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煩悩だらけの異世界転移 ~裸が見たいだけなのに聖人扱いされています~  作者: kammy


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第五十五話 眼球

「おい! 起きろ!」


身体を乱暴に揺さぶられる。


「……う……」


俺はゆっくり目を開けた。


目の前に、ブラッド団長がいる。


「気がついたか」


「ブラッド……団長?」


その瞬間――


「――っ!!」


右目に猛烈な激痛が走った。


「ぐああああああっ!!」


反射的に右目を押さえる。


「痛い! 痛い!!」


手を見る。


真っ赤だった。


「な、なんだこれ……!」


右側の視界が、完全に消えている。


恐る恐る右目に触れる。


「――っ!!」


さらに激痛が走った。


「ぎゃああああああ!!」


俺はベッドの上でのたうち回った。


右目は、眼球が砕けている。


しかも、その一部がまぶたを突き破っているようだった。


見た目にも、かなり酷い。


これは……紐切りの人が合気道の人にやった眼球砕き!!


いや、そんなことを考えている場合じゃない。


痛い。


とにかく痛い。


「ケンジ殿!」


ブラッド団長が慌てて俺を見る。


その顔には、申し訳なさと心配がはっきり浮かんでいる。


「すまない!」


「痛いです! 団長!!」


「本当にすまない!」


「痛いぃぃぃぃ!!」


しばらく悶え苦しんだ。


そして、ようやく少しだけ落ち着いたところで、俺はブラッド団長を見る。


「……ブラッド団長」


「なんだ?」


「団長は……大丈夫ですか?」


「私は大丈夫だ」


ブラッド団長は答えた。


「それより君の目が……」


「ちょっと待っててください」


俺は右目に手を当てる。


そして、


「治れ!!」


次の瞬間。


右目の痛みが消えた。


右側の視界も戻る。


「……治った」


ブラッド団長が目を見開いている。


俺は立ち上がった。


「じゃあ、治療を続けます」


その後、俺は重症者を一人ずつ治していった。


傷を確認し、治癒魔法を使う。


次へ。


また次へ。


そんな俺の後ろを、ブラッド団長がついてくる。


「ケンジ殿……」


「はい?」


「先ほどの――」


「ちょっと、どいてください」


「……あ、ああ」


ブラッド団長が横へ避ける。


俺はそのまま治療を続けた。


しばらくすると、また後ろから声がする。


「ケンジ殿……」


「今、治療中なので」


「……すまない」


ブラッド団長は、また少し離れたところへ下がった。


そして、重症者を一人ずつ治療していく。


……ただ。


全員、男だった。


(騎士団だから男ばっかりか……)


俺は心の中で毒づいた。


まあ……。


ブラッド団長の肌を見られたような気がするから、よしとしよう。^_^


重症者の治療を終え、俺はロイド室長たちのところへ向かった。


「軽症者のほうはどうですか?」


「全員、治療済みです」


ロイド室長が答えた。


「持ってきた魔法薬は、すべて使い切りました」


「そうですか」


周囲を見渡す。


苦しんでいる者はいない。


「それなら……よかったですね」


「はい」


スカーレットもホッとしたように頷く。


「死人はゼロです」


ロイド室長が言った。


「……よかった」


研究室のメンバーからも、安堵の声が漏れた。


誰も死ななかった。


それだけで、みんな嬉しそうだった。


すると、少し離れたところにいたブラッド団長が口を開いた。


「……魔法薬?」


「はい」


「どれくらい使った?」


「青の魔法薬を、12本ほどです」


「……12本?」


ブラッド団長の顔が固まった。


「それは……末端価格で3000万ギルは超えるぞ」


「え?」


俺も驚いた。


そんなにするのか。


ブラッド団長は、さらに申し訳なさそうな顔になった。


「……すまない」


「いや、団長が謝ることじゃ――」


「いや……」


ブラッド団長は俯いた。


「私が……」


完全にしょんぼりしている。


そして、ブラッド団長が俺を見る。


「……ケンジ殿」


「はい?」


「君は先ほど……眼球が潰れていたのだろう?」


「まあ、そうですね」


「それなのに、本当に平気なのか?」


「もう治りましたから」


「……」


ブラッド団長は、まだ心配そうに俺を見る。


そして、もう一つ聞いてきた。


「……私に怒っていないのか?」


「え?」


「私が君を殴ったのだぞ」


「ああ……」


俺は少し考えた。


そして、笑う。


「前にも似たようなことがあったので」


「……前にも?」


ブラッド団長が困惑する。


「まあ、よくあることです」


……よくあることではない。


ブラッド団長は、しばらく俺を見ていた。


そして、真剣な顔で言った。


「今回のことについて、私にできることなら何でもしよう」


「え?」


「君の眼球を砕いてしまったのだ」


「もう治りましたから」


「それでもだ」


ブラッド団長は真剣そのものだった。


「妻になれと言われれば、喜んでなろう」


「…………」


俺は固まった。


「いや、大丈夫です」


「……そうか」


ブラッド団長は少し寂しそうに頷いた。


俺はふと思った。


眼球を砕く奥様……。


「……いや、大丈夫です」


もう一度、断った。


まあ……。


ブラッド団長の肌は見られたし。


それで十分だろう。

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