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火花には二つの意味がある。ひとつは、細かく飛び散った火や火の粉のこと。もうひとつは花の名前だ。どうしてこんな紛らわしい名前がついているのかは誰も知らない。 父、母、祖父、祖母の誰も、僕にその名前の由来を教えてくれなかった。けれど、火花について彼らが僕が教えてくれたことは、ひとつだけある。
「決して、夏休みの間は火花のそばに近づいてはいけないよ」と。
その理由は簡単だ。火花は、僕らの町の山のなかに群生している。山の中腹の、木々が切り開かれたところに、まるで誰かが造園を営んでいるのではないかと疑うくらいきれいに植わっているが、その先端に花が咲くことはない。ではなぜ火花などという名前がつくのか。ここで、なぜ火花のそばに近づいてはいけないのか、という先の疑問に戻ることにする。
山の中腹は八月の中旬、一週間ほど立ち入り禁止になる。なぜなら、火花はこの一週間、文字通り咲き乱れるからだ。その先端に花が咲くことはないと言ったが、それは嘘ではない。火花の花は、茎の先端ではなく空に咲くからだ。時期を迎えた火花はその先端から、空に向けて一筋の光を放つ。その光は、夜空の星と衝突して四散し、赤や緑の美しいきらめきで夜空を彩る。しかしこの説には一部誤りがある。星と光の衝突、というのは大昔の人が考えていたことだ。この光の正体はなんなのか、なぜ空で爆発のようなことを起こすのかはわかっていない。
とにかく小学生のころの僕ら子供は、「やけどをすると危ない」という理由で、火花の最盛期である八月中旬は山への立ち入りを、親から強く禁じられたのだ。




