第五十三話 バレた
「……やはり、ケンジも日本出身なのだな?」
「え?」
俺は思わず聞き返した。
「あの……えっと……」
言葉に詰まる。
王様と宰相、それにロイド室長は、どこか納得したような顔をしている。
一方、スカーレットは――
「え?」
一人だけ、完全に話についていけていなかった。
「日本……?」
俺は王様を見る。
「どうして……分かったんですか?」
「どうしても何もない」
王様は淡々と答えた。
「そなたについて、少し調べさせてもらった」
「調べた!?」
「最初に訪れた村で疫病の治療をした」
「……」
「アラミの街では、スタンピードを阻止した」
「……はい」
「そして、ドラゴンまで討伐している」
俺は黙って聞いていた。
「どれも、聖女様が残した功績と非常によく似ている」
「……」
確かに。
言われてみれば、似ている。
「さらに、そなたは聖女様の日記を読むことができた」
「え?」
スカーレットが口を挟む。
「それって、どういう――」
誰も答えない。
王様はそのまま話を続けた。
「そして、日本という国について知っていた」
「……」
「魔法のない世界についても、詳しかった」
「……」
「これだけ揃えば、さすがに疑う」
「なるほど……」
宰相が頷く。
「やはり、そういうことでしたか」
「やはりって……」
スカーレットが小さく呟く。
「え? ちょっと待ってください。ケンジさんが日本人って……」
またしても、誰も答えない。
俺はどうしたものかと頭を掻いた。
「……まあ」
認めるしかないのかもしれない。
すると王様が、今度は別のことを尋ねてきた。
「では、ケンジ。そなたは治癒魔法を使えるのか?」
「あ、それは――」
「はい!」
俺が答えるより先に、スカーレットが答えた。
「ケンジさんは無詠唱で治癒魔法が使えます!」
「…………」
「しかも、他の人にも無詠唱で使えるように指導しています!」
「…………」
おい。
そこまで言う?
俺はロイド室長を見る。
「事実です」
追撃まで来た。
「ええっ!?」
スカーレットだけが驚いている。
「ロイド室長まで!?」
いや、君は知ってたでしょ。
俺は小さく息を吐いた。
なんだか、大ごとになってきた。
日本人だと知られた。
聖女様と同じ世界から来たと思われている。
治癒魔法のことも、かなり知られている。
しかも、自分のこれまでの行動が聖女様の功績と重なっている。
……まずい。
このまま話が大きくなったら、俺は静かに暮らせなくなるんじゃないか?
だったら――
この国から出て行ったほうがいいのかもしれない。
そう考えていると、
「……ケンジ殿」
宰相から声がかかった。
「はい?」
「もしかして、この国から出て行こうと考えていませんか?」
「…………え?」
なんで分かった!?
「い、いや……」
「図星のようですね」
「……」
完全に読まれている。
俺は諦めて、正直に話すことにした。
「俺は……静かに暮らしたいんです」
「静かに?」
「はい」
俺は頷いた。
「別に偉くなりたいわけでもありません」
「……」
「有名になりたいわけでもないです」
「……」
「できれば、今まで通り普通に暮らしたいんです」
スカーレットが恐る恐る手を挙げる。
「あの……」
誰も見ない。
「……」
スカーレットはそっと手を下ろした。
俺は続けた。
「だから、もし日本人だと知られることで、いろいろ面倒なことになるなら……」
一度、言葉を切る。
「この国を出ることも考えました」
王様は俺の顔をじっと見ていた。
そして、静かに口を開いた。
「分かった」
「え?」
「そなたが望むのであれば、今まで通りロイドの研究室で働いてもらおう」
「……いいんですか?」
「ああ」
王様は頷いた。
「ただ、何かあった時には、そなたに相談させてもらいたい」
「……相談、ですか?」
「そうだ」
「俺にできることなら……」
少し考えてから、俺は答えた。
「協力します」
俺だって、知り合いが困っているなら助けたい。
王様は満足そうに頷いた。
「ありがとう」
「……」
話が一段落したところで、スカーレットが口を開いた。
「……あの」
全員がスカーレットを見る。
「結局、ケンジさんは日本人なんですか?」
「そうだ」
王様が即答した。
「……」
「ええっ!?」
スカーレットが大声を上げた。
どうやら、今ようやく納得したらしい。
俺は苦笑する。
「そういうこと」
「じゃあ、ケンジさんも……異世界人?」
「うん」
「……」
スカーレットはしばらく俺の顔を見つめていた。
そして――
「……情報が多すぎます」




