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宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~残されたデータとジャンク品で銀河の果てを目指す開拓物語~  作者: 堀吉 蔵人


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座標

お昼に更新中です。 ぜひ読んでいってください!!

夜明け前、まだ外が暗いうちに端末が鳴った。


 颯は格納庫の壁際に背中を預けて起きていた。昨夜からそこに座っている。眠ったかどうか、自分でも判断できない。端末の光が壁を白く照らした。


「刻印の解析が終わりました」


 アルテの声は変わらない。夜でも昼でも同じ密度を持っている。


「話せ」


「旧連邦航法の縮小符号です。規格は旧連邦後期型です。符号は座標を示しています。フィーエルから見て第三象限、航行距離で十七時間の地点です」


 颯は機の上に置いてある金属板を見た。五センチ四方。昨夜からその場所に置いてある。暗い中でも輪郭が見えるくらいには目が慣れていた。


「その地点の登録は」


「旧連邦の公式施設登録にはありません。ただし、符号の構造が施設への参照を前提にしています。空域への参照ではない」


 颯は立った。金属板を手に取った。指先で彫りの深さを確かめた。均一だ。彫り始めと彫り終わりで深さが変わっていない。長年の作業者の手だ。


「フィーエルの記録庫にこの座標が出てくる記録がないか確認してくれ」


「確認します。旧連邦期の記録は欠損が多い。今日中に出ます」


 颯は板を置いた。外の空が少しずつ白んでいた。



 セイが来たのは朝食の後だった。颯はアルテの解析を読み上げさせた。セイが立ったまま聞いた。端末を取り出して何かを打ち込んだ。


「旧連邦後期型の縮小符号は基地の航法資料にも収録されています。ただし完全ではない。ランドを連れてきていいですか。基地で旧連邦航法の資格を持っている唯一の人間です。十五年、航法機器の保守を担ってきました」


「構わない」


 セイが少し迷うような間を置いた。


「昨日の素材の成分分析が出ました。M-0144の二番工程に必要な第三成分が不足しています」


「今日の計測でも確認する」


「はい。ただ、座標の先の施設が旧連邦の冷却設備を持っていれば、そこに残っている可能性があります」


 颯は答えなかった。確認が先だ。中身の分からない場所に三十四時間の燃料を使うかどうかは、確認の後で決める。セイもそれ以上は続けなかった。



 午前中は素材の硬度計測に入った。


 旋盤にかける前に計測値を揃えておく。颯がカレンに計測器の使い方を見せた。表面の中央に当てる。端を測ると誤差が出る。カレンが受け取り、同じように当てた。数値が出た。颯の値と〇・二違う。


「もう一度」


 カレンが当て直した。〇・〇五。


「力が毎回違う。一定にしろ」


 三回目は〇・〇一だった。四回目は一致した。颯は何も言わずに記録を続けた。


 アリスが計測四つ目を終えた時点で口を開いた。


「設計書の二番工程には使えません。第三成分が不足しています。旧連邦規格の特殊冷却合金の一つです。昨日の採取分には含まれていませんでした」


 颯はアルテに確認した。


「その成分は、座標が示す地点の施設に保有されている可能性があります。旧連邦の冷却設備を持つ施設であれば、在庫が残っている場合があります」


 アリスが手帳に成分名を書いた。颯は四つの計測値を並べて見た。


 この素材では内部部品に進めない。座標の先に同じ不足分がある可能性がある。符号を彫った人間がM-0144の製造工程を知っていたとすれば、偶然ではない。——もし知っていたとすれば、だが。



 昼過ぎ、セイがランドを連れてきた。


 四十代の男だった。日に焼けた顔に、作業の年数が皺として刻まれている。目の端の深い線は、長い間、光の強い環境で精密な作業を続けてきた人間のものだった。颯が板をランドの前に置いた。


「見てくれ」


 ランドが眼鏡を出した。板の表面に顔を近づけた。一分、何も言わずに見た。眼鏡を外してもう一度見た。指先で一つの符号をなぞった。なぞるだけで、押さない。骨董を扱うような慎重な手だった。


「後期型の縮小符号です。手彫りです」


「書けますか」


「書けます」


 ランドが顔を上げた。颯を見た。


「ただし今の基地でこれを書ける人間は私だけです。後期型の規格は廃止されています。前任の担当が十年前に亡くなりました。それ以前は二人いましたが、旧連邦崩壊の時に離散しました。どこへ行ったかは分かりません」


「この板を見たことがあるか」


「ありません」


 答えに迷いがなかった。颯はランドの目を見た。


「フィーエルに来る予定があって来なかった船の記録が残っていますか。五年から七年前で」


 ランドが眉を少し動かした。


「到着しなかった船の記録は残りません。ただし入港予定で来なかった場合、入港記録の欠損として残ることがあります」


「確認してもらえますか」


「やります」


 ランドが出ていった。格納庫に間があった。セイが端末を持ったまま颯を見た。颯は板を見ていた。


 廃棄されたステーションに誰かが入り、座標を手で彫り、棚に立てかけた。落としたのではない。見つけた者が使うことを前提にした置き方だ。その符号を書ける人間が現在のフィーエルに一人しかいない。書いた人間は旧連邦後期型の規格を知っていた。


「一つ聞いていいですか」


 セイが口を開いた。


「その板を彫れたのがランドだけだとすれば、フィーエル以外の出身者ということになりますか」


「あるいはフィーエルにいた人間が外に出て、どこかで学んだか」


「どちらにせよ、今の基地の人間ではない」


 颯は板を袋に戻した。「確認が終わったら知らせてくれ」



 午後は工作機械室に入った。


 外装部品の四部品目を切削する。アリスがパラメータを確認した。切削音が室内を満たした。颯は音を聞いた。昨日と同じ回転数、同じ送り量で異常がない。カレンが機械の前に立っていた。昨日は機械そのものを見ていた。今日は切削部と素材の接触点を見ていた。目線が一段階変わっている。


 二十分で四部品目が出てきた。颯は手に取った。〇・〇七ミリの誤差が一か所ある。昨日の三番目より精度が上がっている。カレンが受け取り、指先で表面をなぞった。


「昨日より細かいです」


「〇・〇三ミリの差だ」


「数値を見る前に分かりました」


 颯は何も言わなかった。アリスがパラメータを記録した。



 格納庫に戻ると日が完全に落ちていた。


「アルテ」


「はい」


「記録庫の照合で何が出た」


「一件です。旧連邦期の記録に、この座標地点への言及が一件あります。ただし内容が省略されています。詳細な記述がない」


「省略した理由は」


「記録者が詳細を知らなかった可能性があります。意図的な省略とは形式が異なります。知らずに記録した、という形に近い」


 颯は機体の外壁に手を当てた。金属の冷たさが掌に伝わった。日が落ちてから、格納庫の気温が下がっていた。


「フィーエルに向かう途中にあのステーションに立ち寄り、座標を置いて出発した人間が、この基地に来なかったとすれば」


「その人間が座標の先に向かった可能性があります。あるいは途中で何かがあった可能性があります」


「六年前とステーションの粉塵の厚みは重なる」


「重なります。ただし、この船との関係は現時点では確認する手段がありません」


 颯は外壁から手を離した。


 この船が颯の手元に来る前、六年間をジャンク宙域の隅で過ごした。座席の下に設計図があった。排熱ダクトが改造されていた。フィーエルへ届けようとした人間の痕跡が残っていた。そしてあの板がステーションで誰にも見つけられずにいたのと、時間が重なる。


 同じ人間だとは言えない。ただ、座標の先の施設がM-0144の製造に関係するとすれば、符号を彫った人間はM-0144を知っていたことになる。知っていて、座標を残して、フィーエルに来なかった。


 颯はその先を考えた。行き着く場所が一つある。考えた上で、引っ込めた。まだ情報が足りない。


「ランドの調査が終わったら知らせてくれ」


「了解しました」


 精製炉が低く唸っている。格納庫の明かりが床に伸びている。四部品の試作が機の端に並んでいる。三つが昨日、一つが今日だ。数が増えている。


 颯は床に腰を下ろした。外壁に背中を預けた。


 手元の素材では内部部品まで届かない。座標の先に第三成分がある可能性がある。その座標を置いた人間が誰で、どこへ行ったかはまだ分からない。行くかどうかは明日のランドの調査次第だ。確認できることをすべて確認してから決める。


 それだけだ。


 颯は目を閉じた。精製炉の低い音が続いていた。

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