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宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~ジャンクと技術で惑星インフラを構築する~  作者: 堀吉 蔵人
希望の灯火、M-0144と繋がる星々

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解析と夜明け

お昼に更新中です。 ぜひ読んでいってください!!

午後十一時十七分に、信号が来た。


 颯はコンソールに向かっていた。瞼が重かったが、目は覚めていた。受信ランプが橙から白に変わった。


「パターン確認。今回は六十二秒間、前回より十一秒長い」


 アルテの声は低く抑制されていた。


「内容は」


「解析開始します。複数のデータ層が重なっています。表層は定期報告フォーマット、MMC-44準拠。その下に――」


 沈黙があった。計器の低い作動音だけが続いた。


「圧縮されたデータブロックがあります。旧連邦医療コード体系、規格番号TML-87。薬品・資材の在庫報告フォーマットです」


 颯は計器から目を上げた。


「在庫報告」


「はい。ただし内容の解読には時間がかかります。データが劣化しています。信号が二十一光年以上を伝搬した影響です。欠損部分を補完しながら読み進めています」


 颯は操縦席の背もたれに体を預けた。在庫報告。機械的な定期送信なら、在庫が変動するたびに内容が変わるはずだ。しかし毎日同じパターンで来ている。


「パターンは毎回同じか」


「表層フォーマットは同一です。ただし内包データの微細な変化を比較しています。今日を含めて直近七回のうち、三回に変化があります」


 颯は腕を組んだ。


「つまり誰かが動いている」


「機械的な自動送信だとすれば、変化は発生源の状態変化を意味します。人間の操作の可能性があります。断言はできません」


「分かった。続けてくれ」


 時刻は深夜零時を回った。颯は薄く目を閉じた。エンジンの振動が背骨を通じて伝わってくる。


 断続的な解析音が続いた。


「颯」


「起きている」


「TML-87ブロックの部分解読が完了しました。断片ですが読み上げます」


「頼む」


「……抗生合成モジュール、残量二十三パーセント。透析用フィルタ、交換期限超過。外科支援ユニット一番、稼働不能。外科支援ユニット二番、稼働不能。再生医療アクセラレータ……」


 アルテが止まった。


「それ以降は」


「欠損しています。ただし最後の項目に数値が付随しています。読み取れた部分では、稼働率が一・四パーセントです」


 颯は目を開けた。


 再生医療アクセラレータ、稼働率一・四パーセント。


「それはM-0144に近い機器か」


「上位規格の系列に属します。M-0144は旧連邦が量産化した廉価版で、再生医療アクセラレータは大型施設向けの高機能版です。部品の互換性が一部あります」


「稼働率一・四パーセントというのは、ほぼ死んでいるということだ」


「はい。完全停止の直前です」


 颯は額に手を当てた。二十一・八光年先で、医療設備が壊れていく。毎日信号を送り続けながら。


「人数の記述はあるか」


「このブロックには含まれていません。他のブロックの解読を進めています。日数がかかります」


「分かった」


 零時四十分だった。颯はシートから立ち上がり、船内の通路を一度歩いた。戻ってきて座った。


「もう一つ聞く。前の持ち主の暗号解読は」


「進行中です。鍵のパターン候補を絞り込んでいます。三十日の見込みが、二十日前後に短縮できそうです」


「了解」


 腕時計を見た。深夜一時十二分。


「今夜はここまでにする。五時四十五分に起こしてくれ」


「了解です。移動時間を含めてその時刻にします」


 颯はシートを倒した。コンソールの橙色のランプが瞼の裏に残った。毎日信号が来ている。稼働率一・四パーセントの機器が、まだ動いている。



 五時四十五分のアルテの声を待たずに目が覚めた。


 フィーエルの夜明けは早い。空が白んでいた。タラップを降りて地面に立つと、砂の上に朝の影が薄く伸びていた。まだ風がない。


 基地の工作区画はすでに明かりがついていた。


 ドアを開けると、アリスがいた。コンソールの前に立ち、設計書を広げていた。部品が作業台の上に整然と並べられ、番号札がついていた。颯を見ても表情を変えずに顎をしゃくった。


「FM-331が来ています。昨夜荷解きしました」


「接続順序は整理できたか」


「FM-331とFM-290の件ですね。設計書の記述の矛盾は解消しました。旧連邦が改定した手順書の版が違っていました。FM-290を先に接続する手順が正しい」


「アルテに確認してみる」


「済んでいます。昨夜、私が確認しました。アルテも同じ結論でした」


 颯は頷いた。アリスの目元に疲れがあった。夜通し調べていたのだろう。


 六時十分にセイが来た。六時二十分にカレンが来た。農業当番の調整をしてきたと言った。


「昨日の夜に信号の続きが来たと聞きましたけど」とカレンが言った。


「来た」と颯は言った。「在庫報告の断片が読めた。医療設備が壊れていく記録だ。稼働率一・四パーセントの機器がある」


 カレンが口を閉じた。セイが目を細めた。


「人数は」


「まだ読めていない」


「そうか」


 それだけ言って、セイは作業台に向かった。番号札を一通り確認した。


「始めよう。アリス、手順を」


 アリスが設計書を持って立った。


「FM-331の本体固定から入ります。固定ボルトは旧連邦規格のメートルねじ、M十六の四本です。トルクは設計書の指定値が八十ニュートンメートルですが、現在の筐体の金属疲労を考慮して七十二に下げます。アルテのシミュレーションで確認しています」


「七十二」とセイが繰り返した。


「七十二です」


 颯は工具箱を開けた。トルクレンチを手に取った。設定を七十二に合わせた。


 最初の固定ボルトを差し込んだ。ねじ山の感触が返ってきた。劣化はない。均等に締めた。二本目、三本目、四本目。同じ感触が続いた。


「問題なし」


 アリスが設計書をめくった。


「次はFM-290との配線接続です。コネクタはA列とC列の二系統です。Bは予備回路です。ここを間違えると診断ループが逆方向に回ります」


 カレンが部品箱から配線を取り出した。手の中で軽く曲げた。素材の感触を確かめるような仕草だった。


「これ、旧品ですね」


「一部は旧連邦期の在庫です。被膜の硬化が進んでいます。折り癖をつけないように」


「分かりました」


 カレンの手が配線を束ねた。折れ癖をつけない角度で、正確に取り回した。セイが接続端子を保持し、颯がコネクタをはめた。クリック音が一回。A列完了。


「C列」


「はい」


 同じ手順を繰り返した。二回目のクリック音が工作区画に響いた。


 アリスが端子の目視確認をした。


「正位置です」


「アルテ、導通チェックを」


「チェック中……A列正常、C列正常。B列予備回路、絶縁確認、問題なし」


 セイが額の汗を拭った。工作区画は朝でもすでに暑かった。


「このペースで夕方には組み付けが終わる」


「診断プロセスの起動確認まで含めると、夕方に本体の組み付けが完了し、診断の初回結果は明日朝になります」とアルテが言った。


 颯は手元のボルトを確認しながら言った。


「診断結果が出たら、医療チームへの引き渡しはすぐできるか」


「橋本に確認してある。待ってる。診断結果が正常であれば、翌日中に最初の患者に試用できる」


「最初の患者は誰になる」


「橋本が決める。俺の話じゃない」


 短く言って、セイは次の部品に向かった。


 颯は工具を握り直した。


 再生医療アクセラレータの稼働率一・四パーセント。二十一・八光年先で、設備が死んでいく。M-0144が完成して、患者に使えるようになれば、次のことを考えられる。エンジンの改修、燃料補充、航路の設定。今はまず目の前の作業を終わらせる。


「次の工程を」


 アリスが設計書をめくった。


「冷却ループの取り付けです。接続順序に制約があります。説明します。まずループ本体を……」


 颯はアリスの説明を聞きながら、工具を次の箇所に当てた。カレンが素材を保持し、セイが位置を確認する。区画の外で太陽が上がっていた。フィーエルの砂が光を跳ね返している。信号はまた今夜来るだろう。


 作業音が続いた。

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