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ヤスは抵抗するが、そのままぐいと羽交い締めにされて動けなくなってしまう。
「さあ、帰るよ」
男は僕に向かって優しく呼びかける。そう、悪いことをしているのはほかならぬ僕たちのほうなのだ。
広場の真中では、火花の先端がより強い光を放ち始めていた。たぶん、そろそろだと僕は直感した。大人たちは、中央の群生する火花から距離を取り始めていた。僕は草陰から飛び出して、広場を真直ぐ突っ切った。
広場の見張りたちは僕に気付いて駆け寄ってきた。左右から伸びてくる手を振り切って、とにかく走った。そして、僕は、開花直前の火花の群れの中に飛び込んだ。
「やめろ、はやく出て来い、危ないぞ」
数人の見張りは、火花から距離を取っている。誰も僕に近寄ってこようとしない。なぜなら、近づくとやけどをしてしまうかもしれないからだ。
僕は、足元にあった火花の茎を手で掴んで引き抜いた。手の中の茎は、植物とは思えないような熱を帯びていたけれど、持てないほどの温度ではない。とにかく手の届くところにある、火花の束を引き抜いては投げ捨てる。地面に横たわった火花は急速に光を失っていった。
やがて、地面から生えた火花がより一層強く輝きだした。僕はとにかく足元にある火花をせん滅し続けた。
そして、目の前の一本を手につかんだとき、その茎全体が信じられないほどの熱を帯びていて、もうさわることすらできなくなっていた。僕は反射的に手をひっこめたけれど遅かった。火花の先端から放出された光が、上空に向けて放射状に放たれた。その光は、泥だらけになった僕の腕を貫通した。
それを合図に、火花の群生は一斉に開花を始めた。空に向けて、無数の光が束になって放たれる。まるで、さかさまになって光のカーテンを眺めているようだ。あまりにも眩しくて、目を開けていられない。どれだけ強く目をつむっても、手をかざして影を作っても、とどまることのない光の奔流が僕の瞳に流れ込んでくる。あまりにも眩しすぎて、自分が目を閉じているのか、開いているのかもわからないくらいだった。
光のカーテンの向こうに、ゆらゆらと揺れる影が見えた。それは森の中で見た光のようにぼんやりしていたけれど、今度は、二本の腕と二本の足、それから頭部の形がついた人型だ。それが何人も。その中の二体が、僕の方に向かって近づいてくる。目を凝らすことはできない。なぜなら僕は目をつむっているからだ。なのに僕はその光景を、視覚情報として知覚できている。まるで僕の瞼に、直接映像が焼きつけられているようだ
距離が近づくにつれて二人の様子が詳しくわかってくる。ひとりは少し背が曲がっていて、歩き方が頼りないから、きっと老人だろう。その傍らでは、小さな影が元気よく跳ねまわっている。その動作から、きっと僕らより年下の男の子だろうと想像する。
光の奔流の中から、二人の人物が姿を現して、火花を刈って綺麗になった地面に足をつけた。僕は懐かしさが胸に込み上げてきて、息ができなくなるのを感じた。
「ばあちゃん、なんで」
ばあちゃんは隣の子どもにそっと微笑みかける。その子は、なんだかヤスに似ている気がした。




