6
秘密基地を出ると、しばらく山沿いの道を歩く。途中、京介のポケットから電子音が鳴る。僕ら三人は思わず飛び上がった。つい、周囲に視線を走らせてしまう。僕だけではなく、京介もヤスも同様だった。液晶ディスプレイの人工光が携帯画面から漏れる。
「メール。兄貴からだ」
「なんて」
「『頑張ってくれよ』って」
京介の兄貴は僕らを応援してくれているらしい。
「というか、面白がってるだけだな。兄貴も、花火の開花がどんな感じなのか興味があるって言ってたから。うまく開花に立ち会えたら、ビデオ撮影したのを持って行く約束をしてる」
だから、頑張って『くれ』よ、という書きぶりなわけか。僕はてっきり、京介の兄貴は無償で協力してくれていると思っていたけれど、それは違った。京介と兄貴は、なんだか兄弟というよりも信頼し合っているビジネスマンのようだ。
「この辺りだ」
ヤスは木々が生い茂る暗闇の中に目をやる。
「方向を間違えないようにな。まっすぐ進んで、山道に出る方向は、あっちのほうだな」
京介が注意を促す。僕は鞄の中から懐中電灯を取り出してた。
「じゃあ、行こうか」
どこまでも広がる森を目の前にする。と、森の奥の方に一瞬、何かが光ったような気がした。
「あれ?」
ヤスが思わず声を漏らす。そして僕がそうしたのと同じように暗闇の中に目を凝らした。
「今、森の奥で何か光らなかったか」
「弘、懐中電灯つけたか」
と京介が聞く。
「うん……間違えて、スイッチを押したのかも」
無意識にスイッチを押してしまったのだろうか。間違って押したのか、それとも押さなかったのか。どちらが正しいのかは判断できていなかったけれど、僕は思わずそう答えていた。
僕はもう一度元来た道を振り返る。薄暗い夜の帳の中、町の暖かな明かりが遠くのほうでにじんでいる。僕はなんだか怖くなってきていた。今からこの道を引き返して、自分の部屋から火花を眺めていたいような気持ちが、心の奥の方から湧きあがってくる。
「弘、なんだよ。怖いなら俺たち二人で先に行くぞ」
ヤスの声はちょっと馬鹿にしたような、面白がっているような調子をおびている。ヤスはさっきの光のことを、僕が懐中電灯を間違ってつけたという説明で完全に納得してしまったようだ。
木々の間の暗闇を、懐中電灯の光が左右に揺れながら遠ざかる。京介は怖がる様子もなく、むしろ興味津々といった様子で、ずんずん奥の方へ進んでいく。
「僕もビデオカメラ持ってくればよかったなって思って」
「なんだそれ」
思わず声が震えてしまったような気がしたが、ヤスはそれにも納得してくれたようだった。




