3.
「火花は、やけどをすると危ないから近づくなって言われているじゃないか」
僕はそう反論した。
「本当にそういう理由だと思うのか」
ヤスはそういう。
「じゃあなんだっていうんだよ」
「昨日の夜、両親が話しているのを聞いたんだ『火花の開花は明日の夜なんだ。じゃあ。お迎えの準備をしなきゃな』って」
僕は途中で口を挟む。
「お迎えってなんだよ」
「たぶん帰ってくると思うんだ、俺の弟が」
僕は黙らざるを得なかった。ヤスの弟は、この世に生れ落ちる前に生を失った。今でも、ヤスの一家はそのことを深く悲しんでいるから、毎年この時期になると、泣き声を聞くことすらできなかった子供の冥福を祈るのだ。
僕の主張は突然弱々しいものになってしまう。
「それで、火花の開花は何時くらいから始まるかわかるのか」
「京介、お前も行くつもりか」
京介は大きくうなずいた。
「ヤスの弟に会えるかどうか、それはわからないけど。火花が咲く瞬間は、見てみたくないか」
京介の目は、好奇心で爛々と光っているように見えた。僕は敗北を悟った。
「……去年は十時。二年は眠っていたからわからない。三年前も十時だったと思う」
僕の家の部屋からは、火花の咲く山が良く見えるのだ。
「十時だな。じゃあ、九時には中腹にいたほうがいいな。時間ぴったりに開花するとは限らないわけだし」
京介はさっそく計画を練り始めた。
「その時間に外に出てると、怪しまれそうだけど」
と僕。
「僕の家に泊まったことにすればいい」
提案したのは京介だ。
「両親は仕事が忙しいから、今夜も帰ってこないよ。その代わり、兄貴がいる。兄貴に口裏を合わせてもらえばいい」
京介の一家は頭がいい。中でもとりわけ、京介の兄貴は。勉強ができるだけではなくて、相手の機嫌を最高に良く保ちながら、自分の利益が最大になるように振舞うことができる。京介もその才能を持っているが、兄貴はさらにその上を行く。僕の両親も、ヤスの両親も、その他の親や先生も、京介の兄貴のことをそろって褒め称える。けれど京介の兄貴は、僕らの秘密基地の創始者でもあるのだ。それがどういう意味なのか、誰でもすぐ察しがつくだろう。
「さっすが京介、頼りにしてるよ」
ヤスはすっかり気分を良くしている。
「無事に帰ってこれるといいけどな」
僕は一抹の不安を覚えていた。けれど一方で、冒険に向かう前の高揚した気分で体が震えていた。




