第1話 あなたへ
人の死なんて、きっとチープなものだ。誰にでも関わる人間がいて、関わる動物がいて。それでも関わるものすべてが生き物である以上、みんないずれ死んでしまう。
死によって人が何かを得る――そういう成長も、誰にでも起こりうるものでしかなく、大したものではないんだと思う。物語や誰かの話、あるいは実体験の中では、死は劇的なものとして描かれるし、そう感じられるように語られることが多い。それでも客観的に見てそう思ってしまうのは、私がどこかで冷めてしまっていたからなのだろうか。
そんなことを、今さらになって思い出していた。
昔の私は信じていた。汗ばんだ肌にシャツがしっとりと張りつく感覚。日陰に入ったときにふっと吹き抜ける風の涼しさ。時計の針が刻む、かすかで、途切れることのない音。夏休みが明けても、まだ夏の熱がわずかに残っている九月の空気。
そういうささやかな瞬間が、来年もまた来年も、ずっと続いていくものだと思い込んでいた。だからこそ、見落とさないように過ごしていこうと思っていたはずなのに――今になって、こう思ってしまう。
あそこでしかできなかったこと。あそこでしか感じられなかったもの。
大切なものを、私は過去にたくさん置き去りにしてきてしまったのだと、手遅れになった今になって、ようやく気がついた。
けれど、今さらそれを言ったところでどうにもならない。もうどうしようもない。だから今は、最後の力を振り絞って、代わりにこの言葉を放つ。吐き捨てる。それが今の私にできる、精一杯だと信じて。
「私は、あなたのことがーーー」




