第六話 100万ギザ?!
二人目の女性の治療を終え、俺は神父のところへ戻った。
「ケンジさん、お疲れ様でした」
「はい」
俺も頷く。
今日は若い女性の治療もできた。
……うん。
悪くない。
いや。
別に、若い女性を治療するためにやっているわけではない。
俺は人を助けるために治療している。
「……まあ、治療は治療ですからね」
誰に言うでもなく、俺は呟いた。
「では、次の患者はこちらです」
「はい」
神父についていく。
すると――。
『魔法薬が作れるんだから^_^』
「…………?」
俺は足を止めた。
「……え?」
なんだ?
今、頭の中に何か出てきたぞ。
『魔法薬が作れるんだから^_^』
「いや、だから……」
俺は眉をひそめる。
「顔文字なに?!」
もちろん返事はない。
「なんで最後に『^_^』ついてるんだよ!」
返事はない。
「あと……」
俺はもう一度、その言葉を思い返す。
「『魔法薬が作れるんだから』って、なんだよ」
「作れるんだからって何?」
「何の説明にもなってないだろ!」
当然、返事はない。
「魔法薬が作れるってこと?」
俺は首を傾げる。
「材料は?」
「作り方は?」
「そもそも魔法薬って何?」
「……情報が足りなすぎるだろ!」
「ケンジさん?」
神父が不思議そうな顔をしている。
「あ、すみません」
俺は慌てて頭を下げた。
「ちょっと考え事をしてました」
「そうですか。では、次の患者はこちらです」
「はい……」
俺は神父についていく。
頭の中には、まだあの文字が残っている。
『魔法薬が作れるんだから^_^』
(……まあ、後で考えるか)
今は患者の治療が先だ。
そう思ったところで――。
『魔法薬が作れるんだから^_^』
「だから説明が雑なんだよ!」
「ケンジさん……?」
「あ、すみません」
俺は小さく頭を下げた。
「……独り言です」
神父は少し不思議そうな顔をしながらも、それ以上は何も言わなかった。
そして、次の家に入る。
そこには、父親と息子がいた。
二人とも病気らしい。
「まずは、お父さんからですね」
俺は昨日からやっているように、症状を聞いていく。
「咳は出ますか?」
「はい」
「喉は痛いですか?」
「少し……」
「食欲はありますか?」
「ほとんどありません」
「身体の節々は痛みますか?」
「はい」
一通り話を聞いてから、父親の身体に手を当てる。
「失礼します」
そして――。
「治れ」
念じる。
すると、父親の表情が変わった。
「あれ……?」
さっきまで苦しそうだった顔が、明らかに楽になっている。
「身体が……軽い」
「治ったみたいですね」
「ありがとうございます!」
「いえいえ」
俺は頷いた。
そして、息子を見る。
「じゃあ、次は――」
手を伸ばした。
「お待ちください!」
神父が慌てて俺を止める。
「え?」
「その子には、治癒魔法を使ってはいけません」
「……そうなんですか?」
「治癒魔法は身体に負担がかかりますから。特に子供は、まだ成長途中ですので」
「なるほど……」
「子供の場合は、薬草などを使った薬で治療するのが一般的です」
「薬草……」
俺は少年を見る。
そこまで苦しそうではない。
「じゃあ、今回はそちらで治療するということで」
「そうですね」
俺は頷いた。
さっきの『魔法薬が作れるんだから^_^』という言葉が頭をよぎる。
もしかしたら、この子を治すのに関係があるのかもしれない。
でも――。
(俺、本当に魔法薬なんて作れるのか?)
まだ何も分からない。
(……とりあえず、今は保留だな)
「では、次の方をお願いします」
「はい」
それから、何人かの患者を診た。
男性もいた。
女性もいた。
……まあ、若くはなかったけど。
俺は一人ずつ症状を聞き、身体を診て、治癒魔法を使っていく。
(……次の若い女性はいつだ?)
ふと、そんなことを考える。
「……いや」
俺は首を振った。
(別に、若い女性を治療したいわけじゃない)
(患者なら誰でもいい)
……そう。
患者なら誰でもいい。
「……うん」
自分に言い聞かせるように頷く。
そして、しばらくして。
「ケンジさん」
神父が声をかけてきた。
「はい?」
「では、いったん教会に戻りましょうか」
「はい」
俺と神父は、いったん教会へ戻ることにした。
教会の扉を開ける。
すると――。
「……あれ?」
中には、昨日治療した村人たちが集まっていた。
「ケンジさん!」
「昨日は本当にありがとうございました!」
「今日は、皆でお金を持ってきました」
そう言って、一人の男性が袋を差し出してきた。
「……お金?」
俺は袋を受け取った。
ずっしりと重い。
「これ、いくらくらいなんですか?」
「全部で百万ギザです」
「百万……?」
俺には、この世界のお金の価値がまだよく分からない。
「結構な金額なんですか?」
神父が答える。
「はい。村人一人が、一年ほど生活できる程度の金額です」
「一年……」
俺は袋を見る。
一年分。
そんな金額を、皆で集めてくれたのか。
「これ、皆さんで出したんですよね?」
「はい」
俺は少し考えた。
そして――。
「じゃあ、十万ギザでいいです」
「え?」
「俺、今までお金を持ってないんで。十万ギザでも十分ありがたいです」
「しかし……」
神父が驚いた顔をする。
「ケンジさん。本来、治癒魔法による治療であれば、一人当たり百万ギザほどかかるものですよ」
「……一人?」
俺は固まった。
「はい」
「……それでも、こんなにもらえませんよ」
俺は首を横に振る。
「十万ギザで十分です」
「皆さんも生活がありますし」
村人たちは、しばらく黙っていた。
やがて――。
「ありがたや……」
誰かが呟いた。
「ありがたや……」
「本当にありがとうございます……」
次々と頭を下げられる。
「いやいや、そんな……」
俺は慌てて手を振った。
「病気を治しただけですから」
そう言いながら、俺はふと思う。
(……まあ、若い女性も診察できたしな)
(そのうえ、お金まで取るっていうのもな……)
(それより……)
頭の中に、今日診察した女性の顔が浮かぶ。
(……また、あの子を診察できないかな)
俺は少しだけ遠くを見る。
「……」
いや。
何を考えているんだ、俺は。
(でも、患者が再発したら診察するのは普通だよな)
(いや、再発しない方がいいんだけど)
(……うーん)
俺は腕を組んだ。
(次に若い女性が来るのは、いつだろう)
そんなことを考えながら――。
「ありがたや……」
目の前では、村人たちがまだ頭を下げていた。




