第四十八話 休日デート
休日。
午前中、俺は王都の冒険者ギルドに来ていた。
最初の村とアラミの街へ、魔法薬を運んでもらうためだ。
ギルドには、魔の森騒動のときに一緒になったCランク冒険者たちが来ていた。
久しぶりに会った彼らからは、あのとき助けてもらったことをものすごく感謝された。
俺としては大したことをしたつもりはなかったのだが、何度もお礼を言われてしまった。
そのまま魔法薬の運搬をお願いすると、快く引き受けてくれた。
手続きも滞りなく終わった。
これで、最初の村とアラミの街にも魔法薬を届けてもらえる。
俺はギルドを出ると、近くの食堂に入った。
休日くらい、ゆっくり飯でも食べよう。
そう思って、料理を注文した。
しばらくして――
「……あれ?」
聞き覚えのある声がした。
「ケンジさん?」
振り向くと、そこにはスカーレットさんが立っていた。
「スカーレットさん?」
「こんなところで会うなんて、偶然ですね」
「そうですね」
スカーレットさんも料理を注文し、俺の向かいに座った。
「そういえば……」
俺は昨日のことを思い出した。
「聖女様って、百年くらい前にいたんですね」
「はい」
スカーレットさんは頷いた。
「王都の教会には、聖女様に関する資料が公開されている場所もありますよ」
「へぇ……」
「聖女様が残したものについて、いろいろ調べられるんです」
「日記とかも?」
「あります」
「あるんですか?」
思わず身を乗り出した。
「はい。ただ……」
スカーレットさんが少し困った顔をする。
「聖女様の日記と思われる文献も残っているんですが、文字が読めないんです」
「読めない?」
「はい」
「なんで?」
「古い文字なのか、聖女様独自の文字なのか……詳しいことは分かっていません」
「なるほど……」
「なので、現在は専門家が写本したものが公開されています」
「へぇ……」
俺は頷いた。
そして、ふと思い出した。
「そういえば、スカーレットさん」
「はい?」
「聖女様が作ったっていう、聖なる調味料……」
「聖なる調味料?」
「マヨネーズです」
「ああ、マヨネーズですか」
「食べたことあります?」
「……ありません」
「え?」
俺は驚いた。
「食べたことないんですか?」
「はい。王族の方や、教会でもかなり上の立場の方くらいしか口にできないものですから」
「…………」
俺はしばらく黙った。
マヨネーズ。
俺の知っているマヨネーズ。
それが――
王族や教会の偉い人しか食べられない。
「……」
マヨネーズが。
「……出世しとる」
思わず口に出た。
「え?」
「いえ、なんでもありません」
俺は笑顔でごまかした。
マヨネーズ。
異世界に来て百年。
まさか王族御用達になっているとは。
俺の知っているマヨネーズより、ずいぶん偉くなっていた。
「それで、聖女様の資料ですが――」
スカーレットさんが話を戻す。
「じゃあ、見に行ってみます?」
「はい!」
スカーレットさんが嬉しそうに頷いた。
「私も一度、ちゃんと見てみたいと思っていたんです」
「じゃあ、一緒に行きましょうか」
「はい」
……。
俺とスカーレットさん。
二人で聖女の資料を見に行く。
「…………」
これって――
デート?
いや、待て。
落ち着け、ケンジ。
これは聖女の資料を見に行くだけだ。
歴史資料だ。
研究だ。
「ケンジさん?」
「はい!」
思わず声が大きくなった。
「どうしました?」
「いえ、なんでもないです!」
俺は笑顔を作った。
心の中では――
(よし!!)
休日に。
可愛い女の子と。
二人でお出かけ。
(これ、どう考えてもデートだろ!!)
俺の休日が、突然輝き始めた。




