第五十二話 王との会話
三日後。
予定通り、王宮から使いが来た。
「ケンジ様、スカーレット様、ロイド室長。お迎えに上がりました」
「はい」
俺たちは立ち上がる。
ミルコ神父から、三日後に迎えが来ると聞かされていた。
ロイド室長も当然知っている。
「では、行きましょうか」
「は、はい!」
スカーレットの返事が妙に大きかった。
「……」
いつものスカーレットじゃない。
明らかに緊張している。
「スカーレットさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です!」
「は、はい!」
「いや、俺が聞いたのは大丈夫かって……」
「だ、大丈夫です!!」
(めちゃくちゃ緊張してる……)
俺は少し心配になった。
王宮へ向かう馬車の中でも、スカーレットはずっと背筋が伸びていた。
「スカーレットさん」
「は、はい!」
「そんなに緊張しなくても……」
「国王陛下ですよ!?」
「まあ、そうですけど」
「国王陛下ですよ!?」
大事なことなので二回言ったらしい。
「……はい」
俺は黙った。
確かに国王陛下だった。
そして俺も少しだけ緊張してきた。
王宮に到着すると、俺たちは応接室へと案内された。
扉が開く。
中にいたのは三人。
王様。
そして、ミルコ神父。
もう一人は、見たことのない男性だった。
「こちらが宰相のグロッタです」
ミルコ神父が紹介する。
「よろしくお願いします」
俺たちは頭を下げる。
すると王様が手を上げた。
「そう固くならなくていい」
「……」
「今日は正式な謁見ではないからな。楽にしてくれ」
「は、はい!」
スカーレットの返事が響く。
(全然楽になってない……)
俺も椅子に座る。
だが、どうにも落ち着かない。
目の前に王様。
その隣に宰相。
そして王弟のミルコ神父。
どう考えても、普通の応接ではない。
「では、まずは座って話そう」
「はい」
スカーレットは背筋をぴんと伸ばして座っている。
俺もつられて姿勢が良くなった。
(……これ、どう考えても緊張するだろ)
王様はそんな俺たちを見て、少し笑った。
「そんなに緊張しなくていい」
「は、はい!」
スカーレットがまた大きな声で返事をした。
(だから緊張してるんだって……)
王様が、少し表情を引き締めた。
「さて、聖女様の日記についてだが」
「はい」
俺も姿勢を正す。
「聞けば、かなり……砕けた内容だということだな」
「……はい」
ミルコ神父が答える。
「聖女様が別の世界から来たことや、こちらの食事についての感想などが書かれております」
「食事について?」
「はい。かなり率直に……」
ミルコ神父が言葉を濁す。
俺は思わず思い出す。
『こっちのご飯、マズい』
(まあ、確かに率直だったな……)
王様が苦笑する。
「それに、顔文字というものまで使われているとか」
「はい」
「聖女様が……顔文字を?」
「そうなんです」
俺が思わず口を挟んでしまった。
「しかも、かなり無理してギャルっぽく……」
「ケンジ君」
ロイド室長に止められた。
「あ……」
俺は口を閉じる。
王様は少し笑った。
「なるほど。なかなか興味深い日記のようだな」
「……はい」
俺は小さく頷いた。
(本当にこれ、聖女様の日記なんだよな……)
「魔物を撃退した時のことも、書かれているのか?」
王様が尋ねる。
「はい。書かれています」
俺は日記を思い出す。
「最初は、かなり苦戦したみたいです」
「ほう」
王様も少し身を乗り出す。
「ですが、途中から……」
俺は日記に書かれていた文章を、そのまま読み上げる。
「『治った瞬間からしばらく盛れ期入って無双できるとかマジ神~☆』と」
「…………」
応接室が静まり返った。
「……原文です」
俺は念のため付け加える。
「そのまま?」
グロッタ宰相が確認する。
「そのままです」
「…………」
ミルコ神父が額を押さえる。
王様も、なんとも言えない顔をしている。
「それで……?」
「はい。その後、あっさり魔物を撃退したみたいです」
「……そうか」
王様はしばらく黙っていた。
そして、ふっと表情を変える。
「文章はともかく……内容は確かに文献通りだ」
「そうなんですか?」
「聖女様の治癒を受けた者たちが、その後、力を増して魔物を駆逐したという記録が残っている」
「なるほど」
俺は頷く。
「では、日記の内容と一致するわけですね」
「そういうことになる」
王様は日記を見つめる。
「……やはり、本物なのだな」
俺も日記を見る。
『治った瞬間からしばらく盛れ期入って無双できるとかマジ神~☆』
(……これが歴史的資料か)
なんとも言えない気持ちになった。
「では、聖女様が元いた世界について聞きたい」
王様が話題を変える。
「はい」
「日記には、その世界のことも書かれているのだな?」
「かなり書かれています」
「国の名前は?」
「日本という国です」
「ニホン……」
王様がその名を口にする。
「そこは、どのような国なのだ?」
「島国です」
「島国か」
「はい。海に囲まれています」
グロッタ宰相が興味深そうに頷く。
「魔物は?」
「いないですね」
「魔物がいない?」
「はい」
「では、魔法は?」
「ありません」
「……魔法がない?」
「はい」
「では、治癒魔法も?」
「ありません」
「…………」
王様たちが顔を見合わせる。
「では、聖女様は魔法のない世界から来て、この世界で治癒魔法を覚えたということか」
「そういうことみたいですね」
俺は頷く。
王様は少し考え込む。
「魔法がない世界……」
そして、ふと日記を見る。
「料理のうまい国のようだな」
「そうですね」
俺は頷く。
「少なくとも、百年前のこの国では、調味料やダシなどの考え方はなかったようですから」
「なるほど」
王様が頷く。
「それで、ケンジはどの料理が好きだったんだ?」
「え?」
思わず聞き返す。
「聖女様の世界の料理だ。どのような料理が好みだった?」
「ああ……」
俺は少し考える。
「俺はカツ丼ですかね」
「…………」
「…………」
「…………」
応接室が静まり返った。
(……あれ?)
俺は三人の顔を見る。
王様。
グロッタ宰相。
ミルコ神父。
全員、黙っている。
(なんだ?)
俺が首を傾げていると、王様がゆっくり口を開いた。
「……やはり、ケンジも日本出身なのだな?」
「え?」
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