第4話「休息90パーセント」
しばらくした。
時間がいつの間にか知らない間に過ぎ去っていった。
しかし、結局ゴミ食べ虫は来ない。
ゴミ食べ虫と呼ばれた袋を処理する何かは来ない。
そう、何も成果がなかった。
興味に成果はつきものだと思っていたのに。
それはただの思い違いで、ただ一回限りの経験を勝手に生かしただけの偏見だが。
しかし、なにかは得たはずだ。
なにかをすれば必ずなにか結果は来るはずなのだ。
それをいいわけに、自分自身を正当化するために、ここにいたことを間違いにしないために。
それを何もない平らな水平面から見つけ出して。
まぁ、自分の得意分野といえようか。
「まだ、ゴミ食べ虫は来ないの?」
「ゴミ食べ虫?なにそれー?」
ふにゃっときなりは笑い出す。まるで私の言ったことがおかしいとでもいうように。
「えっ」と、一瞬のどを詰まらせる。
とても行動が謎すぎて。
なにそれと、本人から言われたくなかった。
そんな薄いふわふわしたことになってしまうなんて、思いたくなかった。
薄っぺらい、透明感を帯びた色になってしまうとは考えもしなかった。
それじゃあまるで、ここにいたことが意味のないことみたいだ。
意味のあることをしようとして意味のないことに気づいてしまっただけみたいだ。
まぁ、無理矢理成果をあげるとすれば、きなりには冗談を言える脳がある。
ウィルスにおかされていても、こういう風に、平然と嘘をつける。
それは、心に余裕がある、のかもしれない。
そして案外、みんなは賢いのかもしれない。
そういえば、ふわふわといえば。
きなりに反してベッドのふわふわは嘘ではなかった。
この羽のような草、沈んではまた戻る弾力性、なのに少し力を加えただけで抗うことなく従うやわらかさ。
もう、ここにじっとしていたいくらいだ。
ぜひ一家に一台、自然のベッドは日の光に当たるからこそかもしれないけれど。
まぁ。私はゆうかのところに行かねばならないし、じっとしているわけにはいかない。
なんとも残念なことだ。
私がこちら側だったら、これも許されてしまうというのに。
「あぁー。そういえばきなり、りるちゃをゴミ付き虫っていったっけ。」
思い出したかのように、しかし、少し違うのだが。ゴミ食べ虫なのだが。
りるちゃ、というらしい。まぁ、普通に考えると「りる」の愛称だろうか。
私のこの予想は、全国に「りるちゃ」という名前がいたら土下座ものかもしれない。
しかし、なんともな記憶力。きなりはうすらしか覚えていないのだろうか。
いや、普通に記憶した上の冗談かもしれない。
冗談、やはり侮らなくて正解だ。
しかし、普通に対面しているとしたら、ただの人でいいのかもしれない。
ウィルスウィルスと、なんとも否定してきたものだけど、そうじゃなくて、私もそのうちでしかないのに。
本当は、もしかしたらウィルスなんてなかったのかもしれない。
眠って起きたらただの私の勘違い、なんとも恥をかきそうなにおい。
それだったらいいと今は思っているけれど、そのときはいっそ本当ならと思うのかもしれない。
まぁ、きなりがふつうのおんなのこということは、大いなる収穫か。
そう、あのときの「知らない」といったときの冗談っぽさは、今なら思い出せる。
それを判断する能力が鈍ってきている、私のほうが馬鹿か。
「そういえば、りるちゃ来ないね。あーやに消し炭にされていないかなー。
まぁ、あーやはやさしいから、強い人にしか興味ないけどね。」
きなりがのんびりと物騒なことを話す。
それは私の中であーやが安心領域に入った瞬間。
まぁ、これは大変ありがたいことなのか。
ほっと一安心。またここに来ても良さそうだ。
そうすれば、後はここを離れて、来たいときに来るだけ。
心置きなく、何も心配することなくここに再び顔を出せる。
そう、それにすこしあーやのそばにいる理由がわかった。
「でもー。弱いとなぜか皆あーやから『きつね娘』とか『きつね坊主』とかいわれるけどねー。
あっ、反論すると殺されるからしないほうがいいよ。
ちなみにね、きなりはがんばったから『きなり』ってよばれるよ!
お兄さんのほうは『きつね坊主』じゃなくて『兄ちゃん』って呼んだりしてるみたいだけどねー。」
きつね、とはあの動物のきつねだろうか。
それは一大事だ・・・。
・・・。
・・・・・・。
もうすでに移動済み。
現在、木の下。
あそこから、体が私に反動してくるのを必死に押しのけてやっとのことでここにきた。
あれは、まぁしかたのないことだ。大変だったのも体だけでなく心も奪われてしまったからだろう。
時は有限、さらにこの場合はなおさら。いつまでもああして時間を費やすわけにはいかない。
しかし、ふかふか。なんとも名残惜しい。
今晩もしそこにスペースがあれば寝に行かせてもらおうか。
ぐっすりと、お昼頃まで二度寝、三度寝ができそうだ。
「はいはい、そんなこと考えない。あ、ヒントを出さなきゃいけないから出すから、きちんと聞いてね。」
ぱんっと、ゆうかが目の前で手を合わせる。
そして、エスパーか、とつっこみたくなる。
まぁ、よくあることではあるのだが。
よくあっては生理的に無理なことなのだが。
ヒント、そういえばあの出来事は今日なのか。
幽霊になって私の前に現れて、急にヒントとか遊びだとか。
迷惑。まぁ、ありがたいからありがた迷惑?
その場合は迷惑ありがただろうか。
ずいぶんと長い時間がたったものだ。
「じゃ、ヒント。はづきさ、形質が変化したのは、個人差があるから、自分の中の抗体がうんぬんかんぬんって考えているでしょ。まぁ、今はどうでもいいことか。
それね、違うから。ウィルスの方に個人差があるんだから。
それで、好き嫌いで個体を決めて、合わなかったらなくなって、合ったら現状って感じ。
先生も殺したくなかったんだと思うよ。うん。そしたら一瞬で浮き世へ飛んで行ってしまうの作ると思うからね。
それか、ただの実験材料で、試しだっただけかもしれないけどね。まぁ、そこら辺はぼかしておくよ。」
なんとも救出には関係ないことを今更。
しかし、そうだったのか・・・。
すこしショックをうける。
勘は鋭い。しかしなぜか間違いも起こる。
少し他の人より当たりやすいというだけで、まぁ、間違いがあることは把握済みだったけれども。
朝早くに考えたことが間違っていることの確率は0に近いだろうから、おそらく今後はないだろう。
まぁ、教えてもらえることだったということで、運はよかったのだが。
「うーん。特別サービス。気づいていないみたいだから、もう一つ!」
勢いに任せてくるり、と一回転する。
いるかのように。水の中を何にも縛られずに泳いでいるかのように。
これが現実でできたら、トリックスター間違いなしだ。
そしてゆうかは、意味もなく耳打ちをする。
そう、誰かが周りにいるわけでもなければ、聞かれてまずいような内容でもないのに。
しかし、まぁ、一度はしてみたいことの一つに入っているのだろうか。
こしょこしょ、と、しかし吐息が当たることもなければ、耳に手が触れることもないのだけれど。
決してそういうことは、もうないのだけれど。
「それぞれ、自分のことで精一杯で、精神的に追い詰められているんだよ。」
本当に意味のない。声だって少し息の混じった声が届くだけであって、それ以外かわりがない。
しかし、ゆうかは満足そうににこにこすると、すっと遠のく。
なんとも不思議な。まぁ、普通にただしてみたかったというだけなのだろう。
意味のないことほどしてみたくなるものだ。
そして、不十分すぎる。もう少し情報が欲しい。
攻撃的な性格になる、これは間違いなさそうなのに、きなりとかは震えるだけで、攻撃的ではなかった。
世間はこれに関してはあまり間違いを言っているとは思わない。すこしぼかすだけで。
それか、これも外れという、絶対にないことがあり得ているのか。
この世の原理に反することがここでは起こっているというのか。
「いや、攻撃的な性格になるんだよ。もう知っているようだから言っちゃうね。
でも、追い詰められ具合とか、もともとの心の広さとかせっかち具合とか、いろいろ関係するだけ。
しかも、攻撃的というのは必ずしも物理じゃないし。
ある日それは暴言だったり、ある日それは悪質な嘘だったり、ある日それはいたずらだったり。
ひとによっても様々だよ。だから一途に否定してはだめだよ。」
ゆうかは一通り説明したあとに区切りをつけると、ながながと、この場合はどうとかの例をあげだす。
そこで見いだされるのは比例らしき図であって、まぁ、こんなによく例をあげられるものだと感心する。
まぁこんなに言葉がすらすらと。
何を何が何したとか意識させないための言葉かなと疑うほど。
ふふふーん、と、ふと思いついた鼻歌が無意識に吐息に混じる。
それのせいか、ゆうかは、私が聞いていないことにふと気づいてしまった。
そう、幽霊界でこんなことがあるなんてないだろうから、みんな気長だから、話を聞かないなんて事はないから、例外を見て、悟ったかのように急に黙って。
それは、私に対する嫌悪になってしまったらまずいけれど。
そんなことはゆうかに限ってあり得るわけもなく。
そして一つため息をつくと、「まぁ、こんな感じ。」と、ひとまわりする。
それは私に対する配慮、これ以上あげても意味がないという限界を知ったときの対処。
感謝すればいいのだろうか。まぁ、しなくても許してくれるだろうけども。
しかしそれは許される、許されないの問題ではないのだろうけど。
「まぁ、もうなにも教えないからね。話していたらちょっとぼろを出してしまうかもしれないけどね。」
ゆうかは恒例の台詞を投げてくるりと回る。
きれいに、髪が散らばって曲がって。
これにはゆうかもお気に召したみたいだ。
そして、一回転することは一区切りの習慣になっているのだろうか。
なんとも不思議な習慣だ。
水を得た魚、というのは、見たらこんな感じなのかもしれない。
実際に見たら、の話だけれども。
さてと、質問タイム。
おしゃべりに質問を挟めばスムーズに聞き出せるのだろうけれど、私にそんな器用なことはできない。
これは、直球でいくしかない。
おしゃべりじゃないわたしにおしゃべりを巧みにしろというのは、けん玉をしたことがない人にして成功させろというものだ。
そして、量。
内容の濃さもそうだけれども、あまりにしすぎると出し惜しみをしてしまうから。
そう、1日に一つ二つが理想だろうか。
だとすれば、慎重に考えなくては。
けんだまのやり方をさんざん考えた末、ミスるのはなんとも耐えがたい悔しさに見舞われるものだから。
失敗すればまた明日、だとすれば、わざわざここに来ずとも、あのふかふかに包まれていたままでよかっただろう。
「・・・あの先生、りさこ先生の言語はウィルスのせい?」
「そうだよ。」
・・・。
失敗したことに気づくのに長い時間を所望しない。
本当にやってしまった。イエスノー文を出してしまった。
これでは情報を聞き出すに聞き出せない。
まるでわかってたのに失敗してしまったあれだ。
歯がゆい悔しさだ。
なのにゆうかは。
わざとらしく。まるで嫌みのように。
やってしまったという風に口を押さえて、目を見開く。
そして、へラッと笑うと人魚のように一回転する。
そう、本当に性格の悪い人だ。
どうして私はこんなのと親友なのだろう。
そして、たぶん、出た情報は薄いから、もう一つくらい質問しても、しぶることはないだろう。
あまりにも情報を出させすぎると、明日の日から質問に答えてくれる個数が減ってしまうきがする。
そう、それは一番気をつけなければいけないところ。
決して踏み外してはいけない。
しかし、もし私が死に際なら。
質問を繰り返して、すべての知識の末に眠れるのだろうか。
全知で死を迎えるのなら、私の本望なのだが。
・・・いや、冗談だ。私もかしこいことを、きなりのまねをしただけだ。
もう一つだけ、考えなければ。
ゆうかは相変わらずくるくると回っては、どこかへ行こうと遠くを見て、ひゅうっと反復してを繰り返している。
笑顔、幽霊は時間にルーズだとゆうかは言っていたが、本当にそうなようだ。
私がどれだけ時間を奪おうと、関係ないかのようにへらりとかわす。
そして、やっと決まった、私の質問をぶつけてみる。
「ウィルスが原因で、何が起こるの?」
「・・・。えー。じゃあ1、2、3、4の中から選んで。ラッキーだと二個しれちゃうかもね。」
ゆうかは困ったように斜めに体をねじ曲げると、指を一本一本立ててみせる。
それはどこかいたずらじみていて、ちょっと質問が悪かったかなという私の後悔を、一瞬で持って行く。
まぁ、それもゆうかのいいところなのだろうか。
幽霊になってはっちゃけちゃった感があるのだが。
死んだのならば、もう何も怖くないかのような、あの感覚。
オールウェイズ深夜テンション・・・。
あとで後悔にさいなまれても私は知らないことだろう。
質問、1、2、3、4、普通に考えるなら変化することは4つ。
一つ目はおそらく形質の変化だろう。ちさとの髪、はるよの足、あーややりゅうすけの右手だ。
全部、生きるために変化しているのかどうかを確かめておくのも、悪くない手だろうか。
そう、それが一つ目で、二つ目はおそらく、攻撃的な性格の話。
はるよや、あーやの強い人に出会ったときみたいな。・・・いや、少し違うか。
あーやについてはきなりがさっき言っていた「反論すればつぶされる」的なほうか。
そう、それのことだろう。
そしてそれに関しては先ほど少しヒントがあがったか。
三つ目、四つ目は、わからない。おそらくどちらかにあの先生の言語障害や、きなりの不気味な笑いが入ってくるのだろうが。
だとすれば、新しい知識を手に入れられるのは3か4、そう、確認よりも、新しいものの方が先だ。
そう、4にしよう。
「4。」
「あっ、だまされた。まぁいいや。4ね。4はねー、ウィルスにおかされると、体が変化するよ。
一部だけという人もいれば、全体だという人も、はたまたそうでない人もいるね。
まぁ、もう知っていたかな?
そうだね。質問が最悪だったね。さすがはづき。
はづきに免じてもう一つだけ関連づいたヒントをあげよう。
ウィルスで変化するパターンは四つ。吸収、貯蓄、削減、変換だよ。
まぁ、それだけ。あとは考えるがいいさ。」
なんとも意地の悪い親友を持ったものだ。
「さすがゆうか。」とお返ししてやりたい。
本当に、本当に。悪い幽霊だ。
もう本当は私はこんなだまされなくていいのに。
幽霊なんてものがなければ嘘もないのに。
このまま、元から幽霊なんてなかったかのように消えてしまえば。
そしたら、もう、話すことだって、意思疎通だって二度となかっただろう。
こんなふうにふざけるようにわざとらしく口を押さえてくるりと回転する事なんてなかっただろう。
現時点の理想だ。
もう、話を聞く必要はないだろう。
必要がない、でなく、してはいけないなのだけれども。
憶測、まぁ、外れているかもしれない。
しかし、あんな質問をしてしまったから、ほぼ十割かとも思われる。
「うん。それじゃ。」
「ん?」
「うん?」
「うん。」
「じゃあね。」
なにかと不思議なやりとり。
まるで、すぐに理解できないほどの。
そんなに私がすぐ離れるなんて考えていなかったのだろうか。
そしたら、とんだ間違いをしてしまった。
まぁ、仕方のないことだ。
もう引きかえせはしない。
ゆうかも呆れたかのように、しかし、どうせ、見捨てることなんてないだろう。
どうだって、たかをくくってるかなんて突っ込まれても自信を持てる。
そして、まぁ少し自分に甘えて、目指すはふかふかのベッド。
寝る所なんてろくになくて、というか、寝なくていいからなんともなくて。
布団の感覚をもう忘れてしまっていた。
まぁ、なんとなくどこ行くんだ自分と言いたくなるけれど。
まぁ、仕方ないことだ。これは仕方のないことなんだ。
森の中、私以外人間などいない。
そう思わせる静けさの中、危うい記憶をたよりに、忘れられないあの感覚のもとへとさまようのであった。




