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湿り気を含んだ熱い風が、木々の間を吹き抜けてくる。僕らは山のふもとにある一本の木の中に「秘密基地」を持っていた。この秘密基地には、小学校の友人たちがかわりがわりに訪れた。カードゲームをしたり、どこかで打ち捨てられた雑誌を皆で回し読みしたりと、大人たちが望まない遊びはすべてのこの中に持ち込まれた。
僕は、クラスメートの京介とポーカーに興じていた。たいしてお金をもっていなかったから、チップは各々がコレクションしているトレーディングカードだった。
僕は相手が提示したカードを手に入れ、取られ、そしてまた手に入れ、と進展のない勝負に飽き飽きしていた。京介は、どれだけ長い時間同じことをしていても、ずっと集中力を切らさないから厄介だ。このまま続けると、僕のほうが劣勢になるだろう。
「誰かいるか」
そのとき、秘密基地の外から声が聞こえてきた。
僕と京介は返事をしなかった。この部屋を訪れてくるのが必ずしも僕らの仲間とは限らないからだ。
「俺だよ、ヤスだよ」
ヤスはこの基地を最も頻繁に訪れるメンバーの一人だ。良く聞くと、息遣いが荒い。この熱さの中、夏休みの宿題を振り切って、全力で自転車をこいできたのだろう。
入り口の近くに座っていた京介が扉を開けた。その扉はある日、ヤスがゴミ捨て場から拾ってきて、基地の入り口に無理やり取り付けたものだ。ヤスは、自分がとてもいい仕事をしたと思っている。
「助かった。死ぬかと思った。今日の最高気温は三十八度度だってよ」
僕は腕時計を確認した。一日で最も気温が高くなるのは午後二時ごろだ、と理科の授業で習ったことを思い出した。今ちょうど、長針・短針・秒針の三本が組み合わさって、二時ぴったりを示したところだった。
「速く締めろ。さもなくば焼け死ね」
京介は、そばにあった汚れたタオルをヤスの顔に投げつけた。
「よく外出を許してもらえたな」
「今日は、うちの近所の人が当番なんだ。見張り番の。もちろんうちの親も」
花火の開花時期になると、大人たちは山の入り口を交代で見張るようになるのだ。それは地域の持ち回りの仕事になっている。
ヤスは渡されたタオルで顔を拭いた。
「京介の兄貴も見張り番やるのか」
僕がそう聞くと、
「兄貴は大学が休みでこっちに帰ってきてるだけだから、そういうのには関わらないよ。それに、兄貴は大学を卒業したらこんな田舎とは完全に縁を切るつもりらしいから、今後もずっとないだろう」
京介の兄貴は、この町をあまり好きではないのだ。なぜなら、田舎だからだと。
「それよりさ、弘、京介」
ヤスは僕ら二人の顔を交互に見ながらいう。
「今夜、火花を見に行かないか」
僕と京介は顔を見合わせた。




