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目の前にあるものが、いったいなんなのかわからなかった。それは僕らの肩くらいの高さに浮かんでいた。大きさは人の顔くらい。暗闇の中で光を放っているが、その輪郭は曖昧だ。白色とも黄色ともいえない不思議な光。
僕とヤスは一目散のその場を駆けだした。自分にはこんな大きな声が出せるんだと驚いた。足元の土が目茶苦茶にはねてきて体にかかる。目の前の木や草が邪魔でうまく走ることができない。ふ、っとつま先に衝撃を感じたときには、勢い余って土の上に倒れ込んだ。次に、僕の脇腹に何かが食いこんできた。すると、上から結構な重量の物体が振って来て、僕はを押しつぶした。
「……」
僕は脇腹の痛みと上からの重みで呼吸ができなくなっていた。
「悪い、弘。大丈夫か」
ヤスは服をはたきながら立ち上がる。立ち上がる時の反作用力で、僕は、もう二三度咳こんだ。
「ヤスのせいで大丈夫じゃなくなった」
「悪いって」
僕も地面に手をついて体を起こす。目の前ではヤスが懐中電灯をいじっている。振り回したりどこかにぶつかったりで電池の接触が悪くなってしまったようだ。ライトの部分が明滅を繰り返している。僕の方のものは完全に点かなくなっていた。
「京介は?」
ヤスは、調整が終わった懐中電灯を僕に向けた。
「わからん」
あの光に驚き走り出して、僕らは京介の脇を通りすぎた。ほの明るい正体不明の光に照らされて、京介の表情はよく見えた。
『行けば分かると思うよ』
と言ったときの、あの表情。
「あいつ、大丈夫か」
「戻ろう」
戻ろう、とはいってもがむしゃらに走り回ったから、自分たちがどこにいるのかわからない。
「きょーすけー」
「馬鹿、でかい声だすなよ」
「なんでだよ」
「見張り番の人に気付かれるかもしれないだろう」
そうなのだ。火の玉、とヤスが呼ぶものに出くわしたとき、僕らは大声で叫んで走り出してしまった。だから、僕らがこの山に登っていることが見張り番の人に知れてしまったかもしれないのだ。
その時だ、下のほうから草木を踏み分けて走ってくる音が聞こえた。音のする方をみると、黄色い放射状の光が左右に振れている。火の玉ではない人工の光だ。
「結果オーライって奴だな」
ヤスは懐中電灯を振って場所を示す。足音はどんどん近付いてくる。懐中電灯で先を照らすと、京介の顔が浮かんだ。
「ヤス」
僕はヤスのTシャツの背中を引っ張った。
「なんだよ」
「隠れよう、懐中電灯は切ろう」
足音はひとつだけではなく、複数人のものだった。先頭を切ってくる一人と、あとをついてくる、何人か。京介は通りすぎざま、僕らを草木の中に押し倒し、自分の携帯電話と方位磁針を僕に投げつけた。
「ごめん、僕は逃げるからこれお願い」
京介の後を追手が通り過ぎる。暗闇の中で足音を聞くとたくさん人数がいるように感じたが、実際は数人程度だった。
「大声出したからバレちゃったな」
僕はお腹の上に乗っかった京介の携帯電話を手に取る。見ると、誰かと電話がつながっているようだ。
『お、その声は弘とヤスじゃないか』
通話先の声は僕らの聞き覚えのあるものだった。




