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宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~残されたデータとジャンク品で銀河の果てを目指す開拓物語~  作者: 堀吉 蔵人


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三十一時間先

お昼に更新中です。 ぜひ読んでいってください!!

フィーエルの大気圏を抜けると星だけになった。


 レーダーに機影はない。エンジンの唸りが船体を伝わる。颯はシートに背をつけて計器を流し見た。燃料消費は予定通りだ。座標を確認した。三十一時間のうち、まだ二時間ちょっとしか経っていない。


「周辺に通信は」


「定期波三件。フィーエル基地の標準発信です。この方向への民間船の航行登録はありません」


 アルテの声がスピーカーから来た。颯は計器から目を離し、前面ガラスの外を見た。星が多い。フィーエルから離れると、遮るものがなくなる。


 前の持ち主がこの方向へ向かったとすれば、同じ暗闇を通ったことになる。フィーエルへ届けようとした設計図を抱えて、この宇宙を飛んだ。施設へ向かう途中だったのか、戻る途中だったのか、颯には分からない。


「この座標の施設は、旧連邦の何のための施設だったか分かるか」


「在庫目録の識別コードから照合すると、旧連邦後期に設置された辺境域向け精密部品製造拠点の一つです。中継補給路から外れた星系への部品供給を目的としていたと思われます。崩壊前の記録では稼働していましたが、その後の状況は不明です」


「誰かが定期的に管理していたような記録は」


「ありません。最後の施設管理記録は旧連邦崩壊期のものです」


 颯は計器に目を戻した。



 十二時間が経ったあたりで、一度シートを倒した。眠れるうちに眠る。アルテに異常があれば起こすよう伝えて目を閉じた。


 エンジン音が変わらずに続く。こういう音が続く時が、一番眠れる。四時間ほどで目が覚めた。外は変わらない暗闇だ。


「問題は」


「なし。燃料消費は計画内です。到着まで十五時間を切りました」


 食料パックを開けた。豆と穀物の圧縮型だ。フィーエルの宿舎で出るものより品質が落ちる。それでも食べた。水を一口飲んで、手を拭いた。


「板を彫った人間と前の持ち主を同一だとすれば、施設を知っていたのは確かだ。識別コードが刻印に入っていた。一度は行っている」


「あるいは設計図に施設の情報が含まれていた可能性もあります。識別コードが刻印に使われた理由は、まだ確認できません」


「設計図の中身には施設のことが書かれていたか」


「設計図本体は製造手順と仕様値が主な内容です。関連施設への言及は確認していません」


 颯は窓の外をしばらく見た。刻印に施設の識別コードを入れた理由が、まだ繋がっていない。製造場所として知っていたのか、製造に必要な材料の在庫がある場所として知っていたのか。


「今のところ分からないことの方が多い」


「到着すれば分かることが増えると思います」


 颯は残りの水を飲んだ。アルテが何かを断言するのは珍しい。颯はその言い方を少し考えた。



 施設がレーダーに映り始めたのは、到着予定の四十分ほど前だった。


 反応はすぐに増幅された。颯はエンジンを絞り、距離を詰めた。アルテが形状を読み始めた。


「横二百メートル、縦八十メートル程度の構造体です。円柱と箱形の複合型。外壁は旧連邦規格の素材に近い反射特性を示しています。回転していません」


「電力は」


「微量ですが確認できます。非常電源が生きている可能性があります」


 近づくにつれて、外壁の傷が見えてきた。大きな衝突の跡がある。ただし穿孔はない。かなり昔のものだ。表面に錆と変色が広がっているが、骨格は保っている。


「ドッキングポートの状態は」


「外壁左側にA型ポートを確認しました。開閉機構に大きな損傷は見えません。ただし確認は接近してからです」


 颯は速度をさらに落とした。宇宙服の接続部を片手で確かめながら操縦した。気密は問題ない。



 ドッキングポートは、アルテの接続要求に応じた。


 電力がある。旧型の電動機構がゆっくりとドアを開けた。颯は気密確認を順番に終わらせて、エアロックを通った。


 内部の気温は三度だった。空気は薄い。ヘルメットを外さずに進んだ。


 廊下に旧連邦の標識がある。かすれているが読める。颯はランタンを点けた。光が届く範囲は狭い。壁に埃の層が積もっている。床に足跡はない。ここ数年、誰も通っていない。


「施設の内部構造図を取得できるか」


「非常電源で管理端末が稼働しています。接続を試みます」


 アルテが十数秒かけてデータを取得した。図面が手元の端末に表示された。颯は工作室の位置を確認して歩き始めた。



 工作室の扉は施設の電力で開いた。


 内部は暗かった。ランタンを向けると、旋盤とフライス盤、それからカバーのかかった機械が一台ある。颯は旋盤に近づいた。カバーを持ち上げた。


 刃先に金属の削りかすが残っていた。変色しているが形は保っている。颯は指で触った。硬い。軽くはない。


「この素材の成分を特定できるか」


「ランタンの映像から確認します。しばらく待ってください」


 颯は削りかすを手の平に載せた。アルテのカメラが数十秒かけて解析した。


「高温耐性の合金系素材です。旧連邦の型式と照合すると、M-0144の第三成分に適合する素材の一つです」


 颯は削りかすを床に置いた。


 六年前、この機械が動いていた。この刃先で、M-0144の第三成分を削った。前の持ち主はここまで来て、実際に作業をしていた。


「稼働記録は」


「最後の稼働は六年前です。旋盤とフライス盤の二台に記録があります。三番目の機械には稼働記録がありません」


 颯はフライス盤のカバーを外した。こちらにも同じ削りかすが残っている。二台で作業した。量は多くない。試作レベルか、あるいは製造自体が途中だったのか。



 保管室は隣にあった。


 在庫目録と照合しながら棚を確認した。充填されている区画と空の区画が混在している。颯は棚を手で叩きながら進んだ。中身の詰まった棚は音が違う。


「M-0144の第三成分に使える素材は何種類残っているか」


「三種類です。いずれも候補と合致します。最多の素材で、在庫目録比三十パーセントの残存です」


「製造に足りるか」


「初回製造であれば可能です。ただし精製の歩留まりを考慮すると余裕は少ない。量産には足りません」


 颯は最も残量が多い棚の前に立った。素材の表面を手で触った。変質はしていない。


「コンテナは」


「保管室の奥に二個あります。この量は一個に収まります」


 颯は奥へ歩いた。コンテナは旧連邦規格の密閉型だ。錆は出ているが構造は問題ない。蓋の開閉を確認した。動く。



 保管室を出て、居住区へ向かった。


 図面では施設の最奥にある。扉を開けると、工作室より狭かった。ベッドが二つ。テーブルが一つ。ロッカーが二列。


 テーブルに何かある。


 颯はランタンを近づけた。手書きのメモだった。紙が変色している。六年分の褪色だ。


 手に取った。字が細かい。急いで書いたような筆跡だ。内容は旧連邦語で、颯には読める。


「第三成分の精製に必要な炉温は一二〇〇度以上。旋盤の刃先は三番を使うこと。保管室の素材は奥から使うこと。手前のものは劣化が早い」


 それだけだった。次の行は何もない。


「アルテ。これを記録しておいてくれ」


「記録しました。精製条件と加工条件が書かれています。作業前か作業中に書いたものと思われます」


 颯はメモをテーブルに戻した。保管室の素材の使い方まで書いてある。ここを知っていた。素材の状態まで把握していた。それだけの時間をかけて調べた人間が書いた。


 ロッカーを開けた。一つ目は空だった。二つ目を開けた。


 宇宙服が一着、かけてあった。


 颯は宇宙服に近づいた。表面を確認した。損傷はない。ヘルメットが横に置かれている。補修の跡がある。接続部の一か所が、別の素材で埋められていた。


「アルテ。識別番号を読めるか」


「確認します」


 颯は宇宙服の首元の内側に手を入れた。タグがある。アルテが数秒かけて読んだ。


「旧連邦規格の個人登録型です。番号は取得しました。ただし個人を特定するには旧連邦の登録データベースが必要です。現在アクセスできません」


 颯はロッカーを閉めた。


 宇宙服を残して、どこへ行った。



 貨物の積み込みは一人でやった。


 コンテナに素材を詰め、密閉した。廊下を引いて錆鉄丸の貨物区画まで運んだ。固定ベルトを四か所かけた。重量を計器で確認した。飛行特性に問題はない。


 施設の電力はそのままにしてきた。次に誰かが来た時に入れるようにしておく。ドッキングポートの開閉ログを残した。颯がここに来たという記録だ。


「出発できる」


「準備が整いました」


 颯はシートに座った。操縦桿を握った。ドッキングを切り離した。施設が後方へ遠ざかっていく。


 窓の外で施設が小さくなった。外壁の傷が最後に見えた。それが暗闇に溶けた。


「前の持ち主が製造を完了していたとすれば、完成品はどこへ行ったと思う」


「製造後にフィーエルへ向かった可能性が高い。ただし入港記録がありません」


「設計図も届けようとした。第三成分も製造して届けようとした」


「どちらも届いていません」


 颯はエンジンを上げた。座標がナビゲーションに表示された。フィーエルまで三十一時間。


 居住区のメモが頭に残っている。素材は奥から使うこと。手前は劣化が早い。そこまで知っていた。それだけ準備をして、届けられなかった。


「フィーエルへ戻る」


「了解しました」


 施設が視界から消えた。


 颯は操縦桿を固定した。窓の外に何もない。エンジンの唸りだけが続く。誰かが六年前に向かい、宇宙服を残して消えた場所が、また暗闇の中に戻っていった。

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