第四十六話 魔法薬・青
研究室の一室。
今日は、魔力薬についての勉強をしていた。
「魔力薬には、いくつか種類があります」
リンダさんが説明してくれる。
「初級は赤。中級は紫。そして上級は青です」
「へぇーー」
俺が素直に頷くと、みんなが俺を見る。
「……ケンジさん、知ってましたよね?」
「いや、全然知りません」
「……」
どうやら、俺以外は知っているのが当たり前らしい。
「それから、同じ種類でも色が濃いほど効果が強いとされています」
「へぇーー」
俺はまた頷いた。
するとロイド室長が、一本の試験管を取り出した。
中には、濃い青色の液体が入っている。
「これは先日、ケンジ君が吐き出したものです」
「あ、それ魔法薬ですよね」
「……そうです」
ロイド室長が試験管を見る。
「上級の魔法薬です」
「へぇ」
「それも……こんなに色の濃いものは、初めて見ました」
ロイド室長は、青い液体をじっと見つめている。
「これなら、もしかしたら四肢の復元も可能かもしれません」
「四肢の復元?」
俺は試験管を見る。
そこで、ふと思い出した。
「……あ」
「どうしました?」
「そういえば、ギレンさんの腕、生えましたよ」
「…………」
全員が固まった。
「…………は?」
リンダさんが声を漏らす。
「腕が……?」
リンクさんも目を見開く。
「生えた?」
「はい」
俺は普通に頷いた。
「腕を失っていたんですけど、肩から先まで、ちゃんと生えましたよ」
「はぁぁぁぁぁ?!!!!」
研究室中に声が響いた。
「腕が生えた?!!」
「肩から先まで?!!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
みんなが一斉に俺を見る。
俺は何がそんなに驚くことなのか分からなかった。
「……ギレンさん?」
リンダさんが混乱したように聞く。
「誰ですか?」
「ああ。前の街にいた人です」
「いや、そこじゃなくて!」
リンクさんが叫ぶ。
「腕が生えたって、どういうことですか?!」
「そのままですけど」
「そのまま?!」
研究室が騒然としている。
ロイド室長だけは、黙って俺を見ていた。
そして――
「……ケンジ君」
「はい?」
「どうやって?」
「魔法薬です」
「……」
ロイド室長の視線が、手元の試験管に移る。
「……この魔法薬を?」
「はい」
俺は頷く。
「ギレンさんが飲んだら、生えました」
「…………」
ロイド室長は、青い液体を見つめる。
「……魔法薬は、どこから出てきたんですか?」
「鼻です」
「……鼻?」
「はい」
俺は頷く。
「鼻から出てきたので、慌てて飲んじゃって」
「…………」
「それで、口から出ました」
研究室が静まり返った。
ロイド室長は、手の中のスポイトを見つめている。
そして、ゆっくり顔を上げた。
「……ちょっと失礼」
「え?」
次の瞬間。
ロイド室長の手が、俺の顔をガッと押さえた。
「痛い、痛い!」
そのまま顔を固定される。
ロイド室長は、俺の鼻の穴をじっと凝視している。
「……」
「……」
「室長?」
「……なるほど」
何がなるほどなのか、俺にはさっぱり分からない。
ロイド室長は、しばらく俺の鼻を見つめていた。
そして――
「みなさんも見てください」
「え?」
リンダさんとリンクさんが近づいてくる。
「ちょ、ちょっと……」
リンダさんに顔を押さえられた。
「痛い、痛い!」
リンクさんも反対側から俺の顔を押さえる。
そして――
三人の顔が、ものすごく近い。
「……」
俺は黙った。
鼻の穴を見られている。
それだけだ。
これは研究だ。
魔力薬の研究。
そう、研究。
……でも。
近い。
めちゃくちゃ近い。
リンダさんの顔が、目の前にある。
リンクさんの顔も近い。
ちょっと顔を動かしたら――
……いや。
動かさなくても、あと少し近づいたら。
キスできちゃうんじゃないか?
「…………」
いやいやいや。
何を考えてるんだ、俺は。
鼻の穴を見られてるだけだぞ。
しかも三人が真剣に観察している。
「……」
それなのに。
近い。
ものすごく近い。
「ケンジ君、もう少し上を向いてください」
「はい」
言われた通り、顔を上げる。
さらに近くなった。
……近いって。
俺は心の中で叫びながら、必死に真顔を保っていた。




