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肌に感じる夜風が心地よい。自転車に乗って町をかける。空に浮かぶ月は三日月で、この広大な闇を照らすには光源として心もとない。けれど今夜の火花は、とてもきれいに見えるだろう。
秘密基地のそばには、すでに見慣れた自転車が二台止まっていた。
「遅いよ、弘」
「悪い、ちょっと説得に手間取ったんだ」
単に準備に手間取っただけなのだが、そう言い訳することにした。
「兄貴の名前をさっさと出せば納得してくれるのに」
兄も兄だが、京介も兄貴のことを存分に利用している。これでも、近所では仲のいい兄弟と言われているのだから、人はみかけによらない。一方のヤスは、床に大きく広げた地図を眺めていた。この町の全体図が描かれている。
「お前らを待っている間に、偵察に行ってきたぞ」
とヤス。
「悪かったな、ヤス。それで、どうだった」
「火花の咲く山の入り口には、見張りが二人ついてる」
ヤスは、広げた地図の、山の入り口付近にバツ印を付けた。僕を置いてけぼりにして二人で話が進んで行きそうだったので、僕も慌ててついていく。
「ガードを撃破して正面突破っていうのはどうだ」
「弘ひとりでやってくれるなら賛成するよ。その間に僕らは先に行く」
京介は笑うどころかむしろ冷たかった。ヤスに至っては身じろぎもしない。
「悪かった、続けてくれ」
ヤスは、秘密基地と山の入り口の間を鉛筆で示す。
「入口じゃない場所から、森を突っ切っていくしかないだろう」
確かにそうだ。だが森の中は方向感覚が狂うから注意しろと言われるが。
「そんな深い森じゃないし、迷うことはないだろう。一応、京介が方位磁針を持ってきてる」
京介はポケットから手の平サイズの方位磁針を取り出して地図の上に置いた。僕以外の二人はずいぶん用意がいい。
「森を突っ切っていて山道に出る。そこからは中腹まで道なり、か」
冒険というほど、困難があるわけではなさそうだ。だが、これくらいの難易度のほうが実行しようという気にはなる。誰かに見つかったら、自宅に強制送還されこっぴどく叱られるというペナルティもついている。ほどよい難易度と緊張感だ。
「弘もヤスも、準備はいいか」
僕とヤスは、ふたりそろって大きくうなずいた。




