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煩悩だらけの異世界転移 ~裸が見たいだけなのに聖人扱いされています~  作者: kammy


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第四十三話 明鏡止水

「あれ、明鏡止水ってどういう意味だっけ?」


俺は簡易ベッドに横になったまま、ふと思った。


たしか……心を落ち着けるとか、そんな意味だった気がする。


たぶん。


今みたいな状況で使う言葉だ。


……たぶん。


「ケンジ君」


「はい?」


「少し、治りましたかね?」


ロイド室長に言われて、俺は腕を見る。


「……本当ですね」


さっきより、ほんの少しだけ傷が小さくなっている。


「やはり、傷のない部分も見ることで、少し効果が出るようですね」


「私も無詠唱が使えた、ということですね!」


スカーレットさんが、ぱっと顔を輝かせた。


「はい。今までできなかったことが、できています」


「やったぁ!」


スカーレットさんが両手を握って喜ぶ。


「本当にできた……!」


ものすごく嬉しそうだ。


「私、無詠唱で治癒魔法が使えたんですね!」


「そうですね」


「すごい……!」


スカーレットさんは嬉しそうに俺を見る。


……可愛い。


そして俺の心の中では。


わっしょい!!


わっしょい!!


祭りだ!!


いや、待て。


落ち着け俺。


これは研究だ。


治癒魔法の研究。


そう。


研究。


「ありがとうございます、ケンジさん!」


「いえ。俺は何もしてませんよ」


……傷をつけたくらいだ。


「これは、他の研究者でも試してみる価値がありますね」


ロイド室長が言った。


「はい!」


スカーレットさんが元気よく答える。


そして、研究室にいる他の研究者たちに今回の方法を説明し始めた。


「まず傷を確認して、それから傷のないところを見るんです」


「身体全体をイメージするんですね」


「はい!」


「それから触れる、と」


「そうです!」


スカーレットさんは嬉しそうに頷いた。


「私、ケンジさんで試したんです!」


「私もやってみたいです!」


「私も!」


「次、私がいいです!」


研究者たちが一気に盛り上がる。


……なんだ、この状況。


俺の心も盛り上がっている。


わっしょい!!


わっしょい!!


いや、落ち着け!!


表情は真顔。


心は祭り。


これだ。


そして、実験が始まった。


一人目。


まず傷を確認する。


それから上半身の傷のない部分を観察する。


そして、そこに触れる。


「……!」


しばらくすると、彼女が顔を上げた。


「少しですが、治っています!」


「本当ですか!?」


スカーレットさんが嬉しそうに声を上げる。


「はい!」


「すごい!」


わっしょい!!


二人目。


同じように傷を確認する。


身体の別の部分を見る。


そこに触れる。


「……治っています!」


「やった!」


わっしょい!!


三人目。


「私もやってみます!」


「はい、お願いします」


傷を確認。


上半身を観察。


そして、傷のない部分に触れる。


「……あっ!」


「どうですか?」


「少し、治っています!」


「すごい!」


わっしょい!!


四人目。


「次、私です!」


「どうぞ」


同じように身体を確認していく。


「……本当だ。私にもできます!」


「やった!」


わっしょい!!


五人目。


「最後、私ですね」


「はい」


傷を確認。


身体全体を観察する。


そして、傷のない部分に触れる。


「……治っています!」


「成功です!」


研究室が歓声に包まれる。


「すごい……!」


「今までの常識が変わるかもしれません!」


「もっと練習したいです!」


みんなが嬉しそうに話している。


五人全員が、無詠唱で治癒魔法を使うことができた。


研究としては、大きな成果だ。


そして俺も嬉しい。


ただし――


俺の喜び方は、ちょっと違う。


わっしょい!!


わっしょい!!


わっしょい!!


……俺、今日ここに来てよかった!!


「私も、最後に試してみてもいいですか?」


その声を聞いた瞬間。


俺の心が止まった。


ウィルチさんだった。


……最後。


六番目。


「もちろんです」


俺は平静を装う。


ウィルチさんが近づいてくる。


まず、腕の傷を確認する。


そして、傷のない部分をじっくり観察する。


……近い。


かなり近い。


ものすごく近い。


俺のすぐそばで、ウィルチさんが真剣な表情で身体を観察している。


そして――


手が、傷のない部分に触れる。


「……」


俺の心の中。


わっしょい!!


わっしょい!!


わっしょい!!


最高潮!!


さらに、ウィルチさんが少し顔を近づけて観察する。


手も動く。


「……っ」


声にならない。


⭐️△✖︎✖︎⚪︎❤️


危ない。


これは本当に危ない。


声に出すな。


顔にも出すな。


俺は必死に耐える。


明鏡止水!!


明鏡止水!!


……これ、絶対こういう意味じゃないよな。


「……少し、治りましたね」


ウィルチさんが言った。


「本当ですか!?」


スカーレットさんが嬉しそうに声を上げる。


「はい。ちゃんと効果があります」


「すごい!」


研究者たちが一斉に喜ぶ。


研究としては大成功。


無詠唱の治癒魔法を、六人が実際に使えることが確認できた。


そして俺は――


「……」


真顔で横になっていた。


心の中では。


わっしょい!!


わっしょい!!


わっしょい!!


……明鏡止水。


最後まで、その意味はよく分からなかった。

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