中に入ると、空気の匂いが変わっていた。


 水路の音が前回より太い。流れが安定していた。アルテが言っていた根の収縮が進んだのだ。


 ユイが入口の脇に座っていた。膝に小さな鉢を抱えていた。葉が増えていた。颯が出る時に数えた枚数より明らかに多い。


「颯」


「鉢、まだ持っているのか」


「ずっと持ってる」ユイは葉を一枚指で押さえた。「九枚に増えた」


「数えているのか」


「ノートに書いてる」ユイは膝の上で背を反らした。「八日に一枚ずつ」


 カウが横で寝そべっていた。颯を一度見て、また目を閉じた。


「ヘインは」


「中で待っている。立てている時間が長くなった」エリアが言った。「クレと並んで歩くこともある」


 颯は頷いた。ユイの鉢の葉が照明の下でわずかに動いた。




 エリアの作業室に入った。


 壁に新しい棚が増えていた。木材を組んだもので、削り跡がまだ新しい。中に補修材の缶と種子の容器が並んでいる。配合と日付が手書きで貼ってあった。クレの字だった。


「ゾーラさんから渡された箱の中身を伝える」颯は端末を差し出した。「旧連邦農業局の内部文書だった。リード13番と同型の施設の稼働レポートが七件。うち三件には座標がついている」


 エリアは端末を受け取らなかった。颯の手の上で画面を見た。


「三件のうち、一つはここから近い」


「四日の航程だ」


「行くつもりか」


「データを置いた後で行く。施設が動いていれば、種子の現物が増える。データだけでなく」


「動いていなければ」


「その時は別の判断になる」


 エリアは画面から目を上げた。「クレを連れていけ、とは言わない。私たちはここを離れない」


「分かっている」


「データを全部、こちらの端末に残してほしい。私たちで読める形に整理する。クレとヘインで進める」


「アルテ」


「コピーします。形式はエリアの里で読めるものに合わせます」


 エリアはわずかに口の端を動かした。声は出なかった。




 夜、食堂に呼ばれた。


 席は前回と同じだった。テーブルの上の皿のうち、苦みと酸みの植物の皿が一つ減っていた。代わりに見覚えのない色の根菜が増えていた。


「シミュレーションの結果だ」エリアが皿を指した。「リード13番のデータから選んだ四種類のうち、最初の一つ。試験区画で育てている」


「収量は」


「まだ早い。三ヶ月後に判断する」


 颯は食べた。土の匂いが前回より少しだけ違った。同じ里の同じ土が、別の植物を抱えていた。


「ヘインは」


「明日の朝、会える。今日は早く寝ている」エリアは皿を置いた。「ユイには出発前に会っていけ。あの子は鉢のことを話したい」


「会う」


「ロストンとの通信は続いている。ミカもクレの体調を聞きたがっていた。明日の朝、伝える」


「頼む」


 エリアは記録を取り出した。「明日の朝に出るんだな」


「出る」


「四日の方角は、礫帯の外縁を回る。途中、二箇所の旧連邦中継点跡がある。記録だけで信号は出ていないと、ゾーラさんから聞いた」


「素通りする予定だ」


「帰りに余裕があれば確認してほしい。ここから先、外側に向けて何が残っているかは、私たちには見えない」


「分かった」




 夜が更けて、錆鉄丸に戻った。


 鉢を確認した。棚の端で振動に揺れている。葉の数を颯は数えなかった。ユイがノートに書く。


 計器盤に三施設目の座標を入れた。アルテがルートを引いた。礫帯の外側を回って、四日の航程で届く距離だ。


「アルテ」


「はい」


「三施設目に人がいた場合、最初に何を確認する」


「リード13番と同様、通信記録と稼働状況です。そして、人がいるならその人たちが何を必要としているか」


「種子だけとは限らない」


「はい」


「いなかった場合は」


「データを取って、施設の状態を記録します。次に来る人間のために」


「いつもの順序だ」


「はい」


 颯は端末を閉じた。葉の光が棚の縁で揺れていた。


 明日、四日の方角に出る。それだけが決まっていた。


申し訳ありません。

致命的な誤記が多数ありましたので本文に修正を入れました。

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― 新着の感想 ―
エリアの隠れ里はパート49の時点で颯が到達していて、そのときにM-0144で病人を治療したり、植物の根が入り込んだ水路を直したりしました。 勘違いでしたら大変申し訳ないのですが、今回、隠れ里に初到達し…
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