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「火花のそばに近づいたら駄目だよって、あれだけ言ったのに」
「近づくどころか、その中に飛び込んできちゃうなんて、弘くんは凄いね」
男の子はむしろ楽しそうだ。
「なんで僕の名前を知ってるんだい」
僕の問いかけに対して、そのこと笑って答える。
「お父さんとお母さんと、ヤスからいつも話は聞いてるよ。僕が、ヤスの弟。名前はないよ。もう必要がないからね」
ヤスの弟。ヤスが会ってみたいと言っていた弟が、僕の目の前にいる。
「まあ、ここまで来てしまったんだ。火花っていうのがどういうものなのか。ちょっと早いけれど、弘には教えておこうかね」
と、ばあちゃんは仕方がないと言った様子で言う。
「火花は、死者の魂を天に送り届けるときに咲くんだ。それと、故郷に帰ってくる魂を迎えるために、空に咲くんだ」
ばあちゃんは足元に咲く一本の花を手に取った。熱さは感じていないようだ。目の前で会話をしているけれど、祖母もヤスの弟も、生きている人間ではないのだ。
「山を登って行くときに光の玉を見ただろう。あれは、これから天に帰って行くときの人の魂だ。もう、こっちの世界で用がなくなったんだね。あの魂は、火花の花弁になって夜空を明るく彩る。そしてその明かりを目印に、私やこの子みたいな淋しい魂がこっちに帰ってくるんだ」
「まあ、今年は町の中を見て回る時間がなさそうだね。弘くんに、説教しないといけなくなったから」
ばあちゃんとヤスの弟は顔を見合わせる。
「もう、帰るのか。ヤスが会いたいって言ってたけど」
「うん、残念だけど」
ヤスの弟はたいして残念ではなさそうに言うった。
「そうだな。じゃあひとつ、ヤスに伝えておいて欲しいことがあるんだけど、いいかな」
「いいよ」
「死んでしまったことよりも、僕が死んでしまったせいで誰かが悲しんでいることのほうが、僕にとっては不幸なんだ。だから、できるだけ悲しまないでほしいな、って」
「わかった」
ヤスの弟はにっこり笑った。
「伝えておこう」
「よろしくね」
ヤスの弟は、それだけ言うと光の奔流の中に身をひるがえした。ばあちゃんもそれに続く。
「ばあちゃん」
と僕は言う。
「言いつけやぶってごめん」
ばあちゃんは柔和な笑みを浮かべる。
「いいさ、お前がちゃんといいつけを守ったことなんて、ほとんどなかっただろう」
その影も、光の中に溶けるように消えていった。僕の意識は急速に遠のいていく。目の前に輝く光は徐々に減弱していって、やがて闇がすべてを覆った。




