第三十七話 旅立ち
王都の魔法研究室で働くことを決めた俺は、一度ギルドへ戻ってきていた。
まずは、カストロさんに報告しないとな。
「カストロさん、少しお時間いいですか?」
「おう。どうした?」
「報告があります」
俺は魔法研究室で働くことになったことを話した。
「そうか。決めたんだな」
「はい」
「どうだった? 魔法研究室は」
「治癒魔法について、本格的に研究しているみたいです」
「それなら、お前には合ってるかもしれんな」
「俺もそう思います」
俺は少し考えてから、口を開いた。
「治癒魔法は、人を救うためのものですから」
「……」
「もっと研究を続ければ、今まで治せなかった怪我や病気も、治せるようになるかもしれません」
「……そうだな」
「少しでも世の中の役に立てるなら、俺も頑張ってみようと思いました」
カストロさんは、しばらく俺の顔を見ていた。
「……お前、本当に変わったな」
「え?」
「最初に会った頃は、もっと目立ちたくないって感じだっただろ?」
「今でも目立ちたくないですよ」
「ははは! そうだったな」
カストロさんが笑った。
俺もつられて笑う。
それから、もう一つ伝えておきたいことがあった。
「それと、魔法薬なんですが」
「ああ」
「俺がギルドを辞めても、定期的に届けようと思っています」
「本当か?」
「はい。ただ、俺一人で運ぶのは大変なので、ギルドから冒険者をよこしてもらえれば、その人に渡します」
「それは助かる」
カストロさんは少し考えてから尋ねてきた。
「報酬はどうする?」
「報酬ですか?」
「ああ。今まではギルド職員だったから、特に払ってなかっただろ」
「そうですね」
「これからは立場が違う。ちゃんと報酬は――」
「最低限でいいです」
「……最低限?」
「はい。俺としては、研究のほうが大事なので」
カストロさんは呆れたような顔をした。
「お前なぁ……魔法薬って、そんなに安いものじゃないんだぞ?」
「そうなんですか?」
「……知らなかったのか」
どうやら、俺が思っていたより魔法薬には価値があるらしい。
まあ、必要な分だけ貰えれば十分だ。
「じゃあ、報酬についてはギルドに任せます」
「わかった。そうしておこう」
「ありがとうございます」
これで、俺がギルドを辞めても、完全に縁が切れるわけじゃない。
少しだけ安心した。
「それで、王都にはいつ戻るんだ?」
「明日にでも戻ろうと思っています」
「そうか。なら、赤の連撃にはもう一度護衛を頼んである」
「え?」
「お前一人で戻すわけにもいかんからな。あいつらも快く引き受けてくれた」
「ありがとうございます」
「なに、気にするな」
赤の連撃には、魔の森から王都まで送ってもらったばかりだ。
まさか、もう一度護衛をしてもらうことになるとは思わなかった。
「王都に着いたら、赤の連撃のみんなとはお別れですね」
「ああ。だが、冒険者なんてそんなもんだ。別の依頼でまた会うこともあるさ」
「そうですね」
そう言われると、少し寂しい。
短い間だったけど、いろいろあったからな。
俺はカストロさんに頭を下げた。
「今まで、本当にありがとうございました」
「こっちこそだ。お前と一緒に働けてよかったよ」
「……はい」
さて。
もう一人、ちゃんと挨拶しておかないとな。
俺は治療所へ向かった。
「シルヴィアさん」
「あ、ケンジさん。どうしました?」
「ちょっと報告がありまして」
「報告?」
「俺、王都の魔法研究室で働くことになりました」
「……そうですか」
シルヴィアさんは少し驚いた顔をした。
「じゃあ……王都に住むんですか?」
「たぶん、そうなると思います」
「そうですか……」
少しだけ寂しそうに見えた。
……なんだろう。
こういう顔をされると、ちょっと申し訳なくなるな。
「でも、たまには帰ってきますよ」
「本当ですか?」
「はい。ギルドにも用事がありますし、魔法薬も届けますから」
「それならよかったです」
シルヴィアさんは、ほっとしたように笑った。
……やっぱり美人だな。
じゃなくて。
ちゃんと別れを伝えないとな。
「それじゃあ、そろそろ行きますね」
「はい」
「シルヴィアさんも、お元気で」
「ケンジさんもですよ」
そこで、シルヴィアさんが少し真剣な顔になった。
「ちゃんとご飯は食べるんですよ?」
「……はい」
「無理しちゃダメですからね」
「はい」
「怪我をしたら、すぐに治療するんですよ?」
「はい」
「夜更かしもしちゃダメですよ」
「……はい」
「知らない人についていったりもしちゃダメですからね」
「俺、子供じゃないんですけど……」
「王都は知らない人ばかりなんですから。気をつけてください」
「……はい」
完全にお母さんだった。
でも。
嫌じゃない。
むしろ、こんな綺麗な人に心配してもらえるのは、ちょっと嬉しい。
「それじゃあ、行ってきます」
「はい。気をつけてくださいね」
「ありがとうございます」
俺は治療所を出た。
翌日。
赤の連撃のみんなと合流し、俺たちは再び王都へ向かうことになった。
「今回もよろしくお願いします」
「気にするな」
ソードがいつものように答える。
「王都までなら、もう慣れたもんだね」
ブレンダが笑う。
「研究室のこと、また聞かせてくださいね」
ウィルチも笑顔で言った。
「俺も楽しみにしてるぞ」
シードもいつもの調子だ。
「はい!」
そして俺たちは王都へ向かった。
道中は特に問題もなく、俺たちは無事に王都へ到着した。
「じゃあ、俺たちはここまでだな」
ソードが言った。
「はい。今までありがとうございました」
「また会うだろ」
「そうですね」
ブレンダ、ウィルチ、シードとも、それぞれ別れの挨拶を交わす。
短い間だったけど、本当にいろんなことがあった。
赤の連撃のみんなには、何度も助けてもらった。
「また会いましょう」
「うん」
「元気でね」
「研究、頑張れよ」
「はい!」
赤の連撃のみんなと別れ、俺は王都を歩き出した。
これからは、ここが俺の新しい生活の場所になる。
そして。
今まで働いていたギルドのことを思い出す。
カストロさん。
シルヴィアさん。
冒険者のみんな。
なんだかんだ、このギルドは居心地がよかったな。
俺は少しだけ振り返った。
……でも。
王都には、二桁を超える可愛い女の子たちが待ってるぜ。
よし。
「みなさん、いってきまーす!」
俺は、新しい職場へ向かって歩き出した。




