二十年目
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六時間前に起こされた。
「到着六時間前です」とアルテが言った。
颯は目を開けた。コックピットの天井があった。シートで眠っていた。首が固まっていた。ハーネスをほどいて体を起こした。
「信号は」
「受信継続中。強度が三十二時間前の三倍近くになっています。パターンに変化はありません」
颯はコーヒーパックをヒーターに差した。待った。飲んだ。苦かった。前方スクリーンに赤褐色の岩塊が映っていた。まだ小さかった。
近づくにつれ、岩体の表面に構造物が現れてきた。
最初は光の反射だと思った。岩肌を横断する筋が見えた。近くなると、それが配管だとわかった。太い管が岩の亀裂に沿って走り、開口部に接続されていた。
「廃熱回収型の配管です」とアルテが言った。「余剰熱を外部へ排出しながら熱交換に使う構造。ミカ・ヴァルナの専門分野と一致します」
「稼働しているか」
「熱源反応があります。少なくとも一基の熱機関が動いています」
颯は岩体を見た。パッチが無数にあった。凹んだ部分に金属板が溶接されていた。色の違う部分が何箇所もあった。補修の跡が補修の上に重なっていた。誰かが二十年間、ここで手を入れ続けていた。
岩体を四分の三周したところで、ドッキングポートが見つかった。
南側の平坦な斜面に、三つのポートが並んでいた。うち二つは閉鎖されていた。残る一つに灯火が点いていた。赤と白が交互に点滅していた。
「着岸用の誘導灯です」とアルテが言った。「自動システムか、手動で誰かが操作しています」
颯はスロットルを絞った。
「信号パターンに変化はあるか」
しばらくして、アルテが答えた。「変わりました。三十七秒周期から二十一秒へ。私たちの接近を検知して、応答している可能性があります」
パルス音を聞いた。確かに速くなっていた。
颯は通信パネルを開いた。
「同じパターンで返してみる」
「試みる価値はあります」
アルテがパルス音を解析した。短波が三つ、長波が一つ、休止、短波が二つ——それが一単位だった。颯はそれを逆順に並べて送った。
十四秒で反応があった。短いパルスが三回、等間隔で届いた。
「確認信号に見えます」とアルテが言った。「私たちの存在を認識した、という応答かと」
颯は船をポートに向けた。
低重力のため磁気クランプを使った。慎重に距離を詰めた。クランプが噛んだ。船体が止まった。
「ポート側からの接続要請があります」とアルテが言った。金属の接触音が船体に響いた。「接続完了。大気組成、通常範囲内です」
颯はシートから立った。フラッシュライトと通信機を持った。
エアロックを抜けると通路があった。
天井が低かった。岩を削って作った道で、壁に金属パネルが貼られていた。照明が落ちている箇所が何カ所かあった。代わりに、手製の燐光テープが床に等間隔で貼られていた。足もとに光の線が続いていた。
奥に人影があった。
一人だった。背が低く、年配に見えた。作業着を着ていた。腰に工具ベルトをしていた。颯が近づいても動かなかった。立ったまま待っていた。
「錆鉄丸から来た」と颯は言った。
相手が答えた。言葉の内容はすぐには分からなかった。アクセントが標準的な連邦語と違った。母音の伸ばし方が異なっていた。
「もう一度」と颯は言った。
相手がゆっくり繰り返した。
「信号を受けたのか、と聞いています」とアルテが通信機越しに言った。「私が翻訳します。お互いにゆっくり話してください」
颯は頷いた。
「受けた。アステルから来た。M-0144を持ってきた」
翻訳が届いた。相手の体に何かが走った。表情ではなかった。肩の張り方が変わった。
「M-0144を知っているのか、本物なら中へ入れ、と言っています」
颯は相手の顔を見た。目に深い疲れがあった。それ以上のものもあった。何年も待ち続けていたものが来た時に人間がする顔だった。
案内された部屋は、かつて会議室として使われていた場所だった。
長いテーブルがあった。椅子が六脚あり、うち二脚は背もたれを修繕した跡があった。壁に手書きの図面が貼られていた。配管系統図、電力系統図、それから人名が書き込まれたシフト表があった。
別の人物が来た。背が高く、やせていた。声が低かった。
二人が話した。アルテが訳した。
「M-0144の部品を本当に持っているのか、設計図も手元にあるか、と確認しています」
「持っている」と颯は言った。「アステルで試作した七台もある」
翻訳が伝わった。二人が顔を見合わせた。
背の低い方がまた話した。
「二十年間、待っていた。旧連邦が倒れた時、本社から最後に届いた資材リストにM-0144が載っていた。輸送便を待ったが、来なかった。ずっと来なかった、と言っています」
颯は背の低い方を見た。
「名前を」
アルテが訳した。相手が答えた。
「ミカ・ヴァルナと言っています」
颯は手を出した。ミカが少し考えてから、手を差し出した。
「アステルのイグニスから話を聞いた」と颯は言った。「送別会を断ったことも」
翻訳が届いた。ミカの表情が固まった。何かを堪えるような顔になった。少し間があって、また話した。
「——それは、ダルが断ったんです。私じゃない、と言っています」
颯は長身の方を見た。
「ダル・ハリエスか」
「そうです」とアルテが言った。
颯はダルに手を出した。ダルが握り返した。手が固かった。長年機械を触り続けた手だった。ダルは何も言わなかった。
二人の案内で施設を歩いた。
採掘用に掘り進めた坑道を居住スペースに転用していた。換気口が計算された位置にあった。廃熱回収の配管が天井を走っていた。どれも手が入っていた。どれも動いていた。
「途中で壊れたものもある」とミカが言い、アルテが訳した。「代替品が作れないものは諦めた。動かせるものだけ動かし続けた」
ダルが採掘機械の整備場を指した。岩盤の中に機械が二台入っていた。今も動いていた。燃料採取と電力確保のための機械だった。
照明が揺れていた。電力が不安定だった。それでも灯が消えていなかった。
患者を見た。
六人が横になっていた。骨格系の病変が多かった。重力環境が不安定な場所で長年過ごした結果だった。
一人の老いた女が目を開けた。颯を見た。ミカが何か言った。
「あなたが持ってきた機械で治るのか、と聞いています。確約はできないが、アステルで試みた前例がある、と伝えますか」
「そのまま伝えてくれ」と颯は言った。
翻訳が届いた。老女が目を閉じた。短く言った。
「わかった、と言っています」
施設の端に通信室があった。
送信機が置いてあった。部品の出所がばらばらだった。旧連邦の規格品と手製のパーツが混在していた。パルス信号の発信源はこの機械だった。
「いつから送っていたか」
ミカが答えた。「十五年前から。最初は方向を絞れなかった。九年前から南西方向に固定した。アステルがあると推定した方向です、と言っています」
颯は機械を見た。継ぎ接ぎだらけだった。それでも十五年間、パルスを送り続けていた。
「届いたのは最近のことか」
「アステルとの距離の問題です」とアルテが言った。「私たちが近くを通るまで、受信できる範囲に誰もいなかった可能性があります」
ミカが颯を見た。何か言った。
「アステルは生きているか、と聞いています」
「生きている」と颯は言った。「M-0144を作り続けている。イグニスが製造ラインを回している」
翻訳が届いた。
ミカはしばらく黙った。ダルも黙った。換気扇が低く回っていた。廃熱の配管が壁を走っていた。二十年間、ここで二人が動かし続けたものが、今も動いていた。
颯は通信機を出した。
「アルテ、アステルへの送信ができるか」
「直接は難しい距離です。ただ、ロストンの送信機を中継として使えれば、届く可能性があります」
颯はミカを見た。
「イグニスと話したいか」
アルテが訳した。ミカが少し目を細めた。それからダルを見た。ダルが壁を見た。何か言った。ダルが何かを返した。アルテが少し間を置いた。
「ミカさんが、あなたはどう思うか、と聞いています。ダルさんが、どうせなら直接言いたいことがある、と答えています」
颯はミカを見た。ミカがゆっくりと頷いた。
「繋いでくれ」と颯はアルテに言った。
ロストンの送信機のパネルに、アルテが接続を始めた。アステルまでの距離。十五年間、一方的に送り続けた信号の、はじめての返路が開こうとしていた。
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