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柔かい土と落ち葉を踏みしめながら、緩やかな坂道を歩いて行く。
無策に森に足を踏み入れた子どもは、やがて道がわからなくなって最終的に親に保護されるというのが典型的なパターンだ。けれど幸い、この森はそう深いところではない。頭上を覆う木は、空を完全に覆い隠してしまうほど茂っているわけではないし、いざとなったときにはひたすら下れば下界に戻ることも容易だろう。
「なあヤス」
と僕は聞く。
「なんだよ」
僕もヤスも、足を踏み出すリズムに合わせて声の調子も上下する。ずっと歩いているとだんだん息が切れてきて口数が少なくなり、最終的には黙々と歩くだけになるだろう。僕もヤスも、そういう流れというか、何かに負けたような状況に反抗したいようなタイプだった。
「なんで、大人たちは火花のそばに近寄るな、なんて言うんだろう」
「怪我すると危ない、からではないよなあ」
「そうだな」
「じいちゃんもばあちゃんも優しかったけど、火花の話だけは最後までしてくれなかったな」
僕は思い出す。夏になるといつもスイカを食べさせてくれて、お祭りに連れて行ってくれて、父や母に怒られたあとは必ず慰めてくれた。きっと、火花についても教えてくれるだろうと思っていたけれど、その口から出てきた、他の大人がよく言うのと同じような注意だけだった。
僕は亡くなった祖父と祖母を思い出して少しだけ悲しい気持ちになる。
そういえば、弟を失ってしまったヤスは、弟と直接会ったことはないだろう。けれど、あったこともない弟の遺影の前で悲しそうな顔をしている両親を見てヤスはどう感じるのだろう。
と、僕らの先を行く京介が口を開く。
「行けば分かると思うよ、全部」
京介は本当に楽しそうだった。僕やヤスと比べると、京介はスポーツや球技が苦手なほうだ。けれど今は先陣を切って歩いていても、声や動作からは疲れのようなものを感じない。たぶん、人間の持っている体力に加えて、好奇心という別口の体力が京介を動かしているからだろう。
京介は自分の顔に、あごの下から懐中電灯を当てる。顔の凹凸が絶妙な影を作って、微笑んでいる表情にすら、他人に恐怖を与える陰影をつける。僕は思わず笑ってしまった。それにつられて京介も笑い、懐中電灯の明かりが映しだした京介はますますおどろおどろしい顔になる。僕は笑っていたが、すぐ異変に気付いた。
京介は笑っているわけではなさそうだ。京介は、頬をこわばらせ、目を見開いている。僕とヤスのことを見ているわけではなさそうだ。その視線は僕とヤスを通りすぎて、僕らの後方に向けられている。
「どうした、京介」
ヤスはそう尋ねながら後ろを振り返る。僕もそれにならって後ろを向く。
僕らは三人そろって、夜の山にこだまする叫び声をあげた。




