↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~ジャンクと技術で惑星インフラを構築する~  作者: 堀吉 蔵人
希望の灯火、M-0144と繋がる星々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/100

初期組み

お昼に更新中です。 ぜひ読んでいってください!!

朝、セイはすでに加工区画にいた。


図面を展開し、工程表を手で追っていた。颯が入ると顔を上げた。


「アリスとカレンも呼んだ。七時に来る」


「アリスが設計書を読める」


「カレンは機械の感触がわかる。組み付けは二人いるほうがいい」


颯は棚の部材を確認した。十七点、昨夜と同じ位置にある。ジグが台の上に置かれていた。


「工程順を確認させてくれ」


セイは図面を颯に向けた。


「第一段階。軸受けユニットの組み付け。部材一番から四番を使う。ジグで位置を出して、トルクレンチで締める。規定値は十二ニュートンメートル。材質が旧連邦規格のため、締めすぎると座面が変形する」


颯は図面を見た。軸受けユニットの断面図がある。四点の部材の位置関係が線で示されている。


「公差は」


「±〇・〇二ミリ。計測は三点法で取る。マイクロメーターと、アルテの座標補助を使う」


アルテが言った。


「座標補助の精度は±〇・〇一五ミリです。マイクロメーターとの併用で目標値内に入ります」


「問題ない」


颯は図面を手に取った。第二段階の図が続く。流体制御弁の取り付け。五点の部材が使われる。接触面の処理が先になる。



七時に、アリスとカレンが入ってきた。


アリスは昨日と同じ作業着だった。カレンは農業区画から来たのか、土の匂いがかすかにした。


「設計書を読んでもらいたい」


颯はアリスに図面を渡した。アリスはすぐに紙面に視線を落とした。ページをめくる速度が速い。


「旧連邦の標準組み付け仕様ですね。第二工程の弁座接触面、指示が省かれています」


「どういうことだ」


「当時の現場では常識だったのでしょう。接触面を仕上げる前にラッピングが必要です。図面には書いていない」


セイが言った。


「ラッピング材はあるか」


「砥粒なら加工区画の棚にあります。粒度を合わせれば代用できます」


颯は棚を確認した。砥粒の缶が三種類あった。アリスが缶のラベルを見た。


「これです。四番目の缶。旧連邦規格の一〇〇〇番に相当します」


カレンが缶を持った。重量を確かめるように手のひらで揺らした。


「量は足りる」


それだけ言った。



第一段階の組み付けは午前中にかかった。


颯はジグを台に固定した。部材一番をジグの切り欠きに合わせた。位置が出た。アルテが座標を読み上げた。


「X軸、〇・〇〇三ミリ手前」


颯は部材を微調整した。


「今です」


固定した。マイクロメーターを当てた。三点を計った。


「〇・〇一九、〇・〇一八、〇・〇二一」


公差内だ。


二番の部材に移った。ジグの向きを九十度変えた。アリスが図面を持ち、計測値をセイに確認した。セイがトルクレンチを構えた。カレンが部材の端を押さえた。力を入れすぎず、ただ位置を保つ。その手の使い方が正確だった。


「〇・〇二〇」


「締めます」


トルクレンチが回った。カチン、という音で止まった。十二ニュートンメートル。


「次」


四点が組み上がるまでに、三時間かかった。一点を締めるたびに全点の位置を確認した。締め付けによるわずかな変位が出る。それを補正しながら進む。


軸受けユニットが完成した。颯は手に取った。四点の部材が一体になっている。回転軸を通した。滑らかに動く。引っかかりがない。


「いい」


セイは次の図面を広げた。



昼を過ぎて、流体制御弁の工程に入った。


アリスが言ったとおり、弁座の接触面にラッピングが必要だった。カレンが砥粒の缶を開け、布に取った。部材を持ち、表面を均一に磨いた。


颯は見ていた。カレンの手の速度が一定だ。圧力が均一だ。機械の感触で動きを調整している。測らずに測っている。


「これくらいです」


カレンは部材を颯に渡した。


颯は表面を見た。光が一様に反射している。マイクロメーターで厚さを計った。


「〇・〇〇五ミリ除去されている」


「設計書の指示値は」


アリスが図面を確認した。


「〇・〇〇五から〇・〇一〇ミリ、と旧連邦の施工標準では定められています。記載はありませんが、同時期の施工手順書から推定しました」


「根拠はどこにある」


「建材設計書の附録です。アルテのデータベースに収録されています」


アルテが言った。


「確認しました。同一規格品の施工標準、附録C、第三節に記載があります。〇・〇〇五から〇・〇一〇ミリが適正範囲です」


颯は部材を光に当てた。反射が均一だ。〇・〇〇五ミリ。下限値だ。


「もう少し取れるか」


カレンは部材を受け取った。また磨き始めた。砥粒の量を少し増やした。圧力をわずかに高めた。


五分後に渡してきた。


「〇・〇〇七」


「いい」



五番部材の取り付けで、問題が出た。


ネジ穴の位置が一点だけ合わない。設計図の寸法から〇・〇三ミリずれている。公差の外だ。


颯はジグの向きを変えて確認した。部材に問題はない。ジグの切り欠きを計った。正確だ。図面を見直した。


セイが言った。


「図面の誤記か」


「アルテ、同一設計図の別版がないか確認してくれ」


「確認します。四百七十二件の設計図を照合中」


三分かかった。


「第三版の設計図に記載が確認できました。当該ネジ穴の位置指示値が〇・〇三ミリ異なります。フィールド修正が入った部位と注記されています」


「第三版が正しいのか」


「製造年次から判断すると、第三版が最終確定版です。第一版と第二版には当該箇所の誤記があります」


アリスが言った。


「旧連邦の設計書には版管理が甘いものがあります。現場で直した記録が図面に戻っていないケースを以前にも見ました」


颯は部材をジグに戻した。第三版の数値を使う。部材の位置を〇・〇三ミリ動かした。ネジ穴が合った。


「いい」


トルクレンチを構えた。



夕方、初期組みが終わった。


五段階の工程を終えて、M-0144の本体骨格が出来上がっていた。颯は台の上に置いた。高さ三十センチほど。旧連邦の精密機械らしく、見た目より重かった。


「外観確認」


颯は全面を手で確認した。締め付け箇所に指を当てた。トルクが均一だ。接続部に隙間はない。表面処理した接触面が光を反射している。


「アリス、設計書と照合してくれ」


アリスは図面を開いた。本体骨格の完成図と現物を比較した。三分かかった。


「外形寸法、全点一致。締め付けトルク記録、規定値内。接触面処理、適正範囲。以上です」


「問題なし」


セイが言った。


「試験は明日だ。今夜は冷えないところに置く」


「温度管理が必要か」


「旧連邦の精密機械は、温度変化で寸法が変わる。組み付け後すぐに試験するより、一定温度で一晩置いてから試験する方がいい。それが手順書の指示だ」


アルテが言った。


「施工標準附録Dに記載があります。組み付け完了後、二十度プラスマイナス二度の環境で八時間以上静置することを推奨と」


颯は本体骨格を見た。


一日かけて組み上げた。明日の試験まで、何もできない。


「置く場所を教えてくれ」


セイは奥の棚を指した。


「あそこは加工廃熱が届く。夜間でも十八度は保てる。毛布をかければ二十度に近い」


颯は本体骨格を運んだ。棚の上に置いた。毛布を探した。カレンが別の棚から持ってきた。薄い作業用の毛布だ。


本体骨格に被せた。


「明日の何時から試験できる」


「朝八時に状態を確認する。問題なければすぐに始める」


颯は棚から離れた。


アリスとカレンが工具を片付けていた。アリスは設計書をファイルに戻した。カレンは砥粒の缶を棚に戻した。


「今日は助かった」


アリスが言った。


「設計書を読むのは私の役目です。また呼んでください」


カレンは何も言わなかった。うなずいただけだ。その分だけ本当のことだと颯は思った。


二人が区画を出た。



セイが出力計を見ていた。


「四百ワット、変わらない」


「エージング後も安定している」


「応答は」


「まだです」


颯はセイの横に立った。出力計の数字を見た。


「M-0144が動いたとして、次はどうする」


セイは少し間を置いた。


「試験だけでは不十分だ。本番の環境で動かす必要がある。患者がいる」


「使えると判断してから患者に使うのか」


「使えると判断するために患者に使う。そういうものだ」


颯はその言葉を聞いた。


「最初の患者は誰になる」


「私が選ぶ」


断言した。責任の取り方がわかっている人間の言い方だ。颯はそれ以上聞かなかった。


「明日、八時に来る」


「ああ」


颯は区画を出た。廊下は暗かった。外壁の向こうから、夜の冷気が伝わってくる。



夜、颯は船に戻った。


エンジンルームの点検をした。冷却水の量、燃料の残量、圧縮比。数字を読んで記録した。問題はない。


「アルテ」


「はい」


「M-0144の試験、成功の見込みはどれくらいだ」


「組み付け精度は全工程で規定値内でした。設計書の誤記も修正しています。物理的な成功確率は高いと判断します。ただし旧連邦機器の特性として、初回試験で調整が必要になるケースが多いです。一発で完全に動作する可能性は低いと見ています」


「どれくらい調整が必要になる」


「過去の施工記録では、平均三から五回の調整で安定稼働に達しています。最短で一回、最長で十二回の記録があります」


颯はその数字を聞いた。


「十二回」


「素材の個体差が大きかった事例です。私たちの場合、素材はセイが公差内で加工しています。三回以内に収まる可能性が高いと思います」


「根拠は」


「感覚的な判断が混じっています。正確な確率は出せません」


颯は少し笑った。


アルテが感覚的な判断と言う場面は珍しい。


「それでいい。明日は三回以内を目指す」


「了解しました。試験手順を整理しておきます。明日の朝までに準備します」


颯はエンジンルームの灯りを落とした。


船の中は静かだ。外の出力計が四百ワットで送り続けている。どこかへ届いているかどうかはまだわからない。


毛布の下で、M-0144の本体骨格が一晩かけて落ち着く。明日の八時に、試験が始まる。

いつもお読みいただきありがとうございます!

面白い、興味がある、続きが読みたいと少しでも思われた方は、

★★★★★評価・ブックマークをぜひお願いします!!

またレビュー、感想もお待ちしています。

読んでいただいた方からのフィードバックが作者のモチベーションになっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。