第四十二話 スカーレットの治癒魔法❤️
「こんなことなら、私が先に試せばよかった……」
昼食中、スカーレットさんがぼそっと呟いた。
「何がですか?」
俺が聞くと、スカーレットさんは箸を止めた。
「さっきの治癒魔法の実験です」
「ああ」
「ロイド室長、ずるいです」
「ずるい?」
「だって、最初に成功したのは室長じゃないですか」
どうやら、さっきの実験がかなり悔しかったらしい。
スカーレットさん、可愛いな。
……よし。
「スカーレットさん、このあと時間ありますか?」
「はい。時間はありますけど……」
「俺がナイフで腕に傷をつけるので、治してください」
「自分で傷をつけるんですか?」
「そうです」
「そう言えば、前にケンジさん――」
ウィルチさんが口を挟んだ。
「あのとき、ブレンダに顎をかち割られてましたよね?」
「そうですね」
「痛くなかったんですか?」
「めちゃくちゃ痛かったですよ」
「……じゃあ、なんで平気なんですか?」
「治るんで」
「……」
スカーレットさんが俺を見る。
ウィルチさんも俺を見る。
「だから、大丈夫です」
「いやいやいや!」
スカーレットさんが慌てて首を振った。
「自分で傷をつけるなんてダメですよ!」
「大丈夫です」
「……本当に?」
「はい」
「では、食事が終わったら研究室でやりましょう」
「はい!」
スカーレットさんが頷いた。
よし。
午後の実験が楽しみだ。
◇
研究室に戻ってきた。
「じゃあ、やりましょうか」
俺はナイフを取り出した。
そして、自分の腕に傷をつける。
「……っ!」
めちゃくちゃ痛い。
分かっていた。
治ることも分かっている。
それでも痛いものは痛い。
俺は涙目になりながら、スカーレットさんを見る。
「……では、やってみましょう」
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫です……」
俺は傷ついた腕を差し出した。
スカーレットさんが恐る恐る手を伸ばす。
「では、お願いします」
「はい!」
スカーレットさんが治癒魔法を試し始めた。
しばらくしても、傷はほとんど変わらない。
「……治りません」
スカーレットさんが困った顔をする。
ロイド室長が俺の腕を見る。
「魔力の動きは感じます」
「そうですね」
俺には全然分からない。
でも、ここは研究者っぽく頷いておこう。
「ただ、傷にうまく作用していないようです」
「なるほど……」
スカーレットさんが、俺の傷をじっと見る。
しかし――。
「……やっぱり、治りません」
「では、傷に触れてみましょう」
スカーレットさんが傷に触れる。
しばらく治癒魔法を続ける。
……それでも、ほとんど変化はない。
「駄目ですね」
ロイド室長が傷を確認する。
「先程は、身体全体を見ることでイメージできました」
「なるほど」
俺にはよく分からないが、分かったふりをして頷いておく。
「では、他の部分も見てみましょう」
「他の部分?」
「ええ。傷のないところを確認してみましょう」
なるほど。
さっきの実験と同じだ。
「ケンジ君」
「はい」
「服を脱いで、横になってください」
「分かりました」
俺は何も考えずに答えた。
研究だからな。
最初の兵士のときも、同じだった。
俺は上半身の服を脱いだ。
「では、横になってください」
「はい」
言われるまま、簡易ベッドに横になる。
スカーレットさんが俺を見る。
そして、傷のないところを確認するために近づいてくる。
……。
ここで、ようやく俺は気づいた。
あれ?
俺、今、裸で横になってるよな?
しかも――。
スカーレットさんに触られる。
……。
これは!!
夜のお店の、あのシーンでは?!!
いやいや。
違う。
これは治癒魔法の研究だ。
……ヤバス。
これは予想以上にいい!!
いや、待て。
反応するな。
ニヤけるな。
ここで表情を変えたら、色々バレる。
明鏡止水。
明鏡止水。
……いまは、イロイロ耐えろ。




