第七話 魔法薬生成
教会に戻ると、神父が食事を用意してくれた。
いつものパンとスープだ。
「ありがとうございます。いただきます」
俺はパンをちぎり、スープにつけて食べる。
「……うまい」
温かい食事が食べられるだけでもありがたい。
昨日まで何も食べられなかったことを考えれば、本当にありがたい。
……ただ。
「……」
パンをもう一口食べる。
スープも飲む。
「……そろそろ、これも飽きてきたな」
思わず本音が漏れた。
「……あ」
俺は慌てて神父を見る。
「すみません。とても美味しいです」
「いえいえ」
神父は笑っている。
俺は再び食事に目を落とす。
(いや、贅沢言ってる場合じゃないよな)
食べさせてもらっているんだ。
文句なんて言えるはずがない。
でも――。
(そろそろ違うものも食べたい……)
肉。
米。
できれば、ちゃんとした料理。
「……日本食が恋しい」
小さく呟いた。
すると、神父が少し真面目な顔になった。
「ケンジさん」
「はい?」
「本当に、十万ギザでよかったのでしょうか?」
「……え?」
俺は顔を上げる。
「昨日のお金です」
「ああ」
神父は少し困ったような顔をしている。
「昨日、百万ギザと聞いても、ケンジさんは『これ、いくらくらいなんですか?』とお聞きになりましたよね」
「はい」
「その後、ご自身の取り分として十万ギザだけを選ばれた」
「そうですね」
「……お金の価値を知らない方というのを、私は初めて見ました」
「そんなに珍しいですか?」
「ええ」
神父は頷いた。
「山奥で暮らしていた、とおっしゃっていましたから、もしかするとと思っていましたが……」
「ああ」
俺は頷く。
「ずっと身内と暮らしていたんですけど、亡くなってしまって。それで、外に出てきたんです」
「そうでしたか……」
神父は少し気の毒そうな顔をする。
「それなら、街のお金について詳しくないのも無理はありませんね」
「まあ、そうですね」
俺はパンを一口食べる。
「でも、十万ギザで十分ですよ」
「……本当に?」
「はい」
神父はしばらく俺を見ていた。
「本当に、不思議な方ですね」
「そうですか?」
「ええ」
神父はそう言って、穏やかに笑った。
「では、私は少し用事がありますので」
「あ、はい」
「食事が終わったら、部屋で休んでいてください」
「ありがとうございます」
神父はそう言うと、教会の奥へ歩いていった。
俺は一人になった。
食事を終え、部屋に戻る。
「ふぅ……」
ベッドに腰を下ろす。
少し休もう。
そう思ったが――。
「……魔法薬って、どうするんだろ」
頭の中に浮かんだ、あの言葉。
『魔法薬が作れるんだから^_^』
作れる。
そう書いてあった。
だったら、試してみるしかない。
「……魔法薬、出ろ」
念じてみる。
「…………」
何も起きない。
「……まあ、そうだよな」
そんな簡単にできるわけがない。
そう思って、諦めかけた。
そのときだった。
「……ん?」
鼻に、妙な違和感を覚えた。
「なんだ?」
鼻の奥が、むずむずする。
「……?」
俺は鼻をすすった。
すると――。
「ん?」
何かが、鼻の奥から垂れてきた。
「……鼻水?」
指で拭おうとした、その瞬間。
ぽたっ。
手の甲に落ちた。
「…………」
透明ではない。
妙に青みがかった液体。
「……なんだこれ?」
俺が眺めていると――。
ぽた。
また落ちる。
「え?」
鼻から、どんどん液体が出てくる。
「ちょ、待っ――」
慌てて鼻を押さえる。
だが、間に合わない。
「んっ……!」
鼻から垂れてきた液体を、反射的に吸い込んでしまった。
「んぐっ!?」
鼻の奥に液体が入り込む。
「ぶっ! げほっ! ごほっ!」
俺は思い切りむせた。
「ごほっ! ごほっ!」
苦しい。
鼻が痛い。
「な、なんだこれ!」
涙目になりながら鼻を押さえる。
そして、ふと気づいた。
「……まさか」
俺は鼻から垂れてきた液体を見る。
「これ……魔法薬?」
その瞬間。
『魔法薬が作れるんだから^_^』
「…………」
俺はしばらく黙った。
「……いや」
鼻を押さえながら、天井を見る。
「作れるけど……」
「出し方がこれって、どういうことだよ!!」




