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宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~ジャンクと技術で惑星インフラを構築する~  作者: 堀吉 蔵人
開拓の槌音、希望の回路

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施設五番

お昼に更新中です。 ぜひ読んでいってください!!

 朝、加工区画に入ると、セイはすでに研削盤の前にいた。


 颯は工具棚を確認した。マイクロメーターが三本ある。昨日使ったやつは戻してある。ゲージブロックが二組。昨日の残りの素材が棚の端に並んでいた。


「七番から入る」


 セイは言わずに機械を起動した。チャックを締める音がした。


 颯はアルテを展開した。図面が浮かんだ。七番の詳細図だ。段の直径が三箇所ある。公差は±〇・〇一。昨日の六番より一段厳しい。


「七番の注意点を確認してください」


「段間の直角度です。研削時に振れが出ると直角度が崩れます。測定を段ごとに行う必要があります」


「セイに伝えたか」


「昨日の夜、工程表に追記しました」


 セイが機械を動かした。砥石が素材に当たった。金属を削る音が区画に響いた。


 颯は施設一番のガスケット素材を引っ張り出した。昨日棚から出したまま積んである。医療器具の部品リストとの照合が要る。アルテが「棚に戻す前に寸法を計測してくれ」と昨晩言っていた。


 ノギスを持った。一点目を計った。外径三十二ミリ、厚さ一・八ミリ。


「D-01の一番目、三十二×一・八」


「確認しました。M-0144の流体接続部に使用するガスケットと近い寸法です。素材次第ですが、代替として使用できる可能性があります」


「素材の確認はどうする」


「圧縮試験が確実ですが、設備がありません。目視と硬度の感触で判断するしかありません」


 颯はガスケットを指で押した。弾性がある。折り曲げてみた。白く割れなかった。


「これは生きてる」


「保存状態が良かったのかもしれません。施設一番は密閉度が高い」


 二点目を計った。三十六×二・〇。三点目は楕円だ。それでも弾性はある。


 計測が続いた。十七点を計り終えた。アルテが照合結果を出した。


「使用可能と判断したものが八点あります。M-0144への直接流用が一点、施設五番の医療器具修復に使える可能性があるものが七点です」


「七点は今日確かめる」



 昼前に七番が仕上がった。マイクロメーターで計った。段の直径、三箇所とも公差内に収まっている。


 セイが次の素材をセットしながら言った。


「午後は八番と九番に入る。段付きじゃない」


「今日何点行けそうか」


「七番込みで四点。計十三点になる」


 颯は頭の中で計算した。M-0144の第一工程は全十七点。明日の午前で全点仕上がる。その先に第二工程の組み付けがある。


「五番に行ってくる。午後中に戻る」


 セイは返事をしなかった。八番の素材をチャックに噛ませていた。



 施設五番は加工区画から東に二百メートルある。


 颯は外に出た。フィーエルの光は低い。午後の気温は上がっているが、風があって体感は冷えた。


 施設五番の扉は重かった。錆が出ている。油をさした後でも抵抗がある。肩で押した。ドアが動いた。


 中に入った。


 臭いが違う。施設一番より古い臭いがした。空気が止まっている。


「照明は使えるか」


「補助照明が三系統あります。メインは断線しています。ハンドライトを使ってください」


 颯はベルトのライトを出した。壁を照らした。


 棚が五列ある。天井まで届く高さだ。中段から上に器具が詰まっている。形状でわかる。輸液台、モニター台座、計測器のケース。一番下の棚に箱が積まれていた。


「どこから始める」


「右端から系統的に進めてください。まず棚の表面を照らしてもらえれば、形状から識別を試みます」


 颯は右端の棚の前に立った。ライトを当てた。


「一列目上段」


「モニター類です。電源系は期待できませんが、センサーユニットが生きている可能性があります。今日は外観と型番の記録を優先します」


 颯は型番を読んだ。アルテが記録した。三点確認した。二点目は型番が消えかけていた。側面を照らして読んだ。


「BM-229。旧連邦規格の血圧計です。センサー部分が外れていなければ、修復後に使用できます」


「外れていないか確認するには」


「ケースを開けてください」


 留め具を外した。内部を照らした。センサーが収まっている。コネクタが接続されている。錆は見えない。


「生きてそうだ」


「はい。接続部を洗浄して導通確認が必要ですが、修復候補に加えます」


 二列目に移った。輸液ポンプが三台ある。駆動部の状態を確認した。一台は内部で何かが折れている音がした。傾けると部品が動く感触があった。残り二台は外観に問題がない。


「折れているのは廃棄か」


「駆動部の交換部品がなければ廃棄です。他二台は液体接触部のパッキン交換と洗浄で使用可能になる見込みです」


「パッキンはD-01の素材が使えるか」


「サイズ確認が必要です。計測してください」


 颯はパッキンの溝を計った。外径二十四ミリ、内径二十ミリ、厚さ一・五ミリ。


「D-01の三番目が近い。外径は合う。厚さが〇・三違う」


「〇・三の差は許容範囲内です。輸液ポンプの流体圧であれば問題ありません」


「持ち帰る素材を選んでくれ」


「はい。今日持ち帰るべきものを優先度順にリストアップします」



 施設を一通り確認するのに二時間かかった。


 外に出たとき、気温が下がっていた。光の角度が変わっている。


 颯はコンテナを二個運び出した。優先度の高いものだけ詰めた。輸液ポンプ二台、血圧計二点、センサーユニット四点。残りは次回だ。


「今日の収穫を整理してくれ」


「修復可能と判断したものが九点。そのうち今日回収したものが八点です。施設一番のガスケット素材と照合して、パッキン代替が五点で可能です。洗浄と導通確認は加工区画で実施できます」


「修復にかかる時間は」


「洗浄のみで使用できるものが三点。導通確認と部品交換が必要なものが五点です。作業時間の見積もりは、セイに確認してください」


 コンテナを持って歩いた。施設五番の扉を閉めた。錆の出た蝶番が鳴いた。



 加工区画に戻ると、セイが九番を仕上げていた。


「十三点になった」


 颯はコンテナを棚の端に置いた。


「施設五番の状況を確認した。修復可能な医療器具が九点ある。パッキンは一番の素材で代替できる」


 セイは手を止めなかった。マイクロメーターを素材に当てたまま答えた。


「修復の順番は」


「輸液ポンプから。洗浄して導通確認して、パッキンを替える。二台」


「明後日でいい。明日は第一工程を終わらせる」


 颯はコンテナの中を確認した。輸液ポンプが見えた。外観は悪くない。内部の液体接触部に固着があるかもしれないが、分解すればわかる。


 アルテが言った。


「送信機の現在出力は三百八十二ワットです。昨日より上がっています」


「四百に近い」


「はい。エージング完了の目安は四百ワットです。明日か明後日には達する見込みです」


 颯は壁の出力計を見た。三百八十二。昨日の三百六十三より十九ワット上だ。上昇が続いている。



 夜、颯は棚の前に立った。


 加工済みの部材が十三点、一列に並んでいる。その隣に施設五番から持ち帰った器具が並んだ。輸液ポンプと血圧計。暗がりの中でそれぞれの輪郭がある。


「第一工程が終わったら、次は何が必要か」


「第二工程は組み付けです。工具リストは昨日の夜に作りました。在庫との照合では、二点が不足しています」


「何が足りない」


「トルクレンチと組み付けジグです。トルクレンチは施設一番の奥に予備がある可能性があります。ジグは旋削盤で製作できます」


「製作に何日かかる」


「図面があります。セイが旋削盤で作るとして、一日です」


 颯は外を見た。高窓から夜が見えた。送信機の波は見えない。だが出ているのはわかっている。


「M-0144が完成したとして、どこへ届ける」


「セイが二年間探していた医療技術です。フィーエル基地に人がいれば届きます。他の基地との交信が取れれば、そちらへも」


「交信が取れていない」


「今は送信だけです。しかし識別符号FIELを乗せた搬送波が届いた先に、受信装置があれば応答が来る可能性があります」


「いつから送っている」


「三日目の朝からです。継続七十時間を超えました」


 颯は部材を一点手に取った。九番だ。円柱形で、表面が均一に仕上げられている。重い。冷たい。


 七十時間。誰かに届いているかどうかはわからない。それでも送り続けている。


 同じことがここでも起きている。部材が積み上がる。器具が増える。在庫が整理される。それが何になるかは、まだわからない。だが積み上げた先にしか行けない場所がある。


 颯は部材を棚に戻した。


「明日の工程を確認しておいてくれ。セイが午前中に残り四点を仕上げる。午後からジグの製作に入れるかどうか」


「確認します。セイの午後の予定と、旋削盤の段取り時間を合わせて、夜までに共有します」


「頼む」


 区画の灯りを落とした。コンテナの輸液ポンプが暗がりに沈んだ。


 明日、第一工程が終わる。終わった部材は、もう試作品では済まなくなる。

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