第五十七話 王都の危機
二日後。
俺たちはロイド研究室に集まっていた。
ロイド室長、ミルさん、シルさん、リンダ、リンク、スカーレット、それに俺。
研究室には、いつもより重い空気が流れている。
「オーク上位種について、ある程度のことが分かりました」
ロイド室長が口を開いた。
「まず、あのオークは自然に強くなったわけではありません」
「そうなんですか?」
俺が聞く。
「はい。心臓に通常とは異なる魔力の流れがありました」
ミルさんが続ける。
「魔法薬の性能を上げる時に使った技術と、よく似ています」
シルさんも頷いた。
「ただし、今回は魔獣の身体そのものに作用していました」
「つまり……」
ロイド室長が言葉を選ぶ。
「禁呪です」
「禁呪……」
聞いただけで、なんとなく嫌な響きだ。
「私たち三人で調べましたが、これが最も可能性が高いという結論になりました」
ロイド室長、ミルさん、シルさん。
三人とも真剣な顔をしている。
「魔獣を意図的に凶暴化させるために、禁呪が使われた」
「そんなことが……」
スカーレットが呟く。
「しかも」
ロイド室長が続ける。
「今回確認された魔獣は一体ではありません」
「……」
「第一騎士団が遭遇した魔獣の多くが、通常より強くなっていた」
確かに。
ブラッド団長も、オーク上位種と相打ちになるほどだった。
「この規模を考えても、かなり組織的な行動だと思います」
研究室に沈黙が落ちる。
「王様にも、すでに報告しています」
「もう報告したんですか?」
「はい」
仕事が早い。
まあ、王様に報告しないわけにもいかないか。
「問題は……」
ロイド室長が俺たちを見る。
「誰が、何のためにこんなことをしたのか、です」
その瞬間――
コンコン。
研究室のドアがノックされた。
全員がそちらを見る。
「失礼します」
扉が開く。
そこには王宮の使者が立っていた。
「ロイド室長、ミル様、シル様、リンダ様、リンク様、スカーレット様、ケンジ様」
名前を一人ずつ確認する。
「国王陛下がお呼びです」
俺たちは王宮へ向かった。
◇
王宮の一室。
そこには――
王様。
宰相グロッタさん。
そしてミルコ神父。
前回と同じ三人が待っていた。
……またこの三人か。
俺は心の中で、そう思った。
「よく来てくれた」
王様が俺たちを見る。
宰相のグロッタさんが口を開いた。
「今回の魔獣凶暴化について、原因を突き止めてくれたそうだな」
「はい」
ロイド室長が答える。
「ご苦労だった。助かったよ」
「ありがとうございます」
それだけ言うと、グロッタさんは席に戻った。
……随分あっさりしてるな。
まあ、こういうものか。
「では、本題に入ろう」
王様が口を開く。
「王宮の密偵から報告があった」
部屋の空気が変わる。
「隣国との国境付近で、不穏な動きが確認されている」
「隣国……」
スカーレットが呟く。
王様は頷いた。
「今回の魔獣凶暴化と無関係ではないと考えている」
「……」
「隣国は、我が国へ意図的に魔獣をけしかけている可能性が高い」
ロイド室長が眉をひそめる。
「まさか……」
「目的は、我が国を疲弊させることだろう」
宰相が続ける。
「そして、十分に国力が落ちたところで――」
「援助を名目に、軍を送り込む」
王様が言葉を継いだ。
「そのまま侵攻するつもりだ」
部屋が静まり返る。
俺は思わず息を呑んだ。
魔獣を利用した戦争。
そんなことを考える人間がいるのか。
「今回の騒動は、その尖兵に過ぎない」
王様が続ける。
「密偵の報告から考えて、本命の魔獣は――」
一拍。
「今回のおよそ十倍になる可能性がある」
「十倍……?」
俺の口から、思わず声が漏れた。
十倍。
第一騎士団があれだけの被害を受けたのに。
それが十倍。
「そんな……」
スカーレットの顔から血の気が引く。
ミルさんとシルさんも言葉を失っている。
ロイド室長は黙って考え込んでいた。
俺も考える。
今回の魔獣だけでも、第一騎士団が大きな被害を受けた。
それが十倍。
このまま何もしなければ、もっと大きな被害が出る。
……。
俺は腹をくくった。
そして、王様を見る。
「作戦があります」




