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宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~ジャンクと技術で惑星インフラを構築する~  作者: 堀吉 蔵人
希望の灯火、M-0144と繋がる星々

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最初の患者

お昼に更新中です。 ぜひ読んでいってください!!

朝、八時前に工作区画へ入った。


セイはすでにいた。毛布のかかった棚の前で出力計を確認していた。


「状態は」


「温度、二十一度。安定している」


颯は棚に近づいた。毛布を取った。M-0144の本体骨格がある。昨日と同じ向きに置かれている。表面を指でなぞった。温度は均一だ。冷えていない。変形もない。


「夜中に確認したのか」


「二回」


セイは出力計を棚に戻した。


アリスとカレンが入ってきた。アリスは設計書の束を持っていた。カレンは何も持っていない。


「試験準備を始める」


セイが言った。



試験台はすでに組まれていた。昨日のうちに用意されたものだ。M-0144を固定するジグ、計測端子を接続するコネクタ、出力を記録するプリンタが並んでいる。


颯は本体骨格を持ち上げた。ジグに固定した。ボルト四点を手で締めた。


「アルテ、試験手順」


「準備できています。第一工程、電源投入前の絶縁抵抗確認。第二工程、低電力起動と波形確認。第三工程、定格出力での稼働試験。各工程の判定基準は設計書附録Eに準拠します」


アリスが図面を開いた。附録Eのページを探した。


「判定値の確認をします。絶縁抵抗は一メガオーム以上。起動波形の偏差は五パーセント以内。定格出力の許容範囲は——」


「プラスマイナス三パーセント」


アルテが続けた。


「設計書と一致しています」


颯はテスターを手に取った。探針を端子にあてた。数字が出る。


「三・八メガオーム」


「規定値内です」


セイが記録紙に書いた。



低電力起動。


颯がスイッチを入れた。


プリンタが動いた。波形が出てくる。


全員が覗き込んだ。


アルテが解析を始めた。


「第二高調波に偏差があります。四・七パーセント」


「規定内か」


「五パーセント以内ですので規定内です。ただし下限に近い。調整の余地があります」


颯は波形を見た。周期は正確だ。振幅にわずかな乱れがある。


「どこを触る」


「位相調整ネジです。本体骨格右側面、三番と四番の間にあります」


颯は本体骨格の右側面を見た。細い調整ネジが二本ある。


「どちらだ」


「三番側です」


アリスが図面を確認した。


「設計書の記載と一致しています。三番調整ネジ、時計回りで高調波偏差を減少させます」


颯はドライバーを取った。ネジに当てた。一度に大きく動かさない。四分の一回転。


プリンタがまた動いた。


「三・一パーセント」


「もう少し」


四分の一回転。


「一・八パーセント」


「止める」


ドライバーを離した。



定格出力。


セイがレギュレーターを操作した。入力電力を上げた。出力計が動く。プリンタが連続して紙を送り出した。


アルテが数字を読んだ。


「出力、定格値の百一・二パーセント。偏差、一・二パーセント。規定内」


「波形は」


「安定しています。第一高調波から第五高調波まで、すべて一パーセント以内です」


颯は出力計を見た。数字は動いていない。


三十秒。一分。二分。


「二分間、定格出力での安定稼働を確認しました」


セイが記録紙に書いた。それから颯を見た。


「動いている」


「ああ」


カレンは何も言わなかった。出力計をじっと見ていた。



「十分間、定格で続ける」


颯が言った。


セイが止まりかけた足を戻した。


「患者を呼ぶ前に」


「推奨手順だ。アルテが確認している」


「わかった」


十分間、数字を見た。プリンタが記録を続けた。数字は動かなかった。


アルテが言った。


「十分間の定格稼働、完了しました。全計測値、規定内です。今回の調整工程は一回で完了しています」


「予測より少ない」


「素材の個体差が小さかった可能性が高いです。セイの加工精度だと思います」


セイは聞こえていないふりをした。工具を棚に戻していた。



患者は車いすで来た。


六十代ほどの女性だ。骨が細い。顔色が悪い。白髪を後ろで束ねていて、首が細く見える。


セイが隣に立っていた。女性に何か言った。小声だった。颯には聞こえなかった。女性がうなずいた。


セイが颯に言った。


「ハナだ。三年前から脊髄に疾患がある。去年から歩けなくなっている。この基地で一番長く待っている」


颯はハナを見た。ハナは試験台のM-0144を見ていた。


「初めて見るか」


ハナが颯を見た。それからアルテのスピーカーを見た。


「旧連邦の機械は、見たことがあります。子供のころに」


声が低い。震えていない。


「どこで」


「故郷の基地に一台ありました。本物かどうかは知らないけれど。大人たちが大事に扱っていました。壊れていたから使えなかったけど」


颯は聞いた。


「この機械で、どうなるかは保証できない」


「セイから聞きました」


「それでもいいか」


ハナは颯を見た。それからM-0144を見た。


「動いているのは確かですね」


「ああ」


「では」


それだけだった。



セイが接続の準備をした。


M-0144から延びるコードがある。端子を二本。アリスが接続位置を図面で確認した。


「脊柱傍脊筋の第三層へのアクセスポイントです。端子の向きに注意してください。逆方向に接続すると刺激方向が反転します」


「逆に入れたらどうなる」


「設計書に記載はありません。施工標準では禁止事項として明記されているだけです」


「つまりわからない」


「はい」


颯はアリスを見た。アリスは図面を持ったまま、端子の向きを確認している。


セイが端子を持った。ハナの背中に近づけた。ハナは前を向いたまま動かない。


「向きは」


「矢印側が上です」


セイが接続した。小さな音がした。



「出力を上げる」


颯がレギュレーターを持った。


「最初は二十パーセントから」


セイが言った。


「アルテの手順だ」


「知っている。念のためだ」


颯はレギュレーターを調整した。


「入れる」


セイがうなずいた。


颯がスイッチを入れた。


ハナが少し体を動かした。肩が上がった。腕の筋肉が緊張したように見えた。それだけだ。


「感覚はあるか」


ハナが少し間を置いた。


「あります」


「どこに」


「背中の、下の方に。電気が流れているような感じ」


「痛みは」


「ないです」


颯はプリンタの数字を見た。出力は安定している。


「四十パーセントへ上げる」


「ゆっくり」


セイが言った。颯はレギュレーターをゆっくり回した。


ハナの体が動いた。今度は肩だけでなく、背中全体が少し伸びた。前屈みになっていた姿勢が、わずかに起き上がった。


「感覚は」


「背中が……温かい気がします」


「痛みは」


「ないです」


セイがハナの膝の上に手を置いた。


「足を動かせるか試してみなさい」


ハナは下を見た。しばらく動かなかった。


右足のつま先が、わずかに動いた。


颯は見た。


小さな動きだ。健康な人間なら意識もしない程度だ。しかしハナの顔が変わった。目が細くなった。唇が動いた。何も言わなかった。


「動きました」


声が変わっていた。さっきと同じ声なのに、別の人間の声のようだった。


セイは何も言わなかった。ハナの膝に置いた手を離さなかった。


「もう一度」


ハナは右足を動かした。今度は踵まで動いた。それからゆっくりと左足も動いた。


「颯」


セイが言った。


「六十パーセントへ上げる」


颯はレギュレーターを回した。


ハナの背中がさらに伸びた。骨が細いのに、ここまで伸びると背が高く見える。肩が後ろへ引かれた。三年間うつむいていた姿勢が、少しずつ戻ろうとしている。


「背中が熱い」


「温度を確認する」


アルテが言った。


「出力に問題はありません。熱感は神経再活性化に伴う正常な反応の可能性があります。施工標準に記載があります」


セイがハナの背中に手を当てた。少しして手を離した。


「熱くはない。感覚だ」


ハナはまた足を動かした。今度は膝まで上がった。それを見てカレンが手で口を覆った。アリスは図面を持ったまま動かなかった。図面を見ていなかった。



一時間後、颯は工作区画の外に出た。


廊下は静かだった。基地の外から光が入っている。午前中の光だ。


「アルテ」


「はい」


「記録は」


「整理しています。ハナの感覚回復は第三腰椎レベルまで確認されました。運動機能の回復は部分的で、完全かどうかはまだわかりません」


「三年間動かなかったのが動いた」


「はい。神経の信号伝達が再開しています」


颯は廊下の先を見た。医療区画がある。百十人がいる。


「全員に使うには、一台では足りない」


「現在の資材でもう一台は製造できます。消耗品の補充は必要ですが、素材はフィーエルの表面にある旧連邦の廃棄設備から調達できる可能性があります。セイのデータに記録があります」


「確認は」


「まだです」


「明日、セイと話す」


工作区画の扉が開いた。アリスが出てきた。


「セイから伝言です。今日の試験は終わりにする。ハナの状態を一晩見て、明日また確認する」


「ハナは」


「病室に戻りました」


アリスは少し間を置いた。


「自分で車いすを漕いで帰りました」


颯は何も言わなかった。


「わかった」



夕方、颯は錆鉄丸に戻った。


エンジンルームではなく、操縦席に座った。計器を見た。全計器が正常値にある。


「アルテ」


「はい」


「今日の記録をまとめてくれ。試験結果とハナの初回治療記録を一つのファイルに」


「まとめます。セイにも送りますか」


「セイが必要な分は自分で取っている。こっちは別に取っておく」


「了解しました。理由は」


「二台目を作るときに使う。何がうまくいって、何がうまくいかなかったかの記録だ」


「一回目の調整で安定した点、接続手順に時間がかかった点、初回印加値の設定に判断が必要だった点——整理します」


窓の外、基地の外壁が見える。日が落ちかけている。赤い光が外壁の上をなめている。


「ハナは、回復するか」


「三年間の経過があります。完全な回復かどうかは現時点では判断できません。ただし今日の反応から、機能の一部は回復可能な状態にあると推定します」


「一部」


「はい。三年間で変性が進んでいる組織もあります。M-0144の刺激で改善できる範囲と、できない範囲があります」


颯は計器を見た。


「セイはそれを知っていたか」


「知っていたと思います」


「それでもハナを最初に選んだ」


「はい」


颯はそれ以上聞かなかった。セイが何を考えて選んだかは、セイにしかわからない。理由を聞いてもわかることは限られている。


「明日、量産の計画を立てる」


「はい。資材の確認、加工工程の整理、セイの加工時間の見積もりが必要です。廃棄設備の調査も」


「わかってる。全部明日だ」


「了解しました。おやすみなさい」


颯は操縦席に座ったまま、外の光が消えるのを見た。


出力計の数字は、今夜も変わらず送り続けている。どこへ届いているかはまだわからない。しかし送っている。

いつもお読みいただきありがとうございます!

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