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山の中腹まで行くのには、秘密基地から三時間ほどかかる。決死の覚悟で臨む登山というほど苦しいものではないけれど、火花の開花時期を知っている大人が外に出ているかもしれないから、見つからないように目的を達成するのは少し困難かもしれない。
僕と京介とヤスは、夕食を食べた後に秘密基地に集合して作戦を練ることにしていた。山の入り口で見張りをする大人を、どうやって突破するのかということを。
僕は両親とともに食卓を囲みながら、そのことばかりずっと考えていた。
「弘、どうしたの。なんだかぼんやりしてるわよ」
母は僕に聞いてくる。僕は慌てて用意しておいた台詞を行ってしまった。
「今日は京介の家に泊まってくる」
答えになっていなかったが、
「楽しみなのはわかるけど、周りに注意しないと駄目よ」
と母は好意的な解釈をしてくれた。
「京介の家か。なんでまた今日なんだ」
父は不審な目を僕に向ける。
「京介の兄貴さんが、新しいゲームを買ったからやらないかって。それと花火をしようって話になって」
父は考え込むように腕を組んだ。これで、駄目だと言われたら交渉は難航しそうだ。僕は迫りくる舌戦に備え身構えた。
「親御さんに迷惑かけるなよ。あと、あんまり夜更かしはするなよ」
僕はほっとした。
「後でお礼の電話しておかなくちゃね」
と母も賛成してくれた。京介の家に電話した母は、京介の兄貴の礼儀正しさに感銘を覚えることになるだろう。
「いい?」
「気をつけてな」
父はそれだけ言って話を終えた。交渉は大きな困難を伴うことなくあっさり終わった。僕はほっとした。
「そうだ、今日はちゃんとお供え物をしておかないとね」
母や小さな器にごはんをよそって、畳部屋に置かれた仏壇にお供えものをしている。
僕の祖父と祖母は、数年前に亡くなっている。その時の悲しみが胸にせり上がってくると同時に、別の直感も働いた。ヤスが基地で話していたことを思い出したのだ。大人たちは、火花についての秘密を何か隠している。もしかしたら本当に、そうなのかもしれないという感覚が僕の中に芽生えた。
ともあれ、両親の許可は得ることができたから、大手を振って(とまではいかないが)夜の町を出歩ける。京介とヤスは、うまく抜け出して来られただろうか。




