第四十四話 魔法薬研究会
王都に来てから、俺の生活もだいぶ決まってきた。
治癒魔法の研究が週に二回。
ただし、実際に身体に触れてもらう実技は週に一回。
……触ってもらえるのは嬉しい。
ものすごく嬉しい。
でも、あれは刺激が強すぎる。
いろいろとまずい。
なので、実技は週一回にしてもらった。
そして、一日は第一師団の手伝い。
ブラッドさんにも、少し気に入ってもらえたような気がする。
残りの二日は――
「魔法薬研究チームの手伝いをお願いしたいのですが」
ロイド室長から、そう頼まれた。
王宮には薬草園があり、そこで育てた薬草を使って魔法薬を作っているらしい。
俺は魔法薬を作ったことがない。
もちろん、作り方も知らない。
「分かりました」
というわけで、今日は魔法薬研究チームとの顔合わせだった。
「こちらがリンダさんとリンクさんです」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
二人とも美人だった。
……美人姉妹か。
続いて、
「こちらがミルさんとシルさんです」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
今度はイケメン兄弟。
……なんだ、この研究室。
顔面偏差値が高すぎないか?
俺はそんなことを考えながら、挨拶をした。
「よろしくお願いします」
すると、リンダさんが魔法薬をいくつか見せてくれた。
「こちらが、現在研究している魔法薬です」
「これが……」
俺は瓶を眺める。
「この魔法薬は、どの程度の傷まで治せるんですか?」
「深い傷でなければ、傷口に振りかけて、半日ほどで治ります」
「半日……」
俺は魔法薬を見る。
「半日もかかるんですか?」
「……」
「……」
空気が止まった。
「あ……」
俺は気づいた。
今の言い方、かなり失礼だったんじゃないか?
五年も研究してきた人たちに向かって、何を言ってるんだ俺は。
「いや、でも……」
慌てて言葉を続ける。
「五年で一時間短縮できたんですよね?」
「はい……」
シルさんが答える。
「だったら、あと二十年くらい研究すれば、四時間くらいは短縮できますね!」
「…………」
……あれ?
さらに空気が重くなった。
「いや、違うんです!」
慌てて訂正する。
「そういう意味じゃなくてですね!」
「……」
「緊急時に使えなくても、平常時なら役に立ちますよね!」
四人を見る。
「重症じゃない人なら、半日で治るんですから!」
……。
……あれ?
これもダメか?
俺は必死に言葉を探す。
「その……」
「普通に考えたら、半日で治るのも十分すごいですよね」
誰も答えない。
……。
まずい。
完全にやらかした。
しかも、最初の顔合わせで。
俺は黙った。
さっきまで普通に挨拶していたのに、今では全員の間に妙な空気が流れている。
「……では」
リンダさんが静かに口を開いた。
「薬草園へ行きましょうか」
「あ、はい!」
俺はすぐに返事をした。
四人についていく。
……。
気まずい。
ものすごく気まずい。
俺、絶対に余計なことを言ったよな。
後ろを歩きながら、俺は反省していた。
……もう何も言わない。
薬草園では、黙って話を聞こう。
そう心に決めた。
王宮の廊下を歩き、やがて薬草園へと続く扉の前に到着する。
リンダさんが扉を開けた。
「こちらが薬草園です」
「……おお」
俺は思わず声を漏らした。
そこには、見たことのない薬草がいくつも植えられていた。
色も形も様々で、普通の植物とは明らかに違うものまである。
「すごいなぁ……」
さっきまでの気まずさなんて、もう忘れていた。
「これが全部、魔法薬に使われるんですか?」
「はい。薬草によって使い方が違います」
「へえ……」
俺は薬草園を見渡した。
なんというか――
こういうの、あれだよな。
完全に聖女的なアレみたいな感じだな。
薬草園。
魔法薬。
王宮。
……なんか、それっぽい。
「……聖女っているのかなぁ」
思わず口に出ていた。
「聖女?」
リンクさんが首を傾げる。
「あ、いや。なんでもないです」
俺は慌てて誤魔化した。
でも、気になる。
この世界に聖女っているんだろうか。
もし、いるとしたら――
多分、美人だよなぁ。
聖女なんだから。
きっとこう……清楚で。
綺麗で。
優しくて。
……いや。
俺は何を考えているんだ。
魔法薬の研究だ。
今は研究。
「ケンジさん、こちらの薬草から説明しますね」
「あ、はい!」
俺は急いでリンダさんのところへ向かった。
……でも。
聖女。
いるのかなぁ。
ちょっと会ってみたいなぁ。




