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宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~ジャンクと技術で惑星インフラを構築する~  作者: 堀吉 蔵人
惑星フィーエル:旧連邦の痕跡と協働の開拓

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フィーエルが持っていたもの

お昼に更新中です。 ぜひ読んでいってください!!

コンテナを全部パレットの上に移すのに、一時間かかった。


 セイは一箱ずつ床から持ち上げて、湿気から守るためのパレットに並べた。颯は重いコンテナの底を支えた。格納庫の照明は奥が半分切れていて、ランタンを一つ追加で置いた。薄明かりの中で、旧連邦の施設から運んだ素材が行儀よく並んだ。


 セイがコンテナの一つの表面を指でなぞった。識別ラベルを読んでいる。旧連邦規格の素材コードはフィーエルではほとんど読める人間がいないはずだが、セイは一行ずつ確認した。頭の中で何かを照合している。二年間、設計図と向き合ってきた目の動きだった。


「全部、設計図の記載と一致しているか」


「アルテが確認した。初回製造には足りる量がある」


「過不足はあるか」


「特定の合金板が一割ほど少ない可能性がある。アルテ」


「製造工程で生じる余白を調整すれば、初回の一台には対応可能です」


 セイは頷いた。「一割ならやりようがある」


 作業が終わると、格納庫の端にある折りたたみテーブルに移った。工具の油が染み込んだ天板に端末を置いた。セイが椅子を二脚出した。颯は座った。セイは立ったまま、端末に向かった。


「施設で取ったデータを見せてくれ」



 七か所の座標がまず出た。識別コードと、建造年と、用途の分類が付いている。


 セイは一行ずつ確認した。指で画面をスクロールさせながら、手帳に書き込んでいく。紙の手帳だった。端末ではなく、鉛筆で書いた線が残る紙に数字を写している。


「三か所が採掘補助施設か」


「フィーエルから比較的近い座標に集中しています」


「素材加工がこれで、燃料備蓄が一か所」


「はい。燃料備蓄施設は最も遠い座標です。建造年も最も古い」


 セイが一つの座標を指した。「この採掘補助施設、今回の施設と同じ宙域か」


「一か所は近い。今回の施設への往路で、三十分ほど迂回すれば立ち寄れる距離です」


 セイは手帳に印をつけた。颯はその手帳を横から見た。図が書かれている。座標を地図のように配置して、フィーエルとの距離感を手書きで整理している。数字を数字のままにせず、空間に落とし込んでいる。


「フィーエルが採掘資源局の拠点だったという情報は、補給基地の記録に残っていなかったのか」


「ここに残っているデータはほとんど欠損している。私が来た時には、基地の記録がどこまで揃っているか確認する手段もなかった」


「アルテ、建造記録には当時のフィーエルの役割がどう記されていたか」


「旧連邦暦三〇年から五〇年の記録によると、フィーエル補給基地は採掘資源局の地方拠点として、この宙域全体の資源採掘と補給の管理を担っていました。採掘した素材を精製して、旧連邦の主要拠点へ輸送する中継地点です。関連施設七か所を統括し、最大稼働時には月間で相当量の素材を輸送していた記録があります」


 セイが手帳を閉じた。


「補給基地ではなかった。採掘の中心だった」


「はい。補給機能は後から加えられた可能性があります」


 格納庫の外から風の音が入った。颯は窓の方を見た。外は暗い。フィーエルの夜が進んでいる。


「なぜ縮小した。旧連邦暦五〇年以降の記録はあるか」


「五〇年以降は今回のデータには含まれていません。ただし、各施設の電力停止の記録から推定すると、旧連邦暦四八年から五三年の間に、七か所のうち六か所が順次稼働を停止しています」


「段階的に止まった」


「はい。二年から三年をかけて順番に停止しています。組織的な撤退の痕跡と見ることができます」


 セイが椅子を引いた。ゆっくりと座った。手帳を膝の上に置いた。


「採掘した資源が枯渇したのか」


「在庫管理台帳には素材の残量が記録されています。今回持ち出した施設では、在庫の約六割が手つかずのまま残っていました。資源の枯渇ではなく、採掘を続ける理由がなくなった可能性があります」


 セイが顔を上げた。颯を見た。それから端末を見た。


「六割が残っていた」


「はい」


「必要なくなったから止めた。でも回収しなかった」


「施設の建造記録に、一点、注記があります」


 颯はアルテの声に集中した。


「旧連邦の施設には優先度の分類があったようです。この施設には、非常時優先施設ではないという注記がついています」


 セイが動かなかった。


「緊急時に維持管理が保証されない施設です。旧連邦が施設の選別を行ったとすれば、フィーエルは選ばれなかった側に入ります」


 セイはしばらく端末の画面を見ていた。それから膝の上の手帳を見た。どちらも見ていないかもしれないと感じた。


「切り捨てられた」


 声が低かった。颯は何も言わなかった。


「旧連邦は崩壊する前に選別して、ここを選ばなかった」


 セイは立ち上がった。格納庫の壁を見た。工具が並んでいる。


「それでも誰かが残ってここを維持した。私が来た時には基本的な設備が動いていた。記録には誰が残ったか書いていない」


 颯はコンテナを見た。素材が積まれている。


「六年前に施設でM-0144を試作して、フィーエルへ向かった人間がいる。届かなかった」


「届かなかった」


「それも誰かが残した仕事だった」


 セイがランタンの近くに立った。炎の揺れを見た。格納庫の奥に二人分の影が伸びた。颯はそれを見ていた。



 しばらくして、セイがテーブルに戻ってきた。


「M-0144の製造工程を整理してくれ」


「はい。素材加工が第一工程、組み付けが第二工程、調整と試験が第三工程です。第一工程の主要部品は公差が〇・〇二ミリ以下を要求されます」


 セイが眉を動かした。「この基地の旋盤では達しない」


「基地の旋盤の精度が確認できれば、対応できる工程と施設の機械を使う工程を区別できます。全部を施設でやる必要はないかもしれません」


「計測器具はある。明日の朝に確認する」


「確認結果をいただければ、加工場所を決められます」


 颯は端末の画面を七か所の施設データに戻した。


「施設の在庫台帳は取れたか」


「七か所のうち五か所の台帳があります。残り二か所は欠損しています」


「五か所の品目を出してくれ」


 画面に一覧が出た。アルミ合金の原板、チタン系の棒材、断熱素材の前駆体、光学用のガラス原料。セイが立ったまま画面を見た。


「医療器具の筐体に使える素材がある」


「M-0144の筐体材料とは別の品目です」


「別の部品に応用できる。うちにある医療器具は老朽化しているものが多い。筐体を作り直せれば使用可能期間が延びる」


 セイの目が品目のリストを追っている。数年分の計算を今やっている目だった。


「フィーエルから近い施設に先に行って、在庫を直接確認したい」


「今回の施設への往路で迂回できます。先に品目を確認してから移動すれば、持ち出す量を絞れます」


「無駄に動かない方がいい。在庫台帳と照らし合わせてから判断する」


「はい」


 颯はテーブルの端末を少し動かした。


「今日取ったデータを、基地のシステムに入れておいた方がいい。アルテ、転送できるか」


「基地のシステムの接続先が分かれば、転送の準備ができます」


「明日、接続先を確認する」セイが言った。「私一人の手帳に入っているだけでは、次に誰かが来た時に分からない」


 颯は「次に誰かが来た時」という言葉を聞いた。


「フィーエルに他の人間を呼ぶつもりか」


「すぐには無理だ。でもM-0144が完成して試験稼働のデータが取れれば、他の基地への展開ができるかもしれない。その時に、フィーエルが何を持っているかを伝えられる形にしておきたい」


「七か所の施設の情報も含めて整理するということか」


「旧連邦に切り捨てられた後も、ここには素材が残っていた。技術が残っていた。記録が残っていた。それを整理して残す。次が来た時に使えるように」


 颯はセイを見た。二年間、一人でここにいた人間が、今、次の人間のことを考えている。


 格納庫の外の風が止んだ。ランタンが揺れずに燃えている。



 颯は椅子から立ち上がった。


「明日の分担を決めておく。計測はセイがやる。俺は施設の工作機械の稼働状態をもう一度詳しく確認する。基地の旋盤で精度が足りなければ、現地で加工する工程が出てくる」


「了解した」


「アルテは基地のシステムとの接続準備と、施設台帳の品目を優先順位付けで整理してくれ」


「はい。明朝までに一覧を作成します」


 颯はランタンを持った。格納庫の出口に向かった。セイが工具の一つを壁の定位置に掛け直している音がした。


「颯」


 振り返った。セイが格納庫の奥のコンテナを見ていた。


「成り行きでここまで来たと言ったが、それでいい。ここに来なければ、施設の情報は取れなかった」


 颯は何も言わなかった。


「六年前の人間が届けられなかったものを、颯が届けた。それだけのことだ」


 格納庫の出口を出た。フィーエルの夜の空気が広がっていた。颯はランタンの明かりを頼りに、錆鉄丸の停めてある方へ歩いた。星が出ている。フィーエルの大気は透明度が高いらしく、遠い光がはっきり見えた。


 テーブルの上に端末が一台ある。アルテが四千二百件の設計図と旧連邦の記録を持っている。七か所の施設に、誰も回収しなかった素材がある。


 その全部が、今は場所のある状態になっている。

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